19.邪竜、(遠隔操作で)息子を強くする【前編】
お世話になってます!
自動回復システムを作ったその日の夜。
母はリビングにて、ひとり優雅に【日課】をこなしていた。
「ハァイ、カルマ。こんばんは」
ドアが勝手に開き、監視者チェキータが入ってくる。
「家の人間の許可を取らずに入ってこないでください」
「まー、いいじゃない。監視者ですもの」
この女が無神経なのは承知している。
それよりカルマは、日課をこなす方が先決だった。
カルマはイスに座って、ふんふん、と目の前の【それ】を見ている。
「あなた何してるの?」
チェキータがカルマの背後に回り込み、ぐにゅっとそのでかすぎる胸の押し当ててくる。
「その暑苦しい胸を押しつけないでください」
「まあまあ。……で、なにそれ。リューが写ってるけど」
カルマが見ていたのは、【鏡】だ。
ただしカルマの姿は映ってない。
かわりに、リュージの姿が、鏡の中にあった。
それも上空から見下ろすような映像である。
「無知なるあなたに教えてあげましょう」
ふふふん、とカルマがドヤ顔になる。
どうやら自分の作った素晴らしい発明を、誰かに自慢したかったみたいだ。
「これは天空城から送られてきた映像を、魔法で映し出しているのです」
「天空城って、あんたがこの間作ったあれ?」
そう、とカルマがうなずく。
「りゅー君を24時間監視するシステムは以前作りました。で、その監視映像を録画して、この鏡へと転写するようシステムを改良したのです」
「監視者よりもよっぽど監視者じゃない、今のあなた」
あきれ調子でチェキータ。
「母の愛ゆえにです。りゅー君の身に危険が及んだら困りますからね。母には、24時間365日、息子を守る義務があるのです」
「そんな義務、お姉さん聞いたことないわよ」
やれやれ、とチェキータが首を振るう。
「まーたリューに叱られて凹むわよ」
「だまらっしゃい。……むむ、りゅー君の部屋にシーラが入ってきましたね」
鏡の中にリュージの部屋が移っている。
寝間着姿のシーラが入ってきた。
「あら、リューったら。シーちゃんと夜の密会かしら?」
「ふふ、馬鹿めチェキータ。りゅー君は明日の冒険の打ち合わせをしているだけですよ。夜の密会とか、これだから色ぼけエルフは」
ふーやれやれ、とカルマが首を振るう。
息子の行動パターンは全て把握しているのだ。
夜寝る前に、彼らは明日の打ち合わせをするのである。
さておき。
カルマは映像に注視する。
監視映像は録音機能までついているので、ふたりの会話が聞こえるのだ。
息子はシーラと向かい合って座っている。
【最近まずいと思うんだ】
【まずい? そんなことないのです。カルマさんのお料理はいつもとってもおいしいのです】
どうやらシーラは、息子が母の料理の話をしていると、勘違いしているらしい。
「いいですよシーラ。ぷらす5ポイント」
「何のポイントよ何の……」
息子がシーラに説明する。
【最近レベルが上がってないなって思って】
【あー、そっちかぁ】
【最近採取クエストばかりでしょ。お金は貯まるけど、モンスターを僕らは倒してない。だから強くなれてないんだ】
息子の言うとおり、彼は最近ずっとアイテム採取だけで、モンスター狩りをしてない。
「なぜでしょうか?」
「いやぁどう考えてもあんたのせいでしょ」
「なんと。私が? 何かしましたっけ?」
「ま、リューが説明するわよ」
カルマが鏡に視線を戻す。
【天空城からのビームのせいで、僕らが敵を倒す前に、母さんが敵を倒しちゃうから】
【そっかぁ。経験値がたまらないんだね】
息子の安全のため、リュージに敵が近づくと、自動で【光】が落ちて敵を撃滅するシステムを作ったカルマ。
これによって、息子の身の安全は守られた。
素晴らしい発明だと、自負していたのだが……。
「思わぬ誤算です……」
鏡の映像を切って、がっくり、と肩を落とすカルマ。
「た、確かに私が敵を倒してるから、りゅー君たちのレベルがあがりません……」
はわわ、とカルマが慌てる。
「これはなんとかせねばっ!」
とカルマが奮起したそのときだった。
2階から、リュージと、そしてシーラが降りてきた。
「母さん。ちょっと話があるんだ」
どうやら息子が、母に頼み事をしたいらしい。
言うまでもなく、さっきのレベルが上がらない問題についてだろう。
我が意を至りとカルマはうなずく。
「大丈夫です、りゅー君。お母さんに任せてくださいっ!」
どんっ! とカルマは自分の胸をたたく。ばうん、とその大きな胸がはねた。
リュージはそれを見て……額に冷や汗を垂らす。
「ま、任せるってなんのこと?」
「だからお母さんに任せてください。全てを母にゆだねるのです。さすれば問題はたちどころに解決するでしょう」
自信満々のカルマ。
すでに【息子強化計画】は頭の中に何通りも浮かんでいる。
「いや……母さん。僕の話聞いてって」
「大丈夫大丈夫。お母さんに任せれば大丈夫です」
「母さんに任せて大丈夫だったときって、一度もないんだけどっ!」
「だいじょぶだいじょぶ」
「母さんの大丈夫は大丈夫じゃないんだよぉもぉおお!!!」