147.息子、母と祖母の仲を取り持つ【後編4】
母たちと王都へやってきている。
昼ご飯を食べ、みんなで王都を観光した後、夕方。
リュージ達は、自宅へと帰ってきていた。
カルマには転移スキルがある。
これを使えば、どこへであろうと、一瞬でテレポートできるのだ。
みんな疲れたらしく、家に着いた途端に、みんな眠ってしまった。
リュージもまた仮眠を取り、夜、リビングへと降りてきた。
「…………」
そこにはカルマがひとり、テーブルにひじをついて、物思いにふけっていた。
「母さん」
「あっ! りゅーくん!」
ぱぁ……! と花が咲いたような笑みを浮かべて、カルマが近づいてきた。
「どうしたのりゅーくん?」
「ちょっと目が覚めちゃって」
「そうですか。では眠くなるように、ホットミルクを作りましょう!」
指ぱっちんひとつで、ポットとカップが出現。
カルマがホットミルクの入ったカップを、テーブルの上に置く。
リュージはそれを一口のみ、ほっ……と吐息をついた。
「母さんさ」
「はいはい」
「今日……どうだった?」
「どう……とは?」
リュージは言うかどうか迷って、頭を下げた。
「ごめんね。マキナと母さんがふたりきりになるよう、僕が手を回してたんだ」
「ああ、そうだったのですね……」
母もどうやら違和感は感じていたらしい。
腑に落ちたように、うなずいていた。
「余計なお節介だったかな?」
「……いえ。そんなことは……ないですよ」
いつになく、カルマの歯切れが悪かった。
気を遣っているのだろう。
正直、ちょっといやだったのかも知れない。
リュージは今回の意図を、ちゃんと伝えることにした。
「……僕ね、母さん。母さんとマキナには、もっと仲良くなって欲しいんだ」
「…………」
「僕は母さんから、親子ってどういうものかって教えてもらった。マキナと母さんは、やっぱり今のままじゃおかしいって思ったんだ。だから、もっと仲良くなってほしかったんだよ」
「……そうだったんですね」
きゅっ、とカルマが唇を噛む。
「りゅーくん、あのね。お母さん……別にマキナことが嫌いって訳じゃ、ないんですよ」
「でも、避けてるよね、普段」
「……そうですね。少し、苦手なんです」
「どうして?」
そういうと、カルマはリュージに語る。
カルマの、幼少期のことだ。
ネグレクトを受けていたこと。
さみしい思いをしていたこと。
それらを、母の口から、初めて聞いた。
「それで、ちょっと……苦手なんです」
「そうだったんだ……だったら、なおのこと、仲良くして欲しいよ! 今からでも遅くないって!」
「……けど。私はともかく、マキナはどう思ってるかわからないし」
「マキナだって母さんと仲良くしたいって思ってるよ! 今日の二人を見たら、そんなの明らかじゃん!」
リュージは影からこっそり、ベンチに座るカルマたちを見ていたのだ。
カルマも、そして普段無表情のマキナでさえも、楽しそうに笑っていたではないか。
「母さんが思っている以上に、マキナは母さんのこと好きなんだよ」
「でも……でも……だって……」
いつも幼い言動が多いカルマだったが、このときは特に、幼く見えた。
ぐずっている赤ん坊のように見えた。
「マキナは絶対母さんのこと好きだって。ネグレクトしてたのも……きっと何か理由があったんだよ」
「理由って……?」
「それは……わからない。けど! マキナが、親が何の理由もなく、子供を置いてどこかへ行くなんて考えられないよ」
リュージはカルマの手を握って、まっすぐ目を見ていう。
「母さんだって、そうだったじゃん。僕のこと、誰よりもずっと考えててくれた。親ってそういうものじゃないの? 少なくとも、僕は母さんからそう教わったよ?」
カルマが顔を上げる。
その目が、泳いでいた。
しばらく沈黙が続く。
ややあって、目を閉じて、カルマが深くため息をついた。
「……そうですね」
カルマは目を開けて、ふっ……と微笑む。
「そうかもしれません。今日……マキナと一緒に居て、私も、考えを改めました。あの人は、思っているよりも、普通の親なのかもしれません」
カルマは微笑んで、リュージに言う。
「近いうち、マキナと真剣に、話してみようと思います。昔のこととか、いっぱい」
良かった! とリュージは心の中で、深く安堵の吐息をついた。
リュージは手を離して、笑う。
「いろいろありがとう、りゅーくん。お母さん……りゅーくんが優しくて思いやりのある子に育ってくれて、本当にうれしかったわ」
カルマは微笑んで、リュージの体をハグする。
「も、もう……やめてよ、母さん。はずかしって」
「誰も居ないじゃないですかー♡ はぐはぐ~♡」
……その後、抱きついてくる母を引き剥がし、リュージは眠りについた。
上手くいきそうで、良かったと、リュージは思ったのだった。
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