139.邪竜、3人目の孫を喜べない【後編】
リュージはマキナとともに、カルマの寝室へとやってきた。
ドアを開けると、そこには……。
「ぐへへ……♡ りゅーくん……りゅーくーん……ぐへへ~……♡」
カルマがベッドの上でコロコロ転がっていた。
母が抱いているのは、リュージが印字された抱き枕(1分1スケール)だ。
「だいすきりゅーくん♡ らぶりーりゅーくん♡ ハァ好き♡ ハァ~~~~~すきっ♡」
ぬへへ……とカルマが幸せそうな、蕩けきった表情でリュージ(の抱き枕)を抱く。
「…………」
マキナは目をむいていた。
ぷるぷると震えている。
「りゅ、リュージ……こ、これはいったい……?」
「どうしたの、マキナ?」
「カルマは……娘はいったい何をやってる……? それに……この部屋の内装は……?」
「ああ……」
リュージは部屋の中を見回す。
部屋にはカルマお手製のりゅーくんフィギュア、リュージのブロマイドが壁にびっしり貼られ、それは遠目に見るとリュージの笑顔になるというもはやアートの領域の写真群。
そこかしこに置かれているリュージグッズを前に、マキナは圧倒されていた。
一方でリュージは、こんなの日常茶飯事であり、もはや何も感じないのだが……一般人から見れば少々おかしなふうに写ってしまうのかも知れない。
「息子グッズだって。母さんの趣味なんだ」
「なんという……能力の無駄遣い……」
まったくもってその通りだった。
「……し、しかしまあ、邪神の力を悪用しないぶん、うん、良いんじゃないか。うん、そうだな、うん、そうだ……そういうことにしよう……」
マキナは自分に言い聞かせるようにつぶやく。
一方でコロコロしていたカルマが、ピタッと動きを止める。
「ハッ……! りゅーくんの気配がする! りゅーくーん!」
抱き枕を離して、カルマがリュージに向かってだいぶしてくる。
正面からリュージはカルマを受け止めるが……勢いそのまま、後に倒れる。
カルマがリュージを押し倒し、覆い被さっているような体勢だ。
「わっぷ……」
「おはようりゅーくん♡ 今日も最高にかわいいよ~♡ 宇宙一だよ~♡ 素敵素敵だよ~♡ もう大好きっ♡」
ちゅっちゅっ、とカルマがリュージの顔にキスの雨を降らす。
リュージは恥ずかしそうにしながらも、拒むことはなかった。
「…………」
ハッ……! とリュージはマキナを見やる。
「わ、わがはいがいけなかったのか……愛情を注いでやらなかったから、こんなふうにおかしくなってしまったのか……そういうことなのか……すまん……」
「ち、違うよ! 母さんはおかしくないよ! マキナ」
そのときだった。
「マキナ……」
ぴたっとカルマがキスをやめて、体を起こす。
カルマは、幼女化したマキナを見て、目を大きく見開く。
「そ、そうだよ母さん!」
リュージは起き上がり、マキナのもとへいく。
「母さんのお母さん……マキナアビスだよ! 四天王だったんだ。だから、僕の勇者のチカラで、復活させたんだ」
「…………」
カルマはマキナを見て、呆然と立ち尽くしていた。
「カルマ。ひさしいな」
マキナが、カルマに近づいて、娘を見上げていう。
そのまなざしは優しく、目尻に涙が浮かんでいた。
マキナは再会を喜んでいるようだった。
だが……。
「…………ええ。マキナ」
一方でカルマは、複雑そうな表情をしていた。
喜んでいるようにも、悲しんでいるようにも、怒っているようにも見える。
「母さん……? どうしたの? 母さんのお母さんと再会できたんだよ?」
リュージは、母がもっと喜んでくれると思っていた。
だが期待に反して、カルマのリアクションは、微妙な物だった。
「……ええ、そうですね」
カルマはマキナのそばへ行く。
そして……そのまま、マキナの横を通り過ぎた。
「朝ご飯の、用意を……してきますね」
そう言うと、カルマは部屋を後に使用とする。
「ま、待って!」
リュージはカルマの元へ行き、母の腕を掴む。
パチッ……!
「っつ!」
まただ。
静電気が走ったのだ。
カルマが痛そうに顔をしかめた。
「だ、だいじょうぶ、母さん?」
「え? ああうん、へいちゃらですよ。ところで、なぁにりゅーくん?」
「マキナのこと……どうして避けたの?」
リュージは母の目を見て、まっすぐに問いかける。
いつでもリュージをまっすぐ見ていたカルマは……すっ、と目をそらした。
「……避けてないですよ」
「うそだよっ。だって明らかに避けたもん。どうして? お母さんとまた会えたんだよ? なのに……」
「…………ごめんなさい」
カルマはそう言って、リュージの手を、優しく振りほどく。
「…………」
カルマはマキナを見やる。
そして、小さくつぶやいた。
「少し……冷静になる、時間をください」
母はそれだけ言うと、自室を出て行った。
あとにはリュージとマキナだけが残される。
「母さん……どうして……?」
「いいんだ、リュージ」
振り返る。
マキナは、さみしそうに笑っていた。
「わがはいはカルマに嫌われているからな、しょうがない」
「嫌われてるって……どうして?」
「……あとで、わがはいの記憶を辿ると良い。今のリュージには、それができるはずだ」
勇者である自覚を得たリュージにはできる、ということか。
マキナは目を閉じて言う。
「またカルマと同じ時を、同じ場所で過ごせる。それだけで今、わがはいはとても幸福だ。これ以上は望まないよ」
「マキナ……」
リュージはキュッと唇をきつく結ぶ。
「こんなの……おかしいよ。だって……だってマキナと母さんは、家族なのに……」
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