128.邪竜、金竜と対峙する【後編】
漫画版、本日最新話が更新されます!
島中央部。
祠があり、その前には花畑が広がっていた。
邪竜となったカルマは、結界を破壊した跡、竜の息吹によって祠を破壊。
殺したかと思ったが、地中より、自分の母親であるマキナアビスが出てきたのだ。
マキナは中を浮き、大穴から出てきた。
ふわり、と花畑に着地する。
【マキナ……】
そこにいたのは、長身金髪の美女だ。
頭部から節くれ立った竜の角を生やしている以外、人間の外見をしている。
その顔も、目も鼻も、全部カルマと同じパーツをしていた。
カルマはマキナの構成するパーツに、自分と同じパーツがあることを、心から嫌った。
だってそれは自分が、この最低最悪の親の、子供であることの何よりの証拠だから。
「久しいな、カルマ」
マキナが邪竜となったカルマを見上げて言う。
母はいつも通りの無表情だった。
そこに何の感情もこもっていない。
まがいなりにも娘の息子、つまり孫を、こいつを虐めたというのに、なんとも思ってなさそうだった。
……カルマは、怒りで気が狂いそうになった。
今すぐにでもこいつを消し炭にしたかった。
できることなら、さっきのドラゴンブレスで死んでいて欲しかった。
だが、そうはならなかった。
カルマの、邪神の力を受けても、こいつは生きていられる。
何か特別なスキルを持っていることは明らかだった。
そうでなくても、カルマはこの無人島で、力を制限させられている。
ここへ来た当初は、その理由が判然としなかった。
しかしこの竜がいると知って得心がいった。
カルマは邪竜姿を解かないまま、マキナを射殺す勢いでにらみ付ける。
だがマキナは動じない。
まっすぐにこちらを見据えてくる。
それは度胸が据わっているからなのか、あるいは、自分に勝てるだけのチカラがあるから、勝者故の余裕なのか……。
「どうしたカルマ?」
マキナが見上げて言う。
「何をしに来た?」
【何をしに来た、ですって……】
カルマはその巨大な腕で、マキナの小さな体を捕まえる。
顔の前までマキナを持ってくる。
【おまえ自分が、私と……りゅーくんに、何をしたのかわかってないのか……?】
「りゅーくん……? ああ。おまえの息子のことか」
カルマはぶち切れた。
怒りで、マキナを持つ手に力がこもる。
【貴様は……貴様はぁあああああああああああああああああああああ】
カルマはマキナを思い切り握りしめる。
【あの子が私の息子だと……自分の孫だとわかっていながら、泣かしたのかぁあああああああああああああああああ!!!】
まだリュージを無関係の他人だと認識していたら、ほんの少しだけ許してやろうと思った。命までは取るつもりはなかった。
だが今のマキナの答えを聞いて、カルマの怒りは最高潮になった。
【殺す……!!!!!】
カルマが渾身の力を込めて、マキナをグシャッ……! と押しつぶす。
胸中に渦巻く、母への複雑な思いは、息子を殺したという事実によって、綺麗さっぱり消えた。
ただ許せなかった。
息子をいじめたことが、息子をカルマの息子だと認識してなお、泣かしたことが。
カルマの手の中で、マキナが完全に握りつぶされる。
【これで死んだ……】
【そんなわけが、ないだろう?】
ピシャッ……!
と、雷が瞬く。
カルマの握りこぶしに、天から雷が落ちる。
落雷の衝撃で、カルマはマキナを握りつぶした手を開く。
まばゆい雷の光は……やがてすぐに収まる。
そこに……母はいなかった。
【どこだぁああああああああああ!!】
そのときだ。
背後から電撃を受けたのだ。
【ぐっ……!!】
カルマは一瞬動きが止まる。
だがすぐさま背後を見やる。
【マキナ……】
遙か遠く、島の外。
島を囲む蒼海の上に、黄金の竜がいた。
カルマが地上にいるスタンダードなドラゴンの見た目ならば。
マキナは、海上に住まう、胴の長いタイプの【竜】だった。
ともすれば蛇にみえなくない、長い長い胴体。
胴体は海面に沈んでいるので、その蝶を知ることはできない。
海の上から覗かせる顔は、まぎれもなくドラゴンのそれ。
やつこそが海神竜・マキナアビス。
自分を産んだ母の、本当の姿だった。