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134.邪竜、エルフと雪見酒する


 無人島での出来事を終え、孫たちと眠りについてから数時間後。


 ぱち……とカルマが目を覚ます。

 そばに彼女の気配を感じた。


 孫たちを起こさぬよう、ゆっくりと布団を抜ける。


 パチンッと指を鳴らし、転移スキルを発動。


 気付けばカルマは、自宅の屋上に転移していた。


「…………さむ」


 外に出ると肌を刺すような寒さが襲う。

 カルマは万物創造の力を使い、もこもこの上着を出現させそれを羽織る。


「ハァイ、カルマ」


 屋根の上に、監視者エルフのチェキータが座っていた。


 カルマは彼女のそばまでやってきて、隣に座る。


「夜更かしねカルマ。子供はもう寝る時間よ」

「いつまでも子供扱いしないでください」


「そうだったわね」

「ええ」


 ここへ来たのは、チェキータの気配を察したからだ。


 それと……。


「チェキータ。私が不在の間、ルコたちの面倒、ありがとうございました」


 ペコッ、とカルマが頭を下げる。

 チェキータは……目をむいていた。


「何です、その顔」

「あ、いや……あなたが素直に頭下げてきたのって、初めてなきがしてね」


 彼女はすぐいつも通りの、慈愛に満ちた笑みを浮かべる。


「まさか。そんなことは……」


 そう言えばこの女に頭を下げたことほとんどなかったなと思った。


「迷惑かけましたね。これはお礼です」


 カルマは異空間に収納されていたそれを取り出し、チェキータに突き出す。


「あら、これワインじゃない。しかも結構上物。あなたが作ったの?」


「まさか。買ったんですよ」


「買った……か。ねえカルマ。グラス出して。一緒に飲みましょう?」


「こんな寒いのに?」


「寒いからこそいいんじゃない。それにほら見て。雪よ」


 見上げると、灰色の空からひらひらと、白い雪片が振ってきた。


 はぁ、とため息をつくと、白いそれが天に向かって伸びて消える。道理で寒いわけだ。


「まったく、しょうがないですね」


 カルマは万物創造の力を使い、二人分のグラスを作る。


 チェキータが器用にワインのふたをあけ、グラスに注ぐ。


「はい」


 エルフがグラスをカルマに突き出してくる。


「何に乾杯するんです?」

「あなたたちが無事に帰ってきてくれたことを祝しましょう」


 カルマはと息をつくと、チェキータのグラスに、自分のグラスを付き合わせる。


 チェキータはニコニコしながらカルマを見ながら、カルマはエルフから視線をそらして、酒を飲む。


 喉をアルコールが通ると、カッと体が熱くなる。


「……ふぅ」


 気が抜けたのか、あるいはアルコールが回ったからか、カルマはチェキータの肩に頭を乗せる。


「何かあったの、カルマ?」

「……まあ、色々」


 普段悩みがあるときは、割合この女に相談していた。


 だが今は……そういう気分になれなかった。


 いろんなことが起きた。

 自分の母マキナと、無人島で偶然再会したこと。


 マキナと戦い、打ち破ったこと。


 そして……息子が、勇者のクローンだったということ。


 いろんなことが起きすぎて、正直カルマは頭がパンク寸前だった。


 息子の前では平静さを保っていた。

 だが今、その緊張の糸がぷつんとキレてしまった。


「…………」


 知らず、カルマの頬に涙が伝う。

 チェキータは優しく、カルマの長い髪を撫でてくれる。


「……理由を聞かないんですね」

「聞かないわよ。聞かれたくないんでしょう?」


「……なんでわかるのですか」

「わかるわよ。どれだけ長くあなたと付き合ってきたと思ってるの?」


「それも……そうですね」


 チェキータがよしよしと頭を撫でる。

 感情の波が、知らず静かになっていく。


 カルマは頭を上げて、再びお酒を飲む。


「あなた、どんどん大人になってくのね」

「なんですか、藪から棒に」


「昔のあなたなら、辛いことがあったら、すぐに顔に出てたわ。けど今は違う。息子たちの前ではいつも通りの、母親でいられてた」


 カルマは目を丸くする。

 彼女は、そこまでお見通しと言うことか。

「成長したわねカルマ。ほんと、いつの間にかお姉さんの手の届かないところまで、高く大きく、成長しちゃって……」


 今度はチェキータが、カルマの肩に頭を乗せてくる。

 カルマは拒まなかった。


「これはもう、お姉さんは用なしかしらね……」


「え? あなた何を言って……」


「んーん。何でも無いわ」


 チェキータは立ち上がり、グラスに残ったワインを飲み干す。


「ありがとうカルマ。おいしかったわ」


 そう言って、魔法でグラスを消す。

 残った瓶を持って、チェキータが手を振る。


「それじゃねカルマ。夜更かしはダメよ」

「わかってますよ。さっさと帰れ」


 チェキータは微笑んで、その場から消えた。

 おそらくはまた仕事に戻るのだろう。


「…………」


 チェキータは監視者。

 邪竜カルマアビスを監視し、国に害を及ぼさないよう見張るのが仕事。


 しかしここ数日、カルマはチェキータの前から消息を絶った。


 監視者として、監視対象を見失ったこと、きっと上司から色々言われただろう。


 カルマが勝手に無人島に行ったせいでチェキータに迷惑をかけてしまった。


 そして急にいなくなってしまったことで、チェキータに心配もかけてしまった。


 ……それらの内心の不安を、あの女は微塵もおもてに出していなかった。


「……何が成長しただ。あなたには……まだまだ及びませんよ」


 カルマはため息をついて、その場を後にするのだった。

書籍、第二巻は12月25日発売です!

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