144.邪竜、息子の冒険についてく【前編】
それは年の瀬もせまったある日のこと。
リュージは仲間の少女たちとともに、冒険者のクエストに来ていた。
今回は氷象という、氷でできたゾウ型モンスターの討伐だ。
カミィーナから遠く離れた、雪山の中。
森の木々は雪化粧で染まっている。
この国の冬は寒く、そして降雪量が多い。
「りゅーくん大丈夫!? 風邪引いてない!? もっと温かくする!?」
リュージのとなりを、不安げな表情の母が歩く。
母、カルマアビス。
赤みがかったつややかな黒髪。
抜群のプロポーション。
神が自ら手で作ったような、整った顔。
絶世の美女。しかしその実体は、世界最強の邪竜が、人間に変化した姿だ。
今日は白いワンピース型のコートを着て、赤いマフラーをつけた冬仕様だ。
「大丈夫だから……」
リュージはハァ、とため息をつく。
自分の周辺だけ、寒さをまるで感じない。
それはそのはず。
カルマが結界を張り、外気から息子を守っているからだ。
「へくちっ」
「あぁあああああ! りゅーくんが風邪引いちゃうぅうううううううううう! はい、おはなちーん! おはなちーんてするわ!」
すかさずカルマがハンカチを取り出し、リュージの鼻に押しつける。
「もうっ。だいじょうぶだってば!」
「ほんとう? りゅーくん強い子だから、お母さんを不安にさせまいと寒さを我慢してない? 平気?」
「平気だから……もう……」
リュージは深々とため息をつく。
「僕のこと、家で待ってくれるようになってたのに……」
「だぁて! 今朝は今年一番の冷え込みだって聞いたから! りゅーくんが風邪引いたらお母さん死んじゃうから! だから息子を守らなきゃって!」
この母は、凄まじい強さと、そして凄まじいまでの過保護さを併せ持っている。
息子のためなら世界だって破壊できる。
息子が風邪を引かないよう、魔法でバリアを張る。
そんな人なのだ。
「風邪引いたくらいで世界滅ぼさないでね」
「りゅーくんにつらい思いをさせた世界を滅ぼさず母はなんとする!」
「もうっ。そんなことしなくていいから。家で大人しく待ってて」
するとカルマがぷるぷると首を振る。
「いーえ! お母さんついていきます!」
どうやら母、この冬一番の寒さというフレーズに、過剰なまでに心配しているのだろう。
「安心してりゅーくん。お母さん最近空気読めるようになってきたから。冒険は邪魔しないから、ね? ね? ついていっていい?」
確かに以前のように、先回りしてダンジョンのモンスター全て倒したという事例はなくなってきた。
カルマも成長しているようだ。
ただ今の状況で、息子の冒険を邪魔してないかと言われる……いささか疑問符がつく。
「母さん。じゃあしっかり見守っててね」
「了解! お母さん……息子の成長を、後で見守ってます!」
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