145.邪竜、新年会する【前編】
リュージの冒険の応援をした後。
母は転移魔法で、息子たちを連れてカミィーナの自宅へと帰ってきた。
「さっ! 今日は新年会ですよ!」
カルマはコートを脱ぎ捨てて、いそいそと台所へと走って行く。
「……リュージ、新年会って?」
相棒の人狼少女、ルトラがリュージに尋ねる。
「毎年暮れにやるんだ。夜明けまでパーティして、みんなで初日の出を見るの」
「……へえ、いいなぁ。楽しそう」
うらやましそうにルトラが言う。
「何をおっしゃってるのです、ルトラ!」
にゅっ、とカルマが台所から顔を出す。
「あなたもメンバーに入ってますよ! 今夜はみんなでお祭りじゃー!」
母が力強く宣言する。
ルトラは、きょとんとしていた。
「……アタシも、いいの?」
「もちろん!」
「あたりまえなのですー!」
リュージはルトラに近づいて、笑って言う。
「ルトラはもう、僕らの大切な仲間だよ。一緒に新年を祝って欲しいんだ。だめ?」
「……ううん。ダメじゃないよ。うれしい」
ルトラが目に涙をためて、ぐすぐすと鼻を鳴らす。
「るっ、るとらちゃんどうしたのですっ? おなかいたいのですっ?」
「……違うの。しあわせすぎて、うれしくて、涙が出ちゃうの」
シーラがローブの裾で、ルトラの涙を拭う。
「……アタシ、家族でお祝いなんてしたことなかったの。だから……それができて、うれしい」
「そっか……。じゃあ、盛大にやろう! 母さん!」
「あいよーーーーーーー!」
カルマが大鍋を持って、台所へと帰ってくる。
「1000時間煮込んだおいしいビーフシチューですよ!」
「そんな前から煮込んでたら腐っちゃうよ……」
「だいじょうぶ! お母さんが食べ物も腐らない精神と刻の部屋的なあれで煮込んでるから大丈夫!」
なんだかよくわからないが……とにかくすごそうだ、このシチュー。
「そーれお料理たくさん! いでよ!」
パチンッ!
カルマが指を鳴らすと、異空間に仕舞ってあった料理が、テーブルの上に並ぶ。
「わぁ! お肉! ちきんまるごと! すごーいのですー!」
「ローストビーフだってありますよ!」
「わぁ……! カルマさんだいすきー!」
「さぁみんなー! ご飯ですよー! かもーん!」
二階から幼女たちと、チェキータが降りてくる。
「あらあらおいしそうね、カルマ」
「今日は特別です。メシ食ってきなさい」
「あらいいのぉ?」
「パーティは多い方が楽しいですからね。ほらみんな! 席についてついて!」
カルマが子供たちの背中を、笑顔で押す。
「ルトラ。ほら、座ろうよ」
「……うんっ!」
そんなふうに、新年のお祝いがスタートするのだった。
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