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132.息子、真実に向き合う【中編】



 無人島での出来事から、数時間後。


 リュージはカミィーナに帰還し、自宅へと戻ってきた。


 時刻は深夜近く。

 自分の部屋にて。


 久方ぶりの、自分のベッドに横になった。

「……疲れた」


 ベッドで大の字になるリュージ。

 呼吸すると部屋ににおいを感じた。普段暮らしているときは何も感じなかったのだが、家を何日も離れていたからだろうか。


 目を閉じると、遠くで潮騒が聞こえてくる。

 無論それは幻聴だ。


 毎日のように、朝から晩まで聞いていた波の音が、耳の奥に残っているのだろう。


 ……目を開ける。

 そこには見慣れた天井が……否。


「りゅーくんっ♡」

「か、母さん……」


 見慣れた母の顔が、すぐそこにあった。

 ニコニコとした笑みを浮かべて、リュージをのぞき込んでいる。


 赤みがかった黒髪が垂れて、リュージの顔面まで垂れていた。

 すぅ……っと呼吸すると、花のような甘い香りにまじって、潮の香りが鼻腔をくすぐる。


「お加減いかがですか?」


 母が不安そうに言う。

 リュージは体を起こして、こくりとうなずく。


「だいじょうぶ。だいぶ楽になった」

「そうですか……良かったぁ。くすん」


 母は安堵の吐息をついていた。

 息子のを体を心配してくれていたのだろう。


 無理もない。

 ここへ到着してすぐ、リュージはベッドへ直行。そして深い眠りについたのだから。


「……ルコやチェキータさんたちは?」

「ルコとバブコは眠ってます。あの無駄肉は明日また来ると言ってました」


 無人島で黄金の竜と戦ったカルマ。

 カルマ曰く、あの竜が、自分たちを島に閉じ込めていた元凶だという。


 母は金竜を撃破。

 結界が解かれたので、カルマのスキル【最上級転移ハイパー・テレポーテーション】を使用し、冒険者ともども、カミィーナへ帰還した次第だ。


「ゴーシュ隊長たちは……?」

「その場で解散しました。無人島での魔力結晶の回収は、後日行うそうです」


 母は、ゴーシュたちを今度無人島へと連れて行ってあげるらしい。


 他人に興味を持たなかったカルマが、ゴーシュたち冒険者にも気を配ってくれるようになって、うれしかった。


「…………」

「りゅーくん。ハイこれっ!」


 カルマがぱちんっ、と指を鳴らす。

 空間に穴が空いて、そこにカルマが手を突っ込む。


 にゅっ、と取り出したのは、皿に入ったビーフシチューだった。


「え?」

「りゅーくん帰ってから何も食べてないでしょう? だからシチュー! 食べましょう? ね?」


 カルマがニコニコしながら、お皿とスプーンを手渡してくる。


「僕、食欲……」

「ダメですりゅーくん」


 カルマが真剣な表情で、リュージに言う。

「りゅーくん、とても顔色が悪いです。こういうときはご飯です! 温かいもの食べたら元気になりますよ!」


 ……母の心遣いに、リュージは泣きたくなった。

 傷ついたリュージの心に、母の優しさがじわじわと染み渡る。


「……ありがとう」

「オプションでお母さんがシチュー食べさせてあげましょう! なーんてねっ。ゆっくり食べてください」


 えへへっとカルマが笑う。


「……ううん。食べさせて」

「ふぁ!?」


 今日はなんだか、カルマに甘えたい気分だった。


 ……自立できない。男失格だと思う一方で、今はカルマに寄りかかっていたい気分の方が強かった。


「もももっ、もちろんっ! っしゃあ! 息子にあーんできるぅううううう! 生まれてきて良かったぁああああああああああああああああああああああ!!!!」


 カルマが拳を握りしめて、ガッツポーズを取る。

 すごく楽しそうだった。

 母はいつも通り、元気いっぱいで、明るくて……。


 リュージは不安になった。

 もし、カルマがリュージの真実(勇者であるということ)を知ったら、どうなるのだろうか……。


 変わらずに、この太陽のような笑みを、自分に向けてくれるだろうか……と。


「ささっ! りゅーくんあーんっ♡ あーーーーん♡」


「う、うん……」


 先のことはわからない。

 ただ今は、カルマに甘えるように、あーんと口を開いた。


 カルマに食べさせてもらったシチューは、温かく、おいしかった。


 そしてカルマに優しくしてもらって、リュージの心は、ぽかぽかと温かくなった。


 ややあって、食後。


「……母さん、あのね。聞いて欲しいことが、あるんだ」

「ふむ、聞きましょう」


 いつまでも自分の中で抱えていても、この問題は解決しないだろう。


 ゆえにリュージは、無人島で知った自分の真実を、母に明かすことにした。

 

 本当は誰にも言いたくなかった。

 しかしこの母ならば、いつも無条件の愛情を与えてくれるこの女性ひとならば。

 リュージはカルマに、今日知った真実を、ゆっくりと語り出すのだった。

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