16.邪竜、天空の城から【光】を落とす【後編】
前後編の後編です!
チェキータと分かれた後、リュージはシーラとともに、クエストに出発した。
目的地は、以前母と薬草を採りに行った森だ。
「…………」
「リュージくん? どうしたのです?」
後ろをちょこちょこと歩くシーラが、リュージに気遣わしげな視線を向けてくる。
「え、なに?」
「難しい顔をしてたのです。こう、目がきゅーって」
シーラが両手で、目をくいっつりあげる。
「そんな顔してた?」
「してたのです。何かあったのです? 具合でも悪いの?」
だいじょうぶ? と聞いてくるシーラに、リュージは平気だよと答える。
……とは言うものの。
リュージは母のことを考えていたのだ。
天空城から帰還した後。
母はしょぼんと落ち込んで、家にふさぎ込んでしまった。
リュージは悪いと思いながらも、仕事に出てきた。
「今度こそ……僕1人でも大丈夫だって、証明してみせるんだ!」
今のリュージの装備は、何の強化もされていない普通のものだ。
食事による強化もされてない、素のままリュージである。
ただレベルが二桁のリュージたちに、ゴブリンごときに遅れは取らないだろう。
ということで、ギルドは今回、リュージたちにゴブリン退治を依頼したのだ。
ややあって、森に到着する。
「頑張ろうね!」
「はいなのですっ!」
リュージが先頭を歩き、その後ろからシーラが歩いてくる。
周囲を警戒しながら進んでいくと……やがて茂みの向こうに、ゴブリンを見つける。
「……あそこにいた」
「……クエストはゴブリン5匹討伐、なのです」
ゴブリンがたき火していた。
火を囲むようにして座っている。
その数は4。
報告ではこのあたりで5匹を見つけたとのことだったのだが……。
と、そのときだった。
「ぐがごおぉおおおお!!!」
「えっ!?」
茂みに隠れていたリュージ。その背後に、ゴブリンが隠れていたのだ。
「あぶない! リュージくん!」
不意を打たれたのだ。
ゴブリンはその手に木の棍棒を持っていた。
小鬼たちは弱いがそのぶん、知恵が回るということを、リュージは失念していた。
……ようするに、あそこで火を囲んでいたゴブリンたちはおとりで、それにおびきよされた冒険者たちを、後ろから襲う作戦だったのだろう。
やられる……! と思った、そのときだった。
ピュンッ…………!
と、何かが、天空から、すごい勢いで落ちてきた。
そして、
ばごぉおおおおおおおおん!!!
と爆裂音。
リュージとシーラはその際に、ころんと吹き飛ぶ。
「ぎぎ?」「ぐぎぎぎ?」「ぐごごご!」
たき火を囲んでいたゴブリンが、リュージたちに気づく。
棍棒を手に立ち上がったが、
ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ……!!!
どごぉおおおおお! ばごおぉおおおおおん! ずごごごごおおおおん!!
と、天空から降り注いだ、【光】のようなものがぶつかり、ゴブリンたちは爆発四散。
あとには魔力結晶が残されていた。
「な、なんなのです……?」
地べたに這いつくばったシーラが、空を見上げて言う。
「さ、さあ?」
リュージもシーラにつられて上空を見やる。
そこには何もない、青空が広がっていてるだけだ。
……と思った、そのときだ。
ひゅんっ! ずどぉおおおおおおおん!!!
と遙か上空から、凄まじいスピードで、何かが落ちてきた。
何だと思った次の瞬間に、
「りゅーくぅううううううううん!!」
と、その落下物のところから、母カルマが、涙目で走ってくるではないか。
そのままリュージに、カルマが熱烈なハグをしてくる。
「あありゅー君だいじょうぶでしかたっ? あの薄汚い小鬼どもに、ひどいことされてませんかっ?」
ぎゅ~~~~~と抱きしめられるリュージ。
「だ、大丈夫だよ。全然平気……」
と答えつつ、リュージはふと気になったことがあった。
「母さん、今あの小鬼って……。それに、さっきの光は、もしかして……」
さらに加えるなら、母が狙ったかのようなタイミングで、上から降ってきたことも気になった。
まさか……。
「ええ、すべてお母さんの仕業ですっ!」
んふー、と鼻息をつく母。
「……何があったか説明して」
母はリュージを解放する。
二人の前で、今の出来事を解説する。
「お母さん、ふたりのピンチを上から見ていたのですよ」
「上から?」
そう、とうなづくカルマ。
「このはるか上空に、天空城を配備してたのです」
「は? え? どういうこと?」
母曰く。
天空城から、リュージたちの動向を監視していたらしい。
そしてリュージたちが襲われそうになったので、それから【ビーム】撃ったのだそうだ。
「しかしお母さんが出したのではないです。天空城に自動迎撃システムを搭載しました。りゅー君を24時間監視し、危険が及んだときは自動的にビームを出して敵を殲滅する」
どうやら光魔法と【動作入力】という無属性魔法を組み合わせて作ったらしい。
無属性魔法【動作入力】は、ある条件を満たすと、ある動作をする、というふうに、物体に動作を入力できる魔法だ。
リュージの身に危険が起きたら、という条件をもとに、魔法を打つようになっている……らしい。
「これぞお母さんが開発した、【息子絶対安全監視システム】です!」
……また、母が。
とんでもない暴走を、しているようだった。
「はぁあ…………」
「ふふっ、これでりゅー君はいつでも安心安全ですっ」
「母さん……」
もう、なんか、とりあえず言いたいこととか、苦情とか、たくさんあった。
けど……リュージはその前に、言った。
「助けてくれてありがと……」
それに対して、「うっひょーー! ほめられたぁあああ! うれっしー!」とめちゃくちゃ喜ぶカルマ。
息子の心情を知らずに、無邪気に喜ぶ母に、リュージは深くため息をつくのだった。
いや、感謝はしてるんだけど。それ以上に……なんというか、はぁ……と。
まあ何はともあれ、母が落ち込みすぎてなくて、元気であって、良かったと思う、リュージであった。
お疲れ様です!
夜にもう一回更新します。
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ではまた!