144.邪竜、息子の冒険についてく【後編】
リュージ達は標的モンスター、氷象のいる山中へとやってきた。
山の中を進んでいくと、吹雪が激しくなってくる。
だがカルマの防御結界のおかげで、リュージ達は特に問題なく、氷象のもとへとたどり着いた。
「BUROROOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!」
白い巨体のゾウが吠える。
人間の倍以上ある巨体の、凶悪なモンスターだ。
ギルドによると討伐難易度はB。
中堅冒険者を何人も返り討ちにしてきた、強力なモンスターであるらしい。
さて……。
そんな恐ろしい敵と、大事な息子が相対している。
さて、そんな状況下で、超過保護な最強
最強ドラゴンはと言うと……。
「りゅーくんがんばれー! ふぁいと~!」
両手を挙げて、カルマは応援していた。
そう、応援だけを、していたのだ。
「BUROOOOOOOOOOOOOOOO!!」
氷象が前足を振り上げて、リュージめがけて振り下ろす。
リュージは攻撃が喰らう前に、ジャンプして避ける。
「シーラ!」
「【炎槍雨】!」
兎獣人の魔術師、シーラが、杖を振り上げて叫ぶ。
杖の先から炎が噴き出す。
中空で炎は槍となり、雨の如く、氷象の体に降り注ぐ。
「いいですよシーラ! さすがりゅーくんの嫁! かっこいい!」
「BUROOOOOOOOOOOOO!!!!」
炎の槍を体に受ける氷象。
炎の魔法がよく効いているみたいだ。
ふらついている氷象めがけて、リュージは迅雷のごとく近づく。
「やあっ! たぁっ!」
リュージは右足に、剣で2連撃喰らわせる。
「ルトラ!」
「……了解」
遠くで待機していたルトラが、短弓を引く。
放たれた矢は、流星のごとく凄まじい勢いで、氷象の側面を強打。
氷象はバランスを崩し、横に倒れる。
「このまま決めるよ、シーラ付与魔法を!」
シーラが付与魔法【纏う雷】を発動。
リュージの剣に雷が宿る。
リュージは飛び上がり、氷象の真上へ跳ぶ。
「やぁあああああああああああ!」
剣を下に構えて、そのまま重力によって真下に落ちる。
体重を乗せた一撃を、氷象にお見舞いしようとした……そのときだ。
「BUROOOOOOOOOOOOOOOOO!」
氷象は長い鼻をリュージに向ける。
そこから、氷のブレスを吐き出した。
氷雪の風の中に、細かい尖った氷の槍が無数に見える。
あんなものをまともに受けたら、重傷必死だ。
そんな攻撃を前に、カルマはというと……。
「りゅーくん! 負けないで! がんばー!」
……それでも手を出さず、息子を必死に応援していた。
リュージは窮地に立っているのに、笑った。
母が手を出さないということが、うれしいから。
氷のブレス攻撃。
リュージは魔力を体に、剣に込める。
体をねじり、思い切り、剣をふる。
ずぱぁあああああああああああああん!
剣から放たれた、強力な斬撃。
剣圧は氷のブレスを吹き飛ばし、そしてその先にいる氷象の体を、真っ二つにする。
リュージは空中で体をひねり、氷象の体の上に着地した。
「ふぅー……」
「りゅーーーーーーくーーーーーーーーーーーん!」
母が凄まじい勢いで、リュージの体に突っ込む。
リュージの体に抱きついて、勢いそのまま、ころころと地面を転がる。
「すごいよすごいよかっこいいよー!」
カルマはリュージを抱きしめて、くるくるとその場で回る。
母の柔らかく温かな体につつまれていると、戦いの緊張がほぐれて、ほっとする。
「あんなバケモノ倒すなんて! りゅーくんはすごい! かっこいー! 天才だよぅ!」
カルマは息子の頭をよしよしわしゃわしゃと撫でる。
むぎゅ~~~~~っと力強く抱きしめて、リュージのほっぺにキスの雨を降らす。
「かっこよかったのですりゅーじくん!」
「……うん。すごかった」
仲間の少女たちが、リュージをニコニコと見やる。
同い年の女の子に、母と抱きついている姿を見られて、恥ずかしい……。
「や、やめて母さん恥ずかしいよ……おおげさだし……」
「そんなことないよ! おおげさなもんですか! あんなバケモノ倒せるりゅーくん超すごい! これもう伝説! 息子英雄伝にまた新たな歴史が刻まれたよぅ!!」
母の無邪気な笑顔に、リュージはため息をつく。
この笑顔を見ていると、やめてくれと言えないのだ。
「母さん……ありがとね。後で見守っててくれて」
そう、以前のカルマなら、そもそもこんな危ない場所へリュージを向かわせない。
そして敵が出てきたら、リュージに戦わせるなんてことはさせない。
ピンチになる前に危険を徹底的に潰す。
それがカルマアビスだったのだ。
が、それも昔のこと。
カルマはしっかり、リュージとの約束を守り、後で見ていることに徹してくれていた。
「お母さん約束守ります。息子の冒険についていくけど、邪魔はしない!」
本当はついてきて欲しくない、けど……。
前のように過保護過ぎる振る舞いをしなくなったことが、リュージは嬉しかった。
母も、そしてリュージも、この半年あまりで成長していたのだった。
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