17.息子、獣人とのラブコメを邪魔される
お世話になってます!
母による監視システムが完成してから、何日かが経過したある日のこと。
冒険者ギルドにて。
リュージはぐったりと、酒場の机に突っ伏していた。
「よ、余計に疲れる……」
リュージはここ数日の出来事を思い出していた。
……母による、自動監視システムとやらが導入された。
明らかにプライバシーの侵害だが、そうしないと母はついてくるというし、何より冒険の邪魔をしてきそうだった。
なのでリュージは了承したわけだが……。
討伐クエストはリュージたちが何かする前に【光】によって掃除されるため、仕事にならない。
なので最近は主に、採取系の仕事をやっている。
その間も母による監視が続いているため、近くにモンスターの気配がすると、秒で片付けられるのだ。
仕事が楽と言えば楽だが……楽すぎて、なんだか嫌だった。
「リュージくん、お疲れ様なのです?」
リュージの隣に座っているのは、兎獣人のシーラだ。
小柄な体躯。
ぺちょんと垂れたロップイヤーが実にあいらしい。
シーラが心配げに、リュージを見やる。
……その顔に、パンかすをつけながら。
「ぷっ」
パンのかすを顔のつけながら、真剣に問うてくるシーラが、なんだかおかしかった。
「ど、どうしたのですか?」
「シーラ。顔のところにパンかすついてるよ?」
「え?」
シーラは手で口元を探る。
ぽろっと取れたそれを見て、「あう……」と顔を赤くする。
「リュージくん、どうして早く教えてくれなかったのです?」
むー、と頬を膨らませるシーラ。
「ごめん。別にいじわるしたわけじゃなくて、僕も今気づいたんだ」
「あ、そっかぁ……。早とちりしてごめんなさいなのですっ!」
ぺこっ、とシーラが頭を垂らす。
ぺちょん、と垂れたうさ耳が前に垂れて、テーブルの上のシチューの中に入った。
「あちちっ、あちっ」
わたわた、と慌てるシーラ。
「あー、ほら。動かないで」
リュージはハンカチを取り出すと、シチューのついた耳をふく。
「あう……ご迷惑おかけしてごめんなさいなのです……」
涙目になるシーラ。
垂れ目がちなので、さらに弱々しく感じる。小動物系というか。
「ううん、気にしないで。別に迷惑なんて思ってないよ」
「りゅ、リュージくん……」
シーラは自分の隣に座っている。
正面に座れば良いのだが、前だと周りがうるさくて、会話しながら食事ができない。
「ありがとー」
にこーっと笑うシーラ。
「え、えっと……うん」
リュージがハンカチをポケットに入れようとする。
「あ、まってリュージくん」
はしっ、とシーラがリュージの手を握ってくる。
「ハンカチお洗濯するのです……って、あ」
「あ」
リュージとシーラの手が触れあう。
重なり合い、ふたりとも、恥ずかしそうに頬を染めた。
「…………」
「…………」
冒険者となってから、リュージとシーラは、ほとんど一緒に時間を過ごしている。
ふたりとも年頃の男女だ。
となると、恋愛感情のひとつやふたつも芽生えてくる。
「リュージくん……」
シーラがじっとリュージを見つめてくる。
良い雰囲気になっていた、そのときだった。
ピュンッ……!!
どごぉおおおおおお!!!
上空から【光】が落ちてきて、テーブルの上に爆風を起こす。
「うわぁああ!」「なんだぁあああ!?」
テーブルの上の料理が、全て吹き飛んでいった。
リュージとシーラはイスから転げ落ちていた。
「あいたた……なのです」
「だ、だいじょぶシーラ?」
「は、はひ……」
四つん這いになるシーラに、リュージが手をさしのべる。
ピュンッ……!
どごぉおおおおおん!!!
リュージとシーラの間に、【光】が上空から降ってきて風を巻き起こす。
爆発によるダメージは、不思議となかった。爆風とエフェクトが強いだけだ。
すってんころりんするシーラ。
「だ、大丈夫!?」
「は、はいぃ~……」
リュージ立ち上がって、空を見上げる。
ギルドホールの天井に、穴が開いていた。
「なんだなんだ?」「どうしたどうした?」「大丈夫かおまえら?」
リュージを心配して、冒険者たちが集まってきた。
「き、危険ですっ! 僕の周りにこないでくださいっ!」
さ……っと青い顔をして、声を張るリュージ。
「なんだとっ!?」「危ないだって!?」「敵襲か!?」「よーし、坊主、俺たちの後ろにかくれなっ!」
冒険者たちが、みなリュージとシーラをかばうように、取り囲む。
「安心しろ坊主っ! 俺たちがまもってやっから!」
「み、皆さん……」
頼れる先輩方に、じぃんと感動するリュージだったが。
ピュンッ! ピュンッ! ピュンッ! ピュンッ! ピュンッ! ピュンッ! ピュンッ! ピュンッ! ピュンッ!
「がっ!」「ぐえっ!」「ぐぅ……!」
空から降り注いだ、無数の光によって、冒険者たちが倒れていく。
「わぁー! みなさん大丈夫なのです!?」
シーラが慌てて、冒険者たちに近寄る。
リュージも彼らのひとりに近づいて、肩を揺する。
「ぐぅー……」「がぁー……」
「……どうやら無事みたい」
「寝てるみたいなのです」
良かったぁ……と安堵するのもつかの間。
リュージとシーラが近くに、膝がぶつかりあうほどの距離に座っていることに気づくと、
ピュンッ……!
ばごぉおおおん!
と、爆風がふきすさび、シーラが「わぁ~」ところころ転がっていく。
ダメージは全然なかった。
シーラも、そして冒険者の先輩方も無事だ。
「母さん!? いるんでしょ!?」
するとはかったようなタイミングで、「お母さん登場!」とドアを開けてカルマが入ってくる。
「なんで爆撃するのさっ!」
かみつくリュージに、母はどこと吹く風で言う。
「りゅー君に触れて良いのはお母さんだけ。それ以外の人が触れたら【光】が降ってくるよう、システムをアップグレードしておきました」
それグレードダウンしてるんだけど……! とリュージは内心で憤る。
「先輩方に打ったのは大丈夫なのっ?」
「ええ、麻酔効果のある光魔法です。身体に無害で、あたると眠くなるだけです。ここちよい睡眠を提供してあげたのです。むしろ彼らには感謝してもらいたいくらいですね」
どうやら先輩たちは無事のようだ。
ほっとする。
「それと……なんで近づくたびに光が降ってくるの?」
「え、それは息子に悪い虫がつかないようにですけど?」
真顔で首をかしげるカルマ。
「りゅー君に恋愛はまだ早いです。シーラ、あなたは良き相棒でいてください。ラブコメは早い」
「らぶ、こめ?」
「母さんっ!!! もうっ!!!! そんなことまで口ださないでよ!」
どうして母に、恋愛感情まで干渉されないといけないのか。
しかし母はまじめくさった顔で首を振るう。
「りゅー君にはふさわしい運命の相手を、お母さんが選んであげます」
「そんなの自分で決めるってばっ! もう母さんのバカっ! バカッ! もぉ!」
……監視システムができたせいで、リュージにはさらなる苦難が続いているのだった。
お疲れ様です!
明日も頑張って更新します!
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ではまた!