149.息子、邪竜のためにおかゆを作る【後編】
食欲のない母のために、リュージはおかゆを作って、母の元へやってきた。
「りゅーくんが……おかゆを? お母さんのために……おかゆを!?」
ベッドに半身を起こしていた母が、クワッと目を見開く。
「うん。食べれる?」
「……………………やったーーーーーー!」
カルマはそのままの体勢で、天井をぶち破ってどこかへとすっ飛んでいった。
ややあって、母が戻ってくる。
「ありがとうりゅーくん! 優しい! だいすき! むちゅ~♡」
カルマがリュージを抱きしめ、ちゅっちゅっ、とキスをする。
母が元気そうで、リュージはホッとした。
「げほっ! ごほごほっ!」
と思ったら、カルマが咳をする。
「ああもう、調子悪いんだから、無理しないでよ」
「うう……ごめんねりゅーくん。でもでもっ、りゅーくんが優しくて大好きっ♡ 好き好き♡ もういっぱいちゅーしちゃいたい♡」
母がタコみたいに唇をとがらす。
リュージは苦笑して、彼女の口に、スプーンを突っ込む。
「どうかな?」
「うん! おいしいよ! 天上の食べ物ですねこれは! もう永久保存しておきたいレベル!」
「そんなことしないでいいから。ほら、あーん」
「あーん♡ えへへ~♡ 大好きなりゅーくんにあーんしてもらえる、幸せ~♡」
デレデレとした顔で、カルマはリュージからおかゆを食べさせてもらった。
ややあって。
「母さん、具合どう?」
「もうばっちり! ウルトラ元気ですよ!」
カルマはベッドから飛び起きて、小指一本で逆立ちし、腕立て伏せを始めた。
「だからもうっ! やめてって! 病み上がりなんだからもぉ」
リュージがカルマの肩を掴んで、ベッドに押しつける。
「げほごほっ! げほっ! す、すみません……」
「ちゃんと安静にしてなきゃダメだよ?」
「ふぁーい……」
珍しく母がリュージの言うことに素直に従ってくれた。
「母さん……本当に大丈夫? 無理してない?」
「そんなわけないですよ! 無理なんてしてないしてない!」
「……なら、いいけど」
なんとなく、りゅーじはカルマが、いつも通りではないような気がした。
素直に大人しくなったこととか。
そもそも母が病気するなんて(仮病以外では)全くなかったことだから。
今の母は、仮病ではないと思う。
それに、最強邪神の力を取り込んだ母が、そもそも病気なんてするだろうか……?
「もうっ、りゅーくん、そんな怖い顔しちゃダメですよ! ほら、スマイルスマイル♡ りゅーくんのかわいい笑顔、お母さんに見せてくださいね~♡」
えへへ~とカルマが笑う。
その脳天気な笑みを見て、リュージは脱力した。
「うん。わかったよ」
「それでこそりゅーくん! はぁ~♡ うちのこは素直で可愛くてウルトラ優しい最強の息子ですよぅ♡」
「はいはい。じゃあ大人しく寝てね」
「えー!? りゅーくんが一緒に寝てくれるんじゃないの-!?」
「そ、そんな恥ずかしいことしないよ……」
「やだやだ! りゅーくん一緒に寝てくれなきゃいやだー! お母さんグレてこの星破壊しちゃいますよ!?」
「わ、わかったよ……一緒に寝るから」
「わーい♡」
カルマが隣に避ける。
リュージはため息をついて、カルマの隣に寝ころんだ。
いつもは恥ずかしくて、拒否している。
けれど今カルマは調子が悪い。
少しでも元気になってくれれば……と思って、提案を受け入れたのだ。
「えへへっ♡」
カルマがリュージの体に抱きつく。
「あったかい♡ お母さんね……りゅーくんの温かい体、だぁいすきなんですよ♡」
ぎゅーっ、とカルマが力一杯だきしめる。
「げほっ、ゴホッ……あなたのぬくもりにね、お母さん救われたんです。だからこのぬくもりだけは……絶対に、手放したくないんですよ」
「……母さん?」
リュージは母を呼ぶ。
だが彼女からの返事はなかった。
おそらく、眠ってしまったのだろう。
寝付きのいい人だ。
「母さん、おやすみ……」
「おやすみ……りゅーくん……」
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