135.息子、恋人と夜のデートする【前編】
無人島から帰ってきた夜。
リュージは自分のベッドに横になり、物思いにふけっていた。
無人島で、マキナから突きつけられた真実。
自分は、人造の勇者。
作られた存在。自分に、本物の両親はいない。
「…………」
母は、そんな作り物の自分を受け入れてくれた。
心からうれしかった。
だが心配事は晴れなかった。
人に作られた勇者。
何の目的があって、自分は、作られたのか……?
作られたとしたら、いったい誰の手によって……。
「……わかんないことだらけだ」
リュージは自室のベッドから立ち上がる。
不安とか疑問とかが、頭の中をグルグルまわっており、寝付けそうにない。
部屋を出て、すぐにリュージは気付いた。
廊下から、何か甘い匂いがただよってくるのだ。
「下の階……かな」
リュージは廊下を渡り、一階に降りる。
きっちんには……ウサ耳がひょこひょこと揺れていた。
「うーさーぎー。なぜとぶの~。うさぎのかってでしょ~♪」
「……シーラ」
「はわっ! りゅー、りゅーじくんっ!」
自分の恋人、兎獣人のシーラが、台所で何かを作っていた。
リュージを見て驚き、手に持っていたカップを割ってしまった。
「ああ……やっちゃったあ~……」
「だ、だいじょうぶ、シーラ?」
リュージは慌てて彼女の元へ行く。
カップ割れ、中身が地面にぶちまけられている。
だがシーラにケガはなさそうだ。
ホッとするリュージ。
「なにしてたの?」
「えとえと……ちょっと、おなかすいちゃって……ココア作ってたのです」
落としちゃったけど、としょんぼりするシーラ。
リュージは少し考えて、彼女に提案する。
「眠くないなら、ちょっとココアのみに行かない?」
「! いくのですー!」
ぴーん、とウサ耳が立つ。
「外寒いから、着替えて10分後にここに集合ね」
「らじゃー!」
だだだっ、とシーラが二階へと上がっていく。
リュージは割れたカップと濡れた床を手早く掃除し、二階に上がって、自分の部屋へ向かう。
と、そのときだった。
「リュージ」
「ルトラ……どうしたの?」
廊下を歩いていたのは、人狼の少女ルトラだ。
「……下で大きな落としたから、どうしたのかなって」
「ああそれ……。ちょっとシーラが慌ててカップを落としちゃったんだ」
「……そう。ケガはないの?」
「うん。シーラは大丈夫」
「……そうじゃなくて、リュージに」
「え? う、うん。だいじょうぶ」
そう……とルトラが安堵のといきをつく。
「……もう遅いんだから寝なさいな」
「えっと……ごめん。ちょっとこれから出かけるんだ」
「……こんな夜更けに? どこへ?」
「シーラとちょっとデート」
ピシッ……! とルトラの表情が固まる。
「へ、へぇ……そ、そう。ま、まぁ……ど、どうでもいいけどっ!」
だだっ、とルトラがその場を去って行く。
あとにはリュージだけが残される。
「なんだったんだろ、ルトラ」
「りゅーじくん! じゅんびおっけーなのですっ?」
上着を着込みまくり、もこもこになったシーラがそこにいた。
「ごめん、すぐに着替えてくるから。先に下で待ってて」
かくしてリュージは、夜のデートに向かうのだった。
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