148.邪竜、寝込む【中編】
カルマが倒れてから、数十分後。
カルマはベッドに寝かされていた。
部屋にはチェキータとカルマしか居ない。
チェキータはベッドの隣に座り、カルマの青い顔を見る。
否、青を通り越して、真っ白になっていた。
いつも血色が良く、明るく笑っているカルマが、である。
額に大粒の脂汗をかき、浅い呼吸を繰り返している。
眼下で弱々しく寝込んでいるこの子が、あのカルマアビスだと、チェキータは信じたくなかった。
ややあって、部屋がノックされる。
「あの……チェキータさん?」
ドアが開き、入ってきたのは、カルマの息子リュージだった。
その後に、彼の仲間たち、娘たちが勢揃いしている。
「母さん!」
リュージはベッドに寝る母を見つけ、駆け寄る。
具合悪そうに寝る母を見て、リュージは言葉を失っていた。
「るぅちゃん、ばぶちゃん……外行ってましょうなのです」
「けど。かるま。かるま。が」
「……行こう、ルコ。わしらがいてもどうにもならぬ」
シーラがすかさず幼女たちを連れて、その場を後にする。
さとい子だ、とチェキータは感心した。
「……カルマは、大丈夫なの?」
ルトラがチェキータに問うてくる。
「チェキータさん! 母さんは!? 母さんは大丈夫なのっ!?」
リュージが詰め寄ってくる。
こんなに必死な彼を見たのは、初めてだったかも知れない。
チェキータは内心の動揺を悟られないよう、細心に注意を払いながら、ニコッと笑う。
「ええ、大丈夫。ただの高熱よ」
「熱……? で、でも血が……」
「ふらついて頭打ったときに、おでこきっちゃったみたいなのよ。ほら」
チェキータが指さす。
カルマの頭に包帯が巻かれていた。
「な、なんだ……そうだったんだ……」
心からの、安堵の表情を浮かべるリュージ。
それを見て、心が痛むのを我慢しながら、チェキータが言う。
「解熱剤はうったから、少しすれば熱も下がって目を覚ますわ」
「良かった……良かったぁ……」
リュージがその場にへたり込む。
「年末年明けと、ちょっと張り切りすぎたのね。まったく、年甲斐もなくはしゃぐんだから……」
やれやれ、とチェキータが首を振る。
「じゃあ……母さんは、すぐ元気になるんですよね?」
「……。ええ、もちろん」
チェキータの笑みを見て、リュージが大きく安堵の吐息をついた。
「さっ。ほら今日から仕事なんでしょう? 後のことはお姉さんがやっておきますから、リューは仕事に行きなさい」
チェキータはリュージの背後に回り、背中を押す。
「で、でも……かあさんが……」
「風邪引いて寝込んでいるだけだってば。なぁに、リュー。あなたまでカルマみたいなことを言い出すの?」
リュージは何度も、母の顔をのぞき込む。
「お姉さんのこと、そんなに信用できない?」
「……わかりました」
リュージがうなずく。
「じゃあご飯食べて、ほら出発して」
「はい。……じゃあ、あとでね、母さん」
リュージはそう言って、部屋を出て行く。
あとにはルトラだけが残された。
「なぁに?」
「……アタシ、職業柄、耳が良いんです」
「それが?」
「……いえ。あなたが、そういう判断を下すのなら、アタシはそれ以上何も言いません」
それじゃ、と言って、ルトラが出て行く。
チェキータは小さくと息をつく。
「……わたしも随分、嘘つきになってきたわね。ごめんね、リュー」
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頑張って書きました!
手にとっていただけると幸いです!