131.邪竜、息子を守るために立ち向かう【後編】
マキナと対峙するカルマ。
砂浜にて。
カルマが振り返る先には、息子のリュージがいる。
雨に濡れている、その顔は真っ青だ。
このままでは風邪を引いてしまうかも知れない。
それにマキナに酷いことをされ、リュージは精神的にもダメージを受けている。
早く抱きしめてあげたい。
息子の心を癒してあげたい。
【カルマ】
カルマが見上げる。
金竜マキナアビスが、カルマとリュージを見下ろしている。
【これ以上おまえとその子が一緒にいると、おまえが苦しむことになるぞ】
「……うるさい」
【おまえの息子は勇者だ。勇者と邪神は光と闇のようなもの。決して混じり合うことは】
「うるさいっ!!!!」
カルマはマキナに向かって、決然という。
「ごちゃごちゃうるさいんですよ! この子はリュージ! 私の大事な息子!」
カルマは右手に破壊の雷を宿す。
魔力を限界まで込める。
「そしておまえは大切な息子を傷つけた……敵だ! たとえ誰であろうと、息子を傷つけたおまえを私は許さない!!!」
たとえ相手が親であろうと関係ない。
自分にとっての大事な物は揺るがない。
【……そうか】
マキナがうつむいて言う。
その表情は、どこか晴れ晴れとしていた。
【ならば息子を最後まで守ってみせよ。万難から、理不尽から、そして世界から】
「言われなくとも……やってやる!!!」
カルマはだっ……! とマキナめがけて飛び上がる。
息子が背後にいる。
息子を守るためならば、カルマの力は何倍にも何十倍にも……いや、無限大にもなるのだ。
マキナが嵐と雷のブレスを吐き出す。
破壊の雷は……使わない。
「はぁあああああああああああ!!!」
万物破壊はフィニッシュのために残す。
カルマは拳を握りしめ、マキナのブレスを殴りつける。
カルマはそのまま空を駆ける。
マキナの長い胴体に着地する。
「うぉおおおおおおおおおおおおおお!」
右手をマキナの胴体に突き刺す。
バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ!!!!!!!!!!!!!!
マキナの体は魚類のそれに近い。
人体よりも水分を多量に含むマキナの体は、雷を非常に通す。
カルマの破壊の雷は、あっという間にマキナの体全体を焼く。
ややあって、黒焦げになったマキナが、大きな音を立てて、海中へと倒れる。
黒焦げになったマキナが、水面に浮かぶ。カルマの最強の攻撃を受けてなお、命があるようだ。
「…………」
【そう、だ。カルマ。それで、いい】
マキナが目だけをカルマに向けて言う。その声は瀕死だというのに穏やかな物だった。
【母とは……万難を排して、子供を守るもの。カルマ……。お母さんに、なったね。おめでとう】
「ッ!」
マキナは嬉しそうに、そういった。
体が灰になり、さらさらと空中へと消えていく。
「…………お母さん」
マキナがいなくなった後、カルマはそうつぶやいた。声が涙で震えていた。
見上げると先ほどまでの嵐はなくなっており、皮肉なくらい、キレイな夕焼けが広がっていたのだった。
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