138.息子、3人目を出産する
……リュージは夢を見ていた。
それは、よく見る自分の過去ではなかった。
誰かの、過去の夢だった。
『まま、ままぁ~……』
そこは、リュージが母と一緒に住んでいた、洞穴の中だ。
ただし、内装はかなり貧相だ。
人が使うような家具も寝具もなかった。
穴があり、わらを引いた簡単なベッドがあるくらいだ。
そこには、幼い竜がいた。
鱗の色は赤みがかった黒。
翼があり、どこにでもいそうな、大人しそうな竜だった。
『まま~』
……その声に、リュージは聞き覚えがあった。
それは自分の母、カルマアビスの声に他ならなかった。
だがおかしい。
ドラゴン姿の母と、目の前のドラゴンでは、見た目が少し異なる。
漆黒のオーラも、凶悪な見た目もしていない。
眼前の幼い母からは、邪神の持つ圧倒的な存在感をまるで感じさせなかった。
(……母さんが、まだ邪神を取り込んでなかったときの姿かな?)
カルマアビスは、邪神ベリアルを取り込んだことで、最強の力を手に入れた。
取り込んだことで外見も変換したのだろうか?
カルマのそばには、黄金の竜がいた。
こっちには見覚えがあった。
(マキナ……?)
そう、無人島で出会った海神竜マキナアビスがそこにいたのだ。
(あれ? でも母さんがマキナをママって……)
幼少のカルマは、マキナのそばへゆく。
そして、マキナの顔に、自分の顔をこすりつけていた。
カルマは安心しきった表情で、マキナに体をこすりつける。
マキナをママと呼び、そしてこの無防備に身を任せる姿……。
(もしかして……マキナは、母さんの……お母さん?)
マキナはカルマの顔を舌でなめると、ぐおっと立ち上がる。
『まま、どうしたの?』
『母は大切な仕事をしにゆく。カルマ、もうおまえは、ひとりで生きていくのだ』
え……っとカルマが目を点にする。
『まま、どーゆーこと……?』
『カルマ。いつまでも親に頼って生きていてはいけない。強く育つのだ』
マキナは翼を広げると、洞穴から飛び出る。
『ま、待って!』
まだ空を飛べないのか、カルマはよちよち歩きで、マキナの後を追う。
『まって! まま! ままー!!!!』
マキナはあっという間に見えなくなった。
カルマは一人取り残され、そしていなくなった母の名前を呼び続けた。
……。
…………。
………………。
「……夢、か」
リュージは目を覚ます。
昨晩、母と一緒にデートした後、リュージは自室のベッドで眠ったのだ。
窓からは朝日が差し込んでいる。
だいぶ夜更かししたせいか、起きるのが遅くなってしまった。
「マキナは、母さんの、お母さんだったんだ。けど……母さんは、マキナを……」
無人島から脱出する際、カルマはマキナを倒した。
マキナが無人島を守る結界を張っていたせいで、リュージ達は帰還できなくなっていたのだ。
カルマはマキナを撃破し、リュージ達は帰還を果たした。
「けど……それって、母さん……」
自分の母を手にかけたのだ。
リュージ達を、元の場所へ返すために。
そのときの母の胸中は、どんなものだったのだろうか。
……きっと、つらい思いをしてしまったに違いない。
「…………」
【案ずるな、リュージ】
「え……?」
そのときだ。
脳内に、マキナの声が響いたのだ。
「ま、マキナ?」
【ああ。わがはいだ】
「けど……え? どういうこと……?」
【わがはいはリュージ、貴様の体の中にいる】
へ? とリュージが目を丸くする。
【言ってなかったが、わがはいは魔王四天王の一人だ。ルコやバブコと一緒だ】
ハッ……! とリュージが気付く。
「も、もしかして……マキナも?」
【そうだ。もともと勇者には、魔王四天王を撃破し、それをシモベとして召喚する能力があると、島で言っただろう?】
確かに無人島で真実を知ったとき、その話を聞いた覚えがある。
ルシファーも、ベルゼバブも、カルマが倒し、勇者であるリュージが、幼女という形で召喚した。
つまり……。
「…………」
リュージは深呼吸をする。
……そうだ、このまま母とマキナがお別れなんて、ダメだ。
だってマキナは、カルマにとっての母親なのだ。
きっとカルマは、すごくつらい思いをしているに違いない。
だから……。
「……出てきて、マキナ」
リュージは念じる。
マキナアビスを、海神竜を、自分のシモベとして召喚すると。
そのときだ。
リュージの体が、光り輝いた。
それはルコやバブコのときと、同じ光だった。
ややあって、リュージのお腹から、ゆっくりと、小さな女の子が出てきた。
それは、白い肌に、金の髪。
頭にはドラゴンの角を生やした幼女だ。
……今回もまた、なぜか服を着ていなかった。
幼女がリュージの体から完全に出る。
光が収まり、ゆっくりと、目を覚ます。
蒼穹を思わせる、深い青い瞳が、ふっ……と緩んだ。
「上出来だ、リュージよ」
……かくして、リュージは3人目の娘を、出産したのだった。
ただし、前回、前々回と違い、今度は自分の力で、勇者としての自覚を持って、産んだのだ。
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