142.邪竜、貧血で倒れて息子に甘える【前編】
息子を送り出し、活躍に大いに喜んだ、その数分後。
転移スキルで、カルマは自宅へと帰ってきた。
「しまった。お掃除の最中でしたね」
掃除中に息子の活躍したという情報をキャッチし、あわてて転移したのだ。
「さっ。お掃除お掃除」
ちなみにルコとバブコは、マキナとともに2階にいる。
リュージの娘たちが仲が良いのは良いことだが……その1人が母というのが、カルマにとってはひっかかりを覚えることだった。
「ええい、今は掃除に集中だ!」
カルマは右手を振り上げる。
ぱっ、と払う。
すると、その場にあった家具が、全て破壊された。
カルマの持つ邪神スキル【万物破壊】。
触れた物を全て破壊するという、最強のスキルだ。
「ふう……っとと、立ちくらみが」
今朝は寝不足だったからだろうか。
やけにふらつくのだ。
「さて……掃除完了。ではすべて元通りにっと」
パチッ……!
カルマが指を鳴らす。
すると、消し飛んだものと、まったく同じものが、瞬時に現れる。
全て新品となっていた。
それは、カルマの使うスキル【万物創造】。
あらゆるものをゼロから無制限に作り出せるという、カルマのチートスキルだ。
「……ふぅ。あらら、また立ちくらみが……これは……ちょっと休んだ方がいいかも……いや! 2階のお掃除がありますからね!」
カルマは階段を上り、二階へと向かう。
同じように、万物破壊と、万物創造で、全てをキレイに片付けた。
「…………」
そのときだった。
猛烈なめまいを感じ、カルマはその場にへたり込んだ。
「かるま。どーしたっ」
ルコが近寄って、カルマの肩を揺さぶる。
カルマは大丈夫と答えたが、目の前が明るくなったり暗くなったりして、前後がわからなくなった。
やがて……カルマは気を失ったのだった。
……。
…………。
………………ふと、目を覚ます。
「ここは……?」
「ハァイ、カルマ」
天井を見上げるカルマに、チェキータがのぞき込んでくる。
「チェキータ……私は、いったい……?」
「倒れてたのよ。ルコちゃんがお姉さん呼んで、べっどに運び込んだわけ」
「そうなのですね……迷惑かけてすみません」
カルマが弱々しく言う。
チェキータが目を丸くする。
「……なんですか?」
「いや、あなたが素直にお礼を言うのって、珍しいかなって思ったの」
「……そんなこと、ありましたね」
割とこのエルフお姉さんに対しては、つんつんした態度を取ることの多いカルマだった。
だが……今は、そういう態度を取れなかった。
「どうしたの、カルマ? あなたちょっと変よ」
「まあ……ちょっと母親のことでゴタゴタありましてね」
カルマはチェキータに、マキナが復活したことを伝える。
「そう……リューが、3人目を」
「めでたいことではあるのですが、心情的に素直になれなくて……」
「そうね。あなたの育ちは、聞いてるから……よくわかるわ」
チェキータがカルマの額に優しく触れる。
……チェキータに冷たくできない理由。
それは、マキナがそばにいるから。
マキナよりも、やはり目の前のチェキータの方が、自分にとって母親だったなと改めて思ったから。
「どうしたの?」
「いえ……わたしは、なんで倒れたんですか?」
「寝不足と、貧血ね。いい歳こいて夜更かしするからよ」
「うっさいですね……」
「ま、大事なくて良かったわ。今日はゆっくり寝てなさいな」
ぽんぽん、とチェキータがカルマの頭を撫でる。
普段はねのけるカルマだったが、今日はちょっと甘えておきたかった。
「あ、で、でもりゅーくんにご飯作らないと……」
「大丈夫よ、お姉さんがやってあげるから」
「でも……」
「体調悪いときくらいは、頼って。ね?」
「……わかりました」
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