135.息子、恋人と夜のデートする【後編】
屋台でスープを買い、リュージ達は街の中央広場にやってきた。
ベンチに座り、スープを飲む。
コンソメがきいていておいしい。
中にごろっとした野菜と腸詰めが入っていた。
腸詰めは歯を立てると、パキッといい音がする。
野菜はじっくり煮込んでいるからか、スープがしみてじつに美味だった。
「ふぅ……おいしいね」
「はふぃふぁふぉふぇふ~!」
シーラは頬をパンパンに膨らませながら答える。
頬が紅潮し、目がキラキラとしている。
この子はご飯を食べているときが、一番楽しそうである。
ごくん、とシーラが嚥下する。
「はう……食べきっちゃったぁ~……」
「僕の食べる?」
「そ、そんな! そんなのだめなのです……りゅーじくんのは……りゅーじくんのものなのですぅ~……」
そうはいっても、シーラの目は、リュージの手に持っている紙のコップにロックオンされていた。
たらり……とよだれを垂らしている。
リュージは苦笑し、コップを渡す。
「わーい♡ りゅーじくんやさしー♡ だいすきなのですっ。えへへっ♡」
はふはふ、とシーラがおいしそうにスープをすする。
リュージはスープを食べているときよりも、スープを恋人がおいしそうに食べていることを見る方が、心が穏やかになるのだ。
ややって、シーラが一息つく。
「おいしかったのですぅ~……♡」
夢見心地でシーラがつぶやく。
それと同時に、ぐぅ~~~~っと大きなお腹の音が鳴った。
「あう……はずかしー……」
「あはは。もういっぱい買ってくるね」
「そんな! 悪いのです! さすがにそんなにたくさんは……」
「いいって。気にしないで」
そう言って、リュージは屋台へ行って、スープを二つ買ってくる。
「はいこれ」
リュージは二つとも、シーラに差し出した。
「わぁ! わぁ! わぁー!」
シーラのウサ耳が、ぴこぴこー! と激しく動く。
「はっ! だ、だめなのです! 二個なんてそんな……申し訳ないのです」
「ううん、気にしないで。僕、シーラがおいしそうにご飯食べてるのみるの、好きなんだ」
「りゅーじくん……いいの?」
「うん。食べて」
シーラは躊躇する。
だがリュージからコップをうけとり、えへへと笑う。
「りゅーじくんは優しくって、だいすき♡」
きゃあ! とシーラが顔を真っ赤にしてうつむく。
そして凄まじい速さでスープを飲み干した。
「えぷ……まんぞくぅ~♡」
はー、とシーラが幸せそうにと息をつく。
見ていると、こっちまで幸せな気分になる。
「はっ! そ、そうだ違う違う……きゅーはりゅーじくんをはげまそーとおもったのにぃ~……しーらがげんきになってどうするのです~……」
あうあう、とシーラが涙目で言う。
どうやら気を遣って、励まそうとしてくれていたみたいだ。
リュージは微笑む。
「ありがとう、もう十分元気になったよ」
「ほえ? ど、どうしてぇ……?」
「シーラ見てたら、なんか元気出たよ」
それは本心だ。
幸せそうにもぐもぐとご飯を食べる彼女は、見ている自分も幸せにしてくれるのである。
「ほ、ほんと? えへへ……うれしいな……」
はにかむシーラが可愛らしかった。
すす、とシーラが近づいてくる。
小さな手で、リュージの手を握ってくる。
「…………うん。ほんとだ。元気になってるのです!」
「今何してたの?」
「手の温度をはかってたのです。気分がしょぼーんとなってるときは、手が冷たくなってるのです。元気になると……ぽかぽかしてくるのです!」
そういうものなのだろうか。
けど確かにシーラの手は、温かかった。
「安心したのです。しーら、りゅーじくんがなんだか元気ないのが、すごく気になってたのです」
シーラは島でのことを、ほとんど知らない。
自分が勇者のクローンであることを知っているのは、リュージと母のみである。
「なにかあった? そーだんにのるのです!」
「……ううん。大丈夫だよ。ほんと、相談に乗ってもらうまえに、元気になったんだからね」
「そ、そう? ううーん……しーら、相談に乗るつもりだったのに~……しーら、りゅーじくんのあいぼーなのに~……」
「もう十分に励まされたよ。ありがとう、僕の相棒。なんて」
ふふっ、とリュージが笑う。
シーラはそれを見て笑った。
「元気になって良かった! しーら、りゅーじくんが元気なのが、一番なのですー!」
……心のとげは、まだ抜けない。
不安も恐れもある。
けど、シーラに励まされ、リュージの心は、かなり上向きになったのだった。
書籍、コミック第2巻は、12月25日発売予定です!
書籍もコミックも全力で頑張って作りました!
どちらも最高の本となってます!
お手にとってくださるというれしいです!