132.息子、真実に向き合う【前編】
……金竜マキナアビスと、邪竜カルマアビスの、無人島でのバトルから数時間後。
夜。誰もいなくなった、文字通り無人島を訪れる影が、一つあった。
「くひっ。あらあら。ずいぶんと派手に暴れ回ってくれたわねぇ。あの邪竜ちゃんは」
砂浜に立つのは、一人の男だ。
ひげ面の成人男性。
彼は今回、リュージたちに無人島調査依頼を出した張本人だった。
厳つい見た目の割に、声は女性のそれだった。
「さぁて、っと」
ひげ面の男は、自分の顎の下を手で掴む。
そして一気に、ベリッ……! と、かぶり物を脱ぎ捨てるように、自身の【皮】を破った。
【皮】をやぶった後、底に立っていたのは……白髪赤い目の女だった。
白衣にメガネ、そしてストールのように、白い蛇を首からかけている。
彼女の名前は【メデューサ】。
魔王四天王最後のひとり。
後方のメデューサ。
「【脱皮】は何度やっても気持ちいいわぁ♡ くせになっちゃう」
メデューサはひげ面男の【皮】を脱ぎ捨てて言う。
彼女は相手の人面の皮を剥ぎ、それを身につけることで、まったく別人になりきる特別なスキルを持っていたのだ。
「さて……っと」
彼女は砂浜から、島の中心部めがけて歩いて行く。
「マキナちゃんの居場所はつかめていた。けどあの子は魔封じの結界を使える。それを破るすべはワタクシにはない……だから、利用させてもらったわ♡」
カルマを、そしてリュージを。
メデューサは利用して、この地へとやってきたのである。
【彼】が眠るこの土地に。
ほどなくして、メデューサは目的地に到達した。
それはマキナの守護していた、祠のあった後だ。
「あらあら。大きな穴が空いてるわねぇ」
しゃがみ込んでメデューサが言う。
カルマのブレスによって、祠は完全に消失していた。
それどころか、ドラゴンのブレスによって、地面に大きな穴が空いている。
「ま、こちらとしては都合が良いのだけれど」
メデューサは微塵も恐れることなく、穴の中へと飛び込む。
落下速度が魔法によって遅くなる。
【空中浮揚】の魔法を使って、メデューサは地中深くへと降りていく。
ややああって、メデューサはマキナたちがいた最下層へと到達した。
そこは巨大な魔力結晶があった。
だがカルマのブレスによって、粉々になっていた。
「くふっ♡ くふふふふっ♡」
砕け散った魔力結晶の破片の中に、【目的のぶつ】を発見する。
それは、魔力結晶に閉じ込められていた、勇者の遺体だ。
「やぁっと見つけた……やぁっと、手に入ったわぁ……♡」
閉じ込めていた魔力結晶と、そこにかかっていた封印の術式は、カルマの破壊の力によって、完全に消失していた。
勇者の生の遺体が、そこにある。
メデューサは遺体をのぞき込むようにして立つ。
懐からナイフを取り出し、彼女は自分の手首を切った。
ドバッ、とメデューサの血があふれ出る。
その血は彼女の腕をつたって、遺体へと降り注ぐ。
「さぁ……ベリアル様。あなたの配下である魔族の血と魔力ですわ♡」
すると……びくんっ、と死体が強く、けいれんした。
どくんっ、どくんっ、と勇者の遺体が脈動する。
「さぁ……お目覚めになって、ベリアル様。機は、熟しましたわ」
メデューサがつぶやく。
熱っぽく、まるで、恋人がそうするように。
すると勇者の遺体は、ゆっくりと、起き上がる。
メデューサは笑みを濃くして、復活した主人を見やるのだった。
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