18.邪竜、息子自動回復システムを導入(済み)
お世話になってます!
母によるラブコメ阻止から、1週間が経過したある日のこと。
昼下がりの森にて。
リュージは採取クエストの最中だが、違和感を覚えていた。
「おかしい……なんか変だ」
しゃがみ込んで、リュージは薬草を探している。
「何がおかしいのです?」
隣でうんしょうんしょ、と草を引っこ抜こうとしているシーラが尋ねる。
「最近なんだか、身体の調子が良すぎる気がしない?」
リュージの問いかけに、シーラが薬草を引っこ抜いて、勢いのまま後にすってんころりんとひっくり返る。
「あいたた……。そう言われると、確かにそんな気がするのです」
ぺたんと女の子座りするシーラが答える。
「朝から薬草さん拾いをしているのに……全然疲れないのです!」
「そう、そうなんだよね」
今朝家を出て森へ行き、それから5時間ほどが経過している。
途中1度の昼休憩を挟んでいるのだが、それ以外はぶっ続けで作業をしていた。
全然疲れないから、休んでいなかったのだ。
最初リュージは、まあ薬草を引っこ抜くだけだし、疲れないんだろうなと思っていた。
しかし引っこ抜く単純作業も、5時間やれば身体のどこかが痛んでくるだろう。
……だのに、そうはならないのが、不思議でならなかった。
「不思議だ……」
「不思議なのです」
うーん、と首をかしげ合うふたり。
「シーラ最近学んだのです」
はいはい、とシーラが立ち上がって手を上げる。
「なにか不思議なことがあるときは……カルマさんが絡んでるのです!」
……さすがにシーラも、規格外お母さんと一緒にいる時間が長いからだろう、現況をすぐに思い浮かべられるようになっていた。
「ね。僕もそう思う」
「でも何が起きてるのでしょう?」
うーん、と首をかしげるが、しかし原因はわからず。
「とにかく仕事をしよう。もうちょっとで規定量に達するから」
「はーい!」
子供のように無邪気に返事をするシーラをみて、リュージはかわいいなとほんわかした気分になった。
それはさておき。
リュージとシーラは、手分けして薬草を摘む。
リュージはさくさくと薬草を引っこ抜くのだが、
「うーん、うーん、よいしょー」
女性であるシーラは、力仕事が苦手のようだ。
引っこ抜くのも大変そうだ。
「ていやー」
すぽっ、と抜けたが、そのままの勢いで、でーん、と腰を打つ。
「あいたたた……」
背中をさすってあげようと思った……そのときだ。
上空から、柔らかい、緑色の光線が降り注いだではないか!
……一瞬の出来事だった。
瞬きする間に、その光は収まった。
「あれ? あれあれ、痛いの痛いのとんでったのです」
光を浴びたシーラは、どうやら先ほどの打ち身のダメージが消えてるようだった。
「元気ひゃくばいっ! しーら頑張るのですー!」
……音もなく、そして素早く降り注いだ、天からの光に。
リュージはなんとなくだが、この現象の正体に気づいた。
「……母さん、見てるんでしょ」
リュージは上空を見上げてつぶやく。
するとリュージの目の前に、【転移】を使って母が登場。
「お呼びですかっ、リュージくんっ!」
わくわくそわそわ……と身体を揺らしながら、母カルマが言う。
「……さっきの緑の光はなに?」
するとカルマはパァっ! と表情を明るくする。
「よくぞ気づきましたっ! あれは天空城の監視システムにつけた新しい機能です!」
まるでセールスマンのように、流ちょうに話すカルマ。
「息子……とシーラもですが。身体に異変を感じたとき、治癒の光が降り注ぐようになっているのです」
「身体に異変って?」
「たとえば体力が減ってきたり、ケガをしたり、病気したり、そういった身体の不具合を察知して、回復魔法が上空からぶわわわっと降ってくる仕様になってます!」
……なるほど、とリュージは得心する。
最近の体調の良さは、これが原因か。
つまりリュージたちが疲れを感じる前に、先ほどの緑の光線がふってきて、リュージたちの体力を回復していたのだ。
最近は討伐クエストをやっていなかったので、ケガもダメージらしいダメージも受けてなかったから、新しいシステムの導入に、気づかなかったのだろう。
「これにお母さん、自動回復システム【母の愛】と名付けてみました」
頼んでないのに、システムの名前を開示してくるカルマ。
「この間の監視システムの名前、読めば効果がわかるものでした。しかし情緒が足りないと思ったんです。だから今回はネーミングに3日もかけて考えたんです!」
「……ちなみに、その新しいシステムの導入には何日かかったの?」
「5秒ですね」
……あんなとんでもシステム開発する時間より、どーでもいい名前つける方が時間かかるってどういうことなの……?
「まあともあれ、これでりゅー君がより安全に冒険をすることができます。ふふ、どうです? すごいシステムでしょう?」
ほめてほめてっ、と子犬のように期待を寄せてくるカルマに。
リュージははぁああ…………と深くため息をつくのだった。
お疲れ様です!
次回も頑張って書きますので、よろしければ下の評価ボタンを押していただけると嬉しいです。
ではまた!