147.息子、母と祖母の仲を取り持つ【後編3】
カルマは母マキナとともに、出店でご飯を買った後、一足先に集合場所へとやってきた。
マキナはあれもこれもと、たくさんのものを買ってくれと要求した。
その全てが食べ物だった。
集合場所のベンチにて。
マキナは大量のご飯を、がふがふと食べていた。
山積みになっていた焼きそばやらなんやらが、凄まじい勢いで消えていく。
「どんだけ食べるんですかあなた……」
「何か言ったか?」
「いえ、別に……」
がっがっがっ、とマキナが勢いよくご飯を食べているのをみて、ふと、思い出す。
無人島でのこと。
息子はマキナの元へゆき、一緒に食事していた。
その際の食事は、すべてカルマが作った。
そう言えば凄まじい量の昼食を作った覚えがある。
息子はどちらかと言えば小食なので、残り全部は、この人の腹の中に収まったことになる。
母は大食漢だったのか。
初めてしったなと、カルマはふと思った。
「どうした、カルマ?」
「あ、いえ……別に。よく食べるなと思いまして」
「そうか? 普通だろう」
「いや異常ですよ」
「貴様に言われるとなんだか妙な感じがするな」
「どういうことですかケンカ売ってるんですか?」
「まさか。違うぞ。異常が日常なおまえが異常というのが、なんだかおかしくてな」
マキナがフフッと笑う。
カルマは、母が笑う姿を、初めて見た気がした。
……初めてなことばかりだ。
自分は、母のことを何も知らなかったのだと改めて思った。
大メシぐらいなとこ。
少し天然が入っていること。
笑うことがあるということ。
「…………」
今目の前に居る母は、本当に自分の知るマキナアビスなのだろうか。
記憶の中の母と、目の前のマキナが、どうしても重ならない。
別の竜だと言われた方が納得がいく。
「カルマ」
「……なんですか?」
ぐぅ~~~~~~~……………………。
「腹が減ったぞ」
「……わかりましたよ」
カルマはパチンッ! と指を鳴らす。
するとベンチの上に、バスケットが出現する。
蓋を開けると、中にはサンドイッチが入っていた。
「カルマ。これはどうしたんだ?」
「作り置いて亜空間にしまっておいたサンドイッチですよ。料理を買いに行くのが面倒なので、これで我慢してください」
マキナはサンドイッチを手に取って、一口でまるごと食べた。
頬をもぐもぐさせ、嚥下する。
「うむ。やはりおまえの作った料理が、1番美味いな」
マキナがカルマを見て笑う。
……わからない。
目の前の母とふれ合えばふれ合うほど、記憶の中のマキナから、どんどんと遠ざかっていった。
カルマにとって、母とは。
家にまったく寄りつかず、子供に愛情を注がずにいた、最低最悪の母親。
マキナから褒めてもらったことはない。
マキナに笑いかけてもらったことはない。
マキナが家に居たことは、ない。
しかし目の前に居るマキナは、カルマのそばに居て、カルマの作った料理を上手いといって笑ってくれる。
「あの……」
カルマはマキナのことを呼ぼうとして、そして気付いた。
マキナのことを、なんて呼べば良いのか。
マキナと呼び捨てにすれば良いのか。
お母さんと言えば良いのか。
そんな簡単なことさえも、カルマはわからなかった。
「どうした、カルマ?」
「あ、いえ……。サンドイッチ少し残しておいてくださいね。りゅーくんが小腹が空いた時用に作った物なのですから」
「それはすまないことをした」
「はっ!? ちょっ!? もう全部食べたんですか!?」
「ああ。美味かった」
「美味かった、じゃないですよー! もー! それりゅーくんのために作ったやつなのにー!」
「そうか、それはすまない。しかしそのことを先に言っておかなかったおまえも悪い」
「たしかにそうですけど! あんだけ食ってまだ全部食べるとは思わなかったんですよ!」
「カルマ、それは偏見というヤツだ。思い込みで物事を判断するのは良くないぞ」
「うるさいですよ! わかってますって!」
と、そのときだ。
カルマはふと、自分たちを見る視線に気付いた。
そこには息子が居て、ニコニコと笑っていた。
「りゅ、りゅーくん……これは見苦しいところを……」
「ううん。楽しそうで良かった」
息子が笑いながら言う。
「楽しそう……?」
「うん。母さんとマキナが、すっごく楽しそうでさ」
「そう……でした?」
リュージがハッキリとうなずく。
息子の言っていることは超真理なので、そうなのだろう。
だとしたら……自分は、マキナと一緒に居て楽しいと感じていたことになる。
……そうなのだろうか。
わからない。
ぼんやり考えてると、チェキータが手を叩く。
「さっ、みんな~。お昼ご飯を食べたら家に帰るわよ~」
「「「はーい!」」」
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あけましておめでとうございます。
去年は大変お世話になりました。
今年もカルマたちをよろしくお願いします!