129.邪竜、金竜とバトルする【後編】
無人島外部の海中にて。
カルマは海神竜のしっぽに足をまかれ、海の底へと引っ張り込まれた。
【くっ……! 息が……】
最強邪神の力を持つとは言え、カルマは生物。
呼吸が止まれば生命活動は停止する。
長く海の中で動くことはできない。
それに海中はマキナのテリトリーだ。
マキナは海の竜。
空中での機動では劣るものの、海の中では邪竜より早く動ける。
また魚類と同様にえらでの呼吸が可能であるため、マキナは海中では長く動くことができる。
ようするに、海の中はマキナにとって有利な場であり、カルマにとっては苦戦を強いられる場面だ。
得意の炎は使えず、さらに厄介なことに、カルマはこの島の中では、邪神の力を制御されている。
マキナの嵐の結界には、邪神の力を抑える効果があるらしい。
万全な状態ならいざ知らず、この島、この海の中は、カルマにとって非常に悪い条件下であった。
【諦めろカルマ。この条件でおまえが勝つ確率は0だ】
マキナの声が脳裏に響く。
モンスター同士は基本、音声での会話をしない。言葉をしゃべる口の構造をとってないからだ。
だから知性のあるモンスターたちは、特殊な念話で会話する。
ゆえに水の中であっても、カルマはマキナと会話できているのだ。
【うるさい! 関係ない……私は、おまえを倒す!!!】
カルマが両手で水をぐんっ……! とかく。
弾丸のごとき速度飛ぶ。
だが……。
バシッ……!
【ぐあっ……!!!】
マキナのしっぽから電流が伝わる。
体が一瞬硬直する。
その間に、マキナがカルマを連れて、さらに海底へと運ぶ。
すさまじい速度でマキナが潜っていく。
地上の竜であるカルマは、水流に翻弄されるばかりで、逃げることができない。
逃れようともがくが、その都度マキナの電撃を受けて、動きが鈍る。
どんどん沖へとマキナが潜っていく。
周りの景色が、鮮やかな青から、深海の黒へと移ろっていく。
【視界が……い、息が……】
脳が呼吸を求めていた。
視界がブラックアウトしかける。
息苦しさが最大値を迎えていた。
脳の血管がどくどくと、脈打つ。
【カルマ。今は……眠れ】
【い……やだ……】
マキナの言葉に、カルマが首を振る。
【私、は、りゅー……く……まも……る……】
今ここで自分が気を失ったら、この女が息子をどうするかわからない。
私が、リュージを守るんだ……。
守らないと……だめ……。
【ゴバァッ……!!!】
カルマが大きく気泡を吐き出す。
それは肺に残った最後の空気だ。
カルマの意識が遠のき、体からガクンッ! と力が抜ける。
【りゅ………………く………………】
気を失うその瞬間まで、カルマは息子を思い、そして息子の名前を呼ぶのだった。