19.邪竜、(遠隔操作で)息子を強くする【後編】
母の開発した、自動迎撃システムのせいで、リュージは敵を倒せず、レベルが上がらないでいた。
その問題を解決するべく、母が動き出した。
またろくでもないことにならなければいいのだが……。
翌日。
リュージが起きると、すでに食卓には、朝食が並んでいた。
「はいどうぞっ! たーんとおたべっ!」
にこーっと笑顔でカルマが言う。
「……変な食材使ってないよね?」
以前、母は食べると強くなる料理を作ったことがある。
「まさか。普通の料理ですよ。りゅー君に誓って嘘は言ってません」
「そこって普通、神に誓ってとかじゃないの?」
「? 同じ意味ではないですか」
母の中で息子=神の図式が普通に成り立ってるようだ。
戦慄するリュージは、シーラとともにご飯を食べる。
食べても腹が満たされるだけで、以前のように不思議な力がわいてくる感じはない。
どうやら普通の料理のようだ。
「はぐはぐ、まぐまぐ。はぁ~……。カルマさんのお料理、今日も最高なのです~……」
テーブルの上の料理を、残さず食べるシーラ。
小柄な見かけによらず、健啖家なのである。
「当然です。マイエンジェルりゅー君にまずいものを食べさせるわけがないでしょう。おかわりはいりますかシーラ?」
「いりますー!」
シーラに料理を褒められて、カルマはまんざらでもないようだ。
食事を終えて、リュージたちは冒険へ出発する。
「今日は討伐クエストだけど……母さん、あの光のビーム、やめてねっ」
リュージは昨日のうちに、母に釘を刺しておいた。
「わかってます」
「武器は強化してないのよね?」
「してません」
「先回りしてモンスターを動けなくしてるのも無しだよ」
「心得てます」
……前にもこんなことがあったので、リュージは母の言葉を一切信用してなかった。
「りゅー君。少しはお母さんを信じてください」
まっすぐに母が、自分を見てくる。
その目にはやましいところは何もないようだ。
「……わかった。行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい。気をつけて」
そこだけ切り取ると、普通の母親のようだ。
母は笑顔で、ぶんぶん! と手を振るっている。
息子が冒険に出かけることに、何の不安も抱いてないようだ。
一般家庭のお母さんが、それをやるなら何も感じない。
ただ問題は、うちの母が規格外であることだ。
あの超絶過保護な母が、何の準備もせず、果たして息子を、安心して冒険に送り出すだろうか……?
はっきり言って、答えは否である。
「どうせまた何かしてくるんだろうな……」
母が何かトラブルを起こさないと、逆に不安になるリュージであった。
それはさておき。
リュージたちは近くの森へやってきていた。
「今日はワイルド・ボアの討伐だ」
「イノシシさんを倒すのです。がんばろ、リュージくんっ!」
ワイルド・ボアとは森の中に生息する、猪型モンスターだ。
受付嬢のお姉さんは、ちょっと二人にはキツイかもね、と言っていた。
今のリュージたちで、ぎりぎりで勝てるくらいの強さらしい。
「力を合わせて頑張ろう」
「はいなのですっ!」
森の中を進むリュージたち。
ややあって、森の奥で、普通より一回りくらい大きなイノシシを発見する。
「あれだ! 僕がおとりになるから、シーラは魔法の準備」
「了解なのです!」
シーラが魔法を使うべく、精神を集中させる。
「よーしっ!」
リュージはしゃがんで、茂みの中を動く。
回り込むようにして、ボアに近づく。
そして……リュージはバッ! と茂みから、躍り出た。
「へっ……!?」
素っ頓狂な声を出すリュージ。
驚く間に、身体が勝手に、ボアに向かって超スピードで近づく。
「りゅ、リュージくんっ?」
シーラが驚く間に、リュージは腰の剣を抜く。
軽業師のように、前方に向かって飛び上がると、そのままクルクルと縦回転切り。
ざしゅうぅ……!
と、ボアの背中を丸鋸のように割いた。
「え、なに!? 身体が勝手に!」
着地したリュージはそのままビョンッ! と敵へ向かって飛ぶ。
ボアの両腕両足を、光の速さで切り落とす。
動けなくなったボアの心臓に、リュージはグサッ! と剣で突き刺す。
……その間、わずか5秒にも満たない時間だ。
やがてリュージは……身体の自由を取り戻し、その場にへたり込む。
「すごいすごい、すっごーい!」
隠れていたシーラが出てきて、リュージに笑顔で近づく。
「とってもすごかったのです! こう、びゅーんびゅんって! 熟練の剣士みたいな動きだったのです!」
はわぁ……っと尊敬のまなざしを向けてくるシーラ。
「いったいいつの間にあんなに強くなってたのです?」
「いや……今、僕何もやってない」
ほえ、と首をかしげるシーラ。
「だから……僕の身体が、なんか勝手に動いて……」
と、そのときだ。
「ガォオオオオオオオオオ!!!」
茂みの影から、ワルイド・ベアが出てきた。
大型の熊モンスターだ。
ワイルド・ボアより遙かにつよく、今のレベルでは、リュージたちは手も足も出ない。
死んだ……とリュージは目を閉じたが、
ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン!!!
「がぁああああああああああ………………」
ずずぅー……ん。
と、何かが倒れる音がする。
何だと思って目を開けると……そこには、細切れになった熊の死体があった。
「す、すっごぉおおおい!!!」
シーラがぴょんぴょんぴょんっ、とその場で飛び跳ねる。
「リュージくん天才なのですっ! こう、ずばば、しゃしゃしゃっ、て、縦横無尽に熊さんを切り刻んでたのです!」
喜ぶシーラ。
だが……リュージはそんなふうに、切り刻んだ覚えはない。
正確に言うなら、自分の意思で身体を動かした覚えがない。
だがシーラはリュージが、敵を倒したという。
……これは、もしかしなくても。
「母さん!」
「およびとあれば即参上」
ぶん……とテレポートで母が出てくる。
……また監視していたのだろう。
「僕になんかしたでしょっ?」
「ええ、しました」
胸を張る母。
「あ、ただりゅー君を強化したとか、相手に何かをしたとかじゃないです」
「じゃあ何したのさっ?」
カルマはうなずいて、種明かしする。
「操作魔法を使ったのです。無属性魔法【遠隔操作】」
母曰く、これは相手を魔法で、自由自在に動かすことができる魔法らしい。
これを使ってリュージの身体を、カルマが操作し、あの熟達した剣士の動きをやってのけたのだ。
「【鏡】で映像を見ながら、魔法でりゅー君を動かしてました」
「なんでそんな回りくどい方法使ったの……?」
「だって自力でモンスターを倒さないと強く離れないでしょう? だからりゅー君の身体を操作して、敵を倒したのです。これでレベルは上がってるはずです」
……確かに上がってるだろう。
実質的に動かしたのは母とはいえ、リュージが敵を倒したのだから。
「言ったでしょう。りゅー君はお母さんに身を任せていればそれでいいのです。お母さんがレベル上げしておきますからっ!」
……かくして確かに息子は強くなった。
しかしズルだからという理由で、この方法は使わせないことにしたのだった。
お疲れ様です!
明日もまた頑張ります!
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ではまた!