148.邪竜、寝込む【後編】
リュージが冒険者の仕事として、部屋を出て行った数時間後。
カルマは、目を覚ました。
「ここは……?」
「カルマ!」
ベッド脇に座っていたチェキータが、カルマの体に覆い被さる。
むぎゅっ、とその軟らかな体で、カルマを包み込む。
しばし、カルマは無言で、チェキータに抱かれていた。
ややあって。
「……苦しいですよ。その無駄肉をとっとと避けてください」
チェキータはホッとした。
カルマの減らず口を聞けたからだ。
そこまで、快復したということだろう。
チェキータはカルマから離れる。
ゆっくりと、カルマは上体を起こす。
「私は……いったい……?」
「血を吐いて、倒れたのよ」
「……そう」
カルマは、驚いている様子がなかった。
チェキータは重々しく言う。
「……あなた、わかってたのね。自分の体の不調」
「まあ……なんとなく」
チェキータはキュッ、と下唇をかみしめる。
「……ごめんね、カルマ」
「え? なっ、なんであなたが謝ってるんですか?」
「……わたし、監視者なのに。あなたの不調に、気付いてあげられなくて……ごめんね……」
ぽた……とチェキータの頬から涙が伝う。
「い、いや何言ってるんですか。あなたの仕事は、私が悪事を働かないかどうかの監視だけであって、別に体調管理まではしてないでしょ?」
「それはそうだけど……けど、ごめんなさい」
チェキータが頭を下げる。
「や、やめてくださいよ! そういうの……あなたらしくないですよ!」
カルマがチェキータの肩をつかんで、揺する。
「私はほら、大丈夫ですから。ね? 安心して?」
「……大丈夫なんかじゃ、ないじゃない」
チェキータは逆に、カルマの肩を掴んで、ベッドに押しつける。
「あなた、自分の体、今どんな状態かわかってる?」
「…………」
「……わかってるのね。……内臓が、ボロボロのズタズタよ。正直、どうして生きてるのか不思議なくらいだわ」
「……なんで知ってるのですか?」
「さっきあなたが倒れてたとき、体の中を魔法でスキャンしたのよ」
「なんでもありですね、異世界ファンタジー」
はぁ、とカルマが吐息をつく。
「いつから?」
「ちょうど、りゅーくんと南の島から帰ってきたあたりでしょうか。最初は、ちょっとお腹崩す位だったんです。けど、だんだん酷くなってきて……」
病状が悪化し、今朝は倒れたと言うことだろう。
「どうして、無理をするの?」
チェキータが、声を震わせながら、カルマに問いかける。
「どうして言ってくれなかったの? わたし、そんなに信用できない?」
「ちっ、違います違います! どうしてそういう結論になるのですか!?」
カルマが慌てて首を振る。
「じゃあ……どうして、すぐ言ってくれなかったの?」
「それは……」
カルマがきゅっ、と唇を結ぶ。
「ねえ、言って? お願い、カルマ……お願いよ……」
チェキータはわかっていた。
カルマの置かれている状況が、とてつもなく逼迫してることに。
彼女は体に、最強邪神の力を持っている。
最強無敵の存在。
それがカルマアビスという邪竜。
そのカルマが、倒れ伏している。
本来なら、あり得ないことだ。
最強が倒れるほどの、酷い状況に、カルマは陥ってるのだ。
「……チェキータ。これ、絶対の秘密にしてくれますか?」
「ええ、もちろん。言って? どうして、わたしに相談してくれなかったの?」
カルマは、何度も、何度も何度も、躊躇しているようだった。
チェキータは待った。
カルマが言ってくれるのを、ずっとずっと待った。
やがて日が暮れて、後数分で、リュージが帰ってくるという頃合い。
カルマが、ぽつり、とつぶやいたのだ。
「……りゅーくんと、ふれ合うとね。体に……ダメージを受けるみたいなんです」
書籍、コミックス第2巻、好評発売中!
すごく頑張って書きました!
鍵山さんと四志丸さんが素晴らしい絵を描いてくださりました!
自信を持ってオススメできます!
よろしければお手にとってくださると、幸いです!