142.邪竜、貧血で倒れて息子に甘える【中編】
リュージがクエストを終え、家に帰ってた。
チェキータからすぐ、母が貧血で倒れたと聞いた。
リュージは慌てて母の元へと向かったのだった。
「母さんっ! 大丈夫っ!」
母の部屋へ入ると、カルマが青い顔をしてベッドに寝ていた。
「りゅーくん……」
母がつらそうな声音で、リュージを見やる。
顔色が悪かった。
最強無敵の母が倒れるなんて、あり得ないはずなのに……。
「あー、ごほごほ。あーごほごほ! あー……つらいわー。ほんとつらいわー」
チラチラとカルマが、リュージをチラ見して言う。
……リュージはホッとした。
良かった、大丈夫そうだ。
「どうしたの、母さん?」
「りゅーくんごめんね……お母さん……もしかしたら不治の病かもしれないの」
「どうして?」
「だって考えてもみて。邪神を取り込んで最強無敵な存在であるお母さんが、倒れたんですよ? もう……すごい……一大事ですよ!」
ぴかー! と母が目を輝かせる。
わくわくしていた。
はぁ……とリュージはため息をつく。
「ああもうお母さんダメかも! お母さん未知のウイルスにやられて命を落としてしまうかも! ああ!」
「はいはい。食欲ある?」
「あるー!」
「何が食べたい?」
「りゅーくんの作った卵かゆー!」
「わかった。安静にしててね」
「はーい! ひゃっほーう!」
元気そうで何よりだ、とリュージはホッとして、カルマの部屋を出た……そのときだ。
「マキナ?」
カルマの部屋の前で、マキナが心配そうな表情をしていた。
「リュージ……カルマは、大丈夫なのか?」
不安げな表情を浮かべるマキナ。
「あの子は倒れたって聞いたぞ……あんな頑丈な体をしているあの子がだ。なにか未知のウイルスにおかされているのではないだろうか……」
リュージは目を丸くする。
そして微笑んだ。
「大丈夫だよマキナ」
「しかし……」
「母さんのアレはね、よくあるんだ。中みてみて」
マキナは首をかしげ、ドアの隙間から、中の様子をうかがう。
「いえーい! よっしゃー! りゅーくんに甘えるぞー! ふっふー!」
いえいえ、とカルマがベッドの上でダンスを踊っていた。
マキナがその場にぺたん……とへたり込む。
「母さん、よく仮病使うんだ。ムスコニウム、とかなんとかが不足したーっていって」
ようするに周期的に、母は息子に甘えたくなるらしい。
そのときよく仮病を使うのだ。
「なんという……アホなことを」
はぁ……とマキナがため息をつく。
「我が子ながら恥ずかしい……。すまないリュージ」
「ううん、なれっこだもん」
「慣れてると聞いてさらに落ち込んだぞわがはい……」
リュージは苦笑してその場を後にする。
台所に立ち、魔法コンロに火をつけ、卵がゆを作る。
「…………」
鍋を温めながら、リュージはさっきの、マキナの表情を思い返す。
マキナは、本気で母の不調を心配していた。
その表情を、リュージは知っている。
昔から、すごく前から、知っている。
それは……母親が、子供を心配するときの顔だ。
カルマはずっと、リュージに大丈夫? 大丈夫? と心配そうな顔を向け続けた。
ちょっとすりむいたとき、ちょっと手を火傷したとき……。
そのちょっとのアクシデントがあるたび、カルマはリュージを心配し続けた。
人一倍過保護な母を持つリュージだからこそ、今さっきマキナが向けた表情の意味が、くみ取れたと言える。
「マキナは……母さんのこと……ちゃんと思ってるんだ……」
祖母に当たるマキナは、その娘たるカルマを、大事にしているのだろうとリュージには感じ取った。
けれどカルマからは、マキナに向ける愛情を、感じられない。
母が復活しても、喜んでいなかったことが何よりも証拠だ。
「どうして……母さんは、マキナのこと……」
「リュージ?」
ハッ、としてとなりを見やる。
「何を作っているのだ?」
「マキナ。これは卵かゆ。風邪引いたときはいつもこれなんだ」
「ほぅ……そうなのか……」
じゅるり……とマキナが涎を垂らす。
「えっと……これ母さんの分だから」
「わかっている。何が言いたいのだリュージよ?」
「ええっと……マキナの分は、あとでちゃんと作るよってこと」
ぱぁ……! とマキナが表情を明るくするが、すぐにいつも通りに戻る。
「そうか。期待しておく」
鍋の火を止め、リュージはおかゆをお皿に盛って、母の元へ向かう。
その後を、マキナがちょこちょことついてくる。
リュージがカルマの部屋に入ろうとするが、マキナは後で立ち止まったままだ。
「どうしたの?」
「わがはいは……いい」
「マキナ……」
「いいのだ。早くあの子の元へいってやってくれ、リュージよ」
マキナは母を心配しているのに、カルマと距離を詰めようとしない。近寄らない。
もっと気軽に接すれば良いのに。
それこそ……カルマとリュージみたいに……。
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