146.邪竜、息子たちと初日の出を見る【後編】
6時間早い初日の出を見た、直後。
「まぶし……」
リュージは薄めで、太陽を見やる。
雲一つ無い青空で、黄金の輝きを放っていた。
「はぁ! だいじょうぶりゅーくん! ハイこれサングラス!」
焦ったカルマが、万物創造スキルで、黒いメガネを作った。
「目潰れてない? あぁああああの太陽のクソ野郎息子を失明させやがってぶっこわしてやるぅううううう!」
「だ、大丈夫だよ母さん! 大げさなんだから……」
ふぅ……とリュージはため息をつく。
「それにしても……キレイだね、母さん」
「え? りゅーくんが?」
「違うよ、この朝日だよ……」
「ああ……ま! りゅーくんに比べたらまだまだですけどね!」
カルマが相変わらずすぎて、リュージは苦笑する。
「しかしもう1年ですか。早いですね」
「そうだね……今年は特に早かった気がする」
ふと、リュージは去年のことを思い出していた。
去年は母の背中の上で、ふたりで朝日を眺めていた。
だが……。
「まぶしーのです!」
「……シーラ、ダメだよ。ほらサングラスかけて」
「るぅ。ねむい……」
「おいこらルコ! こんなところでねるでない! ベッドへいけ」
「ばぶこ、はこんでー」
「はいはいじゃあお姉さんがおんぶしてあげるわよ~」
リュージは、楽しそうにする仲間たちを見て笑う。
「今年は……うん、いっぱいいろんなことあったね。それに、たくさんの人と会えた」
リュージははカルマを見やる。
「母さんは……嫌だった?」
「なんでですか?」
「僕以外のひとのこと、あんまり興味ないみたいだったし」
「ああ……まあ、そうですね。私にとってりゅーくん以外のすべては、どうでもいいです」
ただ……とカルマが続ける。
「今は、ちょっと違いますね。ルコやバブコ、シーラにルトラ。……まああの無駄肉も含めて良いですが、いろんな人と出会うことは……まあ、存外悪くなかったかなと思います」
カルマは微笑んでいた。
リュージには、それが嘘をついている顔には見えなかった。
うれしかった。
母が、自分以外に興味を持ってくれたことが。
「来年もまた……こうしてみんなで、初日の出見ようね。来年はもっとたくさんの人たちと、パーティしたいかな、僕」
「いいですね! わかりました! 来年は2兆人くらい呼んで盛大な年末パーティを開きましょう!」
「い、いやそれはさすがに……そんなに人いないよこの国に」
「では外国から! いや、異世界から人を召喚するのもありですね!」
「まったく……母さんは……いつだって大げさなんだから」
リュージは苦笑する。
「なにはともあれ、来年もまたここで、こうして朝日を見ましょう。約束ですよ、りゅーくん♡」
スッ……とカルマが小指を近づけてくる。
これは、親子のルールだ。
小指と小指を結び、そして上下に動かす。
「うん、約束」
指切りを終えた後、カルマが言う。
「さっ! みんな寝ましょうね!」
カルマがパンパンッ! と手を叩いて言う。
「寝ましょうって……母さんのせいで朝日昇ってるじゃん」
「ご心配無用。む゛ぅ゛う゛ん゛!」
カルマが気合いを入れて、腕を振り下ろす。
太陽が、東の地平線に沈んだではないか。
「この星をまた逆回転し、太陽の位置を元通りにしました」
「力業過ぎる……!」
「ささっ♡ 夜更かしは体に毒です。みんなしっかり寝ましょう!」
カルマはルコたちを連れて家の中に入る。
リュージもまた家の中に入る。
自分のベッドへと潜り込んだ……そのときだった。
「りゅーじ」
「え?」
ふと、部屋の隅を見やると、マキナがいた。
「マキナ。こんなところにいたんだ」
探したけど、マキナはあの場にいなかったのだ。
「わがはいがいたのでは、和を乱してしまうからな」
「またそんなことを……母さんはそんな気にしないって」
「……いいのだ。それより、カルマの様子はどうだ?」
「どうって……どういうこと?」
「さっき倒れたのではないか。その後のカルマはどうだった?」
「いや……普通にしてたよ。それが?」
「……いや、なんでもない。それなら、いい」
マキナはそう言って、リュージの部屋を出て行こうとする。
「リュージ。……カルマのこと、頼む。しっかり、あの子を支えてあげてくれ」
何を言ってるのか、わからなかった。
だがリュージにとってマキナの言ったことは、当たり前のことだった。
だから普通にうなずいた。
「……それでいい。わがはいは、安心した」
マキナは微笑んで、リュージの部屋を出て行く。
「なんだったんだろ……ふぁああ~……」
リュージはベッドに横になり、目を閉じる。
……来年もまた、いい年であれば良いと思いながら。
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