137.邪竜、おかあサンタになる【後編】
邪魔者がいたが、クリスマスの夜は概ね楽しく過ごせた。
大天使を寝かしつけた、深夜。
リビングにて。
「さぁ! お母さんサンタの……いや! おかあサンタの出番ね!」
カルマは拳をグッと握りしめ、高らかに宣言する。
「ちょっとカルマ、リューが起きちゃうわよ」
「ハッ……!」
カルマは両手で口をふさぐ。
リビングのテーブル前では、チェキータがニコニコしながら座っていた。
ワイングラス片手に、カルマを微笑ましい目で見てくる。
「あなたまだいたんですか、とっと帰れ」
「まあまあいいじゃない、それより準備しなくて良いの? リューの枕元にプレゼント置きに行くんでしょう?」
そう、今夜はサンタクロースが、よい子の元に現れる日。
だがこの世界にもサンタは実在しない、作り話の存在だ。
しかし息子は純粋に、サンタが来ることを信じている。
ならばどうする?
「母として……赤いあんちくしょうにかわって、息子にプレゼントを配らねば!」
パチンッ! とカルマは指を鳴らす。
すると、彼女の着ていた服装が、セーターからサンタ服へとチェンジ。
赤いズボンに赤い上着。
黒いベルトにブーツ。
「完璧……!」
「ちょっとやぼったいわねぇ。もう少し可愛くデザインできないの? おへそ見せるとか、スカートにするとか」
「いいんですよ、かわいくなくて。息子にプレゼントをあげることが最大の目的ですからね」
「はいはい。で? そのプレゼントはどこにあるのよ」
カルマは洞窟の外を指さす。
チェキータは首をかしげる。
ふたりは洞窟の外へとやってきた。
そこにあったのは……。
「なぁに、これ……」
カルマたちの前には、見上げるほどの巨大な白い山があった。
否、白い山と思ったそれは、白い袋で、中身が入りすぎてパンパンに膨れ上がっていただけだった。
「これ全部、リューへのプレゼントなの?」
「当然! これでも少ないくらいですよ」
んふーっ、とカルマが鼻息荒く言う。
「なんてったってりゅーくんは超が兆くらいつく良い子ですからね! プレゼントはたっくさんあげないと!」
「気持ちはわからなく無いけど、どうするの、これ? 中に入らないんじゃない?」
「そこなんですよねぇ……」
ううむ……とカルマが腕を組んでうなる。
「袋が大きすぎて中に入りません。困りました」
「中身を異空間にいれておくってスキルなかった?」
「とっくに付与してますよ」
「付与してなおここまで膨れ上がってるとかどんだけよ……」
異空間に仕舞いきれず、中にでてきてしまっているのだ。
「全部じゃなくて、最高の一個をプレゼントしてあげたら」
「えー……ううーん……まあ、それしかないですかねぇ」
うんうんと悩むカルマ。
ややあって、プレゼントを1つに絞った。
リュージはオモチャの剣がほしがっていた。
だからそれをあげようと思う。
「プレゼント決まって良かったわ」
「ええ! さぁりゅーくん、待ってて! おかあサンタが……プレゼントを届けに行くわ!」
「だから声が大きいって……って、ちょっとカルマ」
「へ?」
そのときだ。
「おかーさん?」
バッ……! と背後を振り返る。
そこには、パジャマ姿のリュージがいた。
「りゅ、りゅーくん!」
カルマは慌てて息子に駆け寄る。
「ダメじゃないですか、こんなに寒い日に外に出ちゃ。風邪引いてしまいます!」
カルマは万物創造で上着とマフラーを出現させる。
あわててリュージに厚着させる。
「ど、どうしたのです、りゅーくん。こんな夜更けに起きてきて……」
「めがさめたらおかーさんがいなかったの。どこいったのかなーってさがしてたの。まいごになったらかわいそーだなって」
「ああ……! 優しい……! 息子好き!」
大好き! とカルマはリュージをハグする。
「ぼくもおかーさんすきっ」
むぎゅーっと息子が抱き返してくれる。
ああ好きぃ~……っと思っていたが、やばい。
「おかーさん、そのかっこう……なぁに?」
「ああえっとその……あの……ええっと……」
どうやってごまかそう。
しかし息子に嘘はつけない! 死んでしまうぅう!
と困っていたそのときだ。
「ハァイ、坊や」
振り返ると、そこには、赤いサンタ服に身を包んだ、チェキータがいた。
どこからか見つけたのか、白いひげ(綿)と白いかつら(綿)をつけており、変装はバッチリだと言いたいらしい。
「いやあなた……いくらなんでも変装がバレバレ……」
「さ、サンタさんだー!」
息子は5歳。
変装を見抜けないのだろう。
リュージはキラキラした目で、サンタ(に扮したチェキータ)に近づく。
「さんたさん、こんばんわ!」
「はいこんばんは、坊や」
チェキータはしゃがみこんで、息子の頭を撫でる。
「お母さんから聞いたわ。きみはとっても良い子なんだってね」
「え、えへへ~♡ うれしいなぁ~♡」
ああ! 息子が笑ってる! かわいい! 尊い!
「そんな良い子の君にプレゼントよ。受け取って」
そう言って、チェキータはオモチャの剣を、リュージに渡す。
……ついさっきカルマが選んだそれだ。
リュージに見つかりそうになったとき、あわてて放り投げていたのだが……。
どうやらチェキータは剣を回収してきたらしい。
「わー! けんだ! すごい! かっこいー! ぼくこれほしったんだー!」
息子が飛び上がって喜ぶ。
選んで良かった……! とカルマは内心で涙を流していた。
「わかってると思うけど、もちろんオモチャの剣よ。他人に向かって斬りかかっちゃダメだからね」
「うん! わかってるよ!」
リュージは剣をむぎゅっと抱く。
「坊やはなんで剣なんてほしかったの?」
「えっとね……いっぱいすぶりして、おかーさんみたいに、つよいひとになりたいから!」
リュージの返答を聞いて、カルマはその場で真っ白になった。
うれしすぎて、死んだ……。
「じゃあがんばっていっぱい素振りするのよ」
「わかったー!」
力強くリュージがうなずく。
カルマはひょいっとリュージを抱きあげる。
「さぁりゅーくん。そろそろ戻りましょう。風邪を引いてしまいます」
「えー! ぼくへいきだよっ。サンタさんともっとおしゃべり……へっくちゅん」
「ほらやっぱり。戻りましょうね」
「はー……い」
カルマはリュージを抱っこして、チェキータを見て言う。
「りゅーくん。サンタさんにバイバイってしましょうね」
「さんたさん、バイバイ! ありがとー!」
ぶんぶん! とリュージがちぎれんばかりに手を振る。
カルマは……いちおう、手を振った。
チェキータは微笑むと、ふわり……と飛翔した。
どうやら魔法で浮いてるらしい。
そして彼女はウインクをすると、空の彼方に消えていった。
「おかーさん、サンタさんって本当にいたんだね! またあいたいなぁ~……」
「……そうですね。来年も良い子でいたら、会えますよ」
「ほんとっ? じゃあぼく、らいねんもいいこになるー!」
「ふふっ♡ まありゅーくんは年中無休、365日良い子ですけどねー」
……とまあ、そんなふうに、クリスマスの夜は過ぎていったのだった。
書籍、コミック第2巻は、12月25日に同時発売です!
どっちもかなりの自信作です!一巻に引き続き、頑張って書きました!
鍵山さんと四志丸さんに最高の絵を描いてもらい、最高の本に仕上がったと自負してます!
ぜひお手にとっていただけると嬉しいです!