133.邪竜、孫娘たちと一緒に寝る
新章突入の前に、幕間を挟みます。
無人島で、マキナアビスを撃破し、カルマは息子たちとともにホームタウンへと帰ってきた。
その日の夜。
カルマが自室で眠っていると、誰かがベッドに入ってきた。
「ん? 誰ですか?」
「よ」
すぽん、と布団から顔を出してきたのは、褐色の幼女ルコだ。
元は魔王四天王のひとり、大悪魔ルシファーだった。
だがカルマが撃破したあと、リュージの子供として転生したのである。
「おやルコ。どうしたのです?」
「かるま。るぅ。いっしょ。ねる。かまえ」
「いいですよ♡」
ルコはンフーッと満足そうに鼻息をつくと、カルマのとなりに寝ころぶ。
「ここ。おふとん。あったかい」
「ふたりいるんだから当然です。最近めっきり寒くなってきましたからねぇ」
常夏の無人島とは違い、季節はもうすっかり冬。
布団の中は確かにつめたい。
「でもルコとこうしてくっついて寝れば、とっても暖かいですよぉ~♡」
「どーい。かるま。もっと。ぎゅっとしろ」
カルマは娘の小さな体を、むぎゅーと抱きしめる。
湯たんぽを抱いているようでとても温かかった。
ちなみに息子の部屋には、最強の暖房魔法がかかっているため、冬でも暖かいのである。
「ん? おやルコ。背中に手足を回しましたか?」
「ちがう。るぅ。そんな。てあし。ながく。ぬ」
「では誰が……ってバブコではありませんか」
背後を見やると、そこには緑色の髪をした幼女がいた。
彼女は蟲の王ベルゼバブの転生体、名前をバブコと言った。
この子もまたカルマが撃破した後、リュージの娘として転生したのである。
「どうしたのです、バブコ?」
「ルコがここで寝るらしいからな。われもここで寝てやろうと思ってな。ルコはひとりじゃねむれんからの」
ぷいっ、とバブコが顔をそらしていう。
「るぅ。へーき。かるま。いる。ばぶこ。ひとりで。ねろ」
「ンなっ……! ず、ずるいぞ貴様! われも……」
ハッ! とバブコが自分の発言の意味に気付き、かぁ……っと頬を赤らめる。
「ふぁー……孫娘に好かれ囲まれ、おばあちゃま昇天しちゃいそうですよぅ~……♡」
うっとりした表情で、カルマがつぶやく。
「べ、べつにわれはおぬしをなんとも思っておらんわっ」
「るぅ。かるま。おきにいり。ばぶこ。ちがう。みたい」
「ふざけるな! われも! すっ…………ま、まあ……嫌いではない」
つんっ、とそっぽを向くバブコが愛おしく、カルマが片手を伸ばして彼女を抱き寄せる。
両隣に孫を抱き寄せて、一緒に寝ているような体勢だ。
「では三人で寝ましょう♡」
「おー」「ま、よかろう」
カルマの柔らかな体に、孫たちが抱きついてくる。
「かるま。るぅ。めっちゃ。さみしかった」
「ごめんなさい。しばらく留守にしていて」
「ほんと。ながすぎ。るぅ。とても。さみしかった」
ルコが潤んだ目をカルマに向ける。
孫の頭をよしよしとなでる。
「まあ普段うるさいヤツがいなくてせーせーしたわい」
「とかいいつつ。ばぶこ。さみしそーだった」
「はんっ。われは別にさみしくはなかったし。おぬしみたいに」
「でも。ばぶこ。よる。るぅ。だきつて。ないてた」
「なななっ! 泣いてないし! うそじゃぞほんとうじゃぞー!」
真偽はともかく、ふたりともカルマのことを気にかけてくれていたようだった。
孫娘たちが自分の安否を気にしてくれた。 それはカルマにとってうれしいことだった。
「ありがとう二人とも。そしてごめんね。もう勝手にいなくなったりしないから、おばあちゃまを許してね」
ちゅっ、ちゅっ、とカルマはバブコたちの額にキスをする。
ルコはフヘッ、と笑う。
バブコは顔を赤くして、ぷいっとそっぽを向く。
「つぎ。やくそく。やぶったら。なかす……ぐぅ~……」
ルコは安心しきった表情で、すやすやと安らかな寝息を立て出す。
「まったく……この褐色幼女め。余計なことばかり言いよって」
ふぅ、とバブコがため息をつく。
「バブコ。ルコのめんどう、ありがとうございます」
「いや、われは何もしておらんよ。チェキータがいたからな」
「……そうですね。あとで、ちゃんとお礼を言っておかないと」
するとバブコが目を丸くして、カルマを見ていた。
「どうしたのですか?」
「いや……おぬし、なんだか丸くなったなと思ってな」
「丸く?」
「前はりゅーじひとすじ、それ以外はどーでもいい、みたいな感じで、もっとピーキーじゃった。今はなんというか……普通」
普通。
これほどまでに、カルマに縁遠い言葉はないだろう。
「色々あっておぬしもようやく、普通になったと言うことかの」
「そうですね……色々ありましたから、この数ヶ月間」
息子と一緒に巣穴を出たのが今年の夏。
それから約半年で、いろんなことがあった。
経験が蓄積された結果、昔とは別の視点をモテるようになったのかも知れない。
「まあ……おぬしも……ふぁあ~……疲れただろ。もう寝よう」
「そうですね。お休みバブコ」
そんなふうに、カルマは孫に囲まれて、目を閉じるのだった。
「冒険に、ついてこないでお母さん!」書籍版2巻の発売日が、12月25日に決定しました!
皆様の応援のおかげで、こうして2巻を出すことができました!本当にありがとうございます!
これからも頑張って更新していきます!よろしくお願いします!