141.息子、チカラの片鱗を見せる
朝食を取り終えたリュージは、シーラたちとともに、冒険者としての仕事をしに出かけた。
今日の仕事は、森でモンスターの討伐。
オーガという、人の倍くらいある鬼型のモンスターの討伐だ。
「…………」
リュージは若干上の空で、森の中を歩く。
「どーしたのです、りゅーじくん?」
「あ、いや……ごめん。ちょっとぼうっとしてて」
前を歩く斥候のルトラが、リュージを気遣わしげに見やる。
「……だいじょうぶ? 寝不足?」
「ああ、うん。ちょっと……寝たの朝だったし」
「……どこかいってたの?」
「うん、母さんとちょっと」
母とデートし、その次ぎに目覚めるとルトラを出産して……となんだか昨日今日とめまぐるしく状況が変化していた。
「……いいなぁ」
ルトラがうらやましそうに、リュージを見やる。
「……あたし、お母さんとでかけたことなかったから、リュージとカルマの関係がさ、うらやましいよ」
前にルトラは孤児だと言っていた。
母親のぬくもりを彼女も知らないのだろう。
「しーらもね、本当のお母さんとは、でかけたことないのです。だからえと……えと……その……仲間なのです!」
シーラがルトラの手を握って、えへっと笑う。
……シーラは本当の両親を早くに失い、その後祖母に育てられた経緯があった。
「……ありがと、シーラ」
「えへへ~♡」
そんな風に歩いていると、リュージ達はオーガのたまり場を見つけた。
オーガ。CからBランク(ボスはB)の、強力な亜人型のモンスターだ。
ついこの間まで駆け出しだったリュージ達も、いろんな冒険を経て、力をつけてきているのである。
オーガはたき火を囲んでいた。
数は5。
黄色いオーガは、群れのボスらしい。
「じゃあ手はず通り、ルトラがけん制して、数を分断。各個撃破していくかんじで」
こくり……と仲間たちがうなずく。
ルトラは素早く動き、木の上に乗る。
リュージは合図を送る。
ルトラは背負っていた短弓を抜いて、オーガたちめがけて矢を放った。
ひゅっ……!
「GUGOOOOOOOOOOOOOOO!!!!」
オーガが2匹、ルトラの方へと駆けていく。
ルトラは俊敏な動きで、枝から枝へと飛び移り、仲間オーガたちを分断する。
「よしっ……!」
リュージは剣を抜いて、構えを取る。
「シーラ! お願い!」
「【剛炎旋風!】」
残された3匹のオーガを、炎が包み込む。
突風に巻き上げられ、オーガたちの肌を魔法の炎が焼く。
やがて炎が消える。
オーガ2匹が瀕死の重傷。
ボスオーガのみが重体を負っていた。
リュージは剣を抜いて、ボスオーガへと向かって走る。
「GIGOOOOOOOOOOOOOOOO!!!」
ボスオーガが骨でできた大剣を手に、リュージに向かって走ってくる。
……そのときだった。
「え……?」
リュージは、目の前の光景に、呆然とした。
「GI…………GO………………GO………………………………」
ボスオーガの動きを、とてつもなく、遅く感じたのだ。
「うそ? なんで……こんなゆっくり……?」
まさか向こうが手を抜いている? という疑念はすぐに消えた。
周囲の映像が、限りなくスローになっているのだ。
つまり……リュージの動きが、逆に早すぎているということだろうか。
まさか母が……? とまっさきにカルマの仕業を疑った。
最近はドーピングをしなかったのだが、また今日も冒険に出かける! リュージ危ない! と身体強化の魔法をご飯に混ぜていたのだろう。
「もう……やめてっていってるのに……」
しかし今は仕事が優先だ。
ゆっくりと動くボスオーガの懐に入り込み、剣を振るう。
溶けたバターをナイフで切るように、あっさりとボスの首を切り落とした。
「次ぎ!」
リュージはルトラが引きつけてくれている、オーガ2匹に向かって走る。
「は、早い……!」
風のようにリュージは走る。
シーラによる身体強化の付与魔法があるわけでもないのに。
リュージは単に魔力操作で、身体能力を強化しているだけ。
だがここまで早くは動けない。
あっという間にリュージは、オーガたちに追いつき、1振りで2体のオーガを撃破した。
「ふぅ……」
「……すごいね、リュージ。いつの間にそんな強くなったの?」
ルトラが木の枝から降りてきて、リュージに尋ねる。
「ううん。たぶん……母さんが料理にドーピングしてたんだと思う。まったく」
するとルトラが……じっ、とリュージを見やる。
「どうしたの?」
「……リュージの体から、身体強化の魔法の気配を感じない」
「え……? それって……どういうこと……?」
ルトラが首をかしげる。
「……少なくとも、カルマはご飯に強化魔法なんてかけてないってこと」
「じゃ、じゃあ……どうして、僕、こんなに早く動けたんだろう?」
「……さぁ?」
てっきり母の仕業だと思っていた。
だが違うようだ。
ではいったいどうして……と、そこで、思い至る。
「……まさか、勇者のチカラ?」
今朝、リュージは自覚的に、勇者のチカラを使った。
マキナを召喚した。それは、勇者の技能だと彼女が言っていた。
……今の超人的な身体能力も、そうなのだろうか?
「…………」
だとしたら……素直に喜べなかった。
これは、純粋に自分の力とは、言いにくいから。
しかし……。
「りゅーーーーーくーーーーーーーん!」
ぱっ! とカルマが、転移してきた。
すごい笑顔で、リュージをハグする。
「わぷっ」
「すごいよすごいよりゅーくん! 今のすごかったよ~~~~~~~~~!」
喜色満面で、母がリュージを無ぎゅっとしてくる。
パチッ! とまた静電気を感じた。
だがもう冬だからとあまり気にしなかった。
「はぁ~~~~ん♡ もうほんとすごいよー! 天才! わかってたけどうちの子ほんと天才よ!」
えへへ~♡ とカルマが笑顔で言う。
おそらくさっきのリュージの動きを、監視していたのだろう。
「はぁん♡ すごい! 天才! ちゃんと録画したからね! 近所に自慢しまくっちゃうよ!」
「や、やめてってば……恥ずかしいし……」
「もうほんと天才! すごいよ~! かっこいいよ~! もう最高だよぅ!」
……ほんと、落ち込んでいると、すぐにこの母は飛んでくるのだから。
本当に……優しくて、そんな母が、大好きだと思う、リュージであった。
書籍、コミック第2巻は、12月25日に同時発売です!
どっちも最高の本となってます!
ぜひ手に取っていただけたら幸いです!