127.息子、真実を知る【後編】
祠の最深部までやってきたリュージたち。
石壁の扉をマキナが開ける。
その先は不思議な空間が広がっていた。
「なにここ……床も地面も淡く発光してる……?」
地面や壁が、青白く発光していた。
地中深くだというのに、周囲の様子がハッキリと見えるのは……これが理由か。
「この部屋には魔力結晶が使われている」
「へぇ……って、この部屋全部がっ?」
マキナが平然とうなずく。
……だとしたらすごいことだ。
広いホールのような場所。
ここを構成するすべてが魔力結晶とは……。
どれだけ大量の魔力結晶が使われているのか。
……これが目撃者がいっていて、巨大な魔力結晶の正体なのか……?
「リュージ。こっちだ」
「あ、う、うん」
マキナは部屋の奥へと進んでいく。
ややあって、最奥まで到達した。
そこには祭壇のようなものがあった。
「……………………で、でかい」
そこにあったのは……見上げるほどの大きさの、巨大な魔力結晶だった。
それもただ大きいだけじゃない。
尋常ではない魔力が、結晶内に込められている。
「…………ん? なに、れ?」
リュージは結晶内部に、何かがあることに気がついた。
結晶のちょうど中央。
なにか黒い物が入っている。
リュージは一歩、一歩……と魔力結晶に近づく。
マキナは止めなかった。
その場に立って、うつむいている。
彼女は近づくな、ととめるのかと思った。
だがだいじょうぶらしい。
リュージは結晶に近づいていく。
すると徐々に……内部にあるものの、輪郭がハッキリとしてきた。
人影だった。
それは……10代前半くらいの少年だった。
黒い髪の男の子だ。
「………………え?」
顔つきはどことなく中性的、ともすれば女の子に見えなくもない。
「うそ……」
手足は細く実に華奢だ。
黄色い肌に、みずみずしい唇。
二重のまぶたは今閉じられている。
「………………僕?」
そう、そこにいたのは……リュージそっくりの男の子だった。
鏡に映った自分かと一瞬思った。
だがリュージは目を開けてる。
結晶内の少年は目を閉じ、そして裸身だった。
「…………」
他人のそら似かと思った。
だが近づいて見れば見るほど、その少年と、自分の姿はそっくりだったのだ。
「マキナ。この人は……?」
金髪の女性は、リュージのとなりまでやってくる。
結晶体に触れる。
「この方は……いや、この【体】は勇者ユート。おまえも聞いたことくらいあるだろう」
「勇者……確か、魔王を倒して世界を救ったって言う」
カミィーナの街にも、彼の銅像があった。
魔王ディアブロを討伐し、世界に平和をもたらした英雄。
だが銅像の勇者と、今結晶の中で眠っている彼とでは、見た目が違った。
銅像は剣を持った大人の姿をしていた。
だが目の前のこの子は、明らかに子供だ。
「勇者ユートは魔王を討伐した後、一度この世界から消えている」
「消えている……?」
「ああ。転生といってな、別の世界にユートは転生したんだ。そのとき子供の姿で転生した。それがこの目の前のユートだ。その後この世界にベリアル様という脅威が現れたので、別の世界から子供の姿で転移してきた。それが……この子だ」
ユートはマキナの言っていることを、少しも理解できなかった。
ただマキナは言う。
この結晶の中の人物こそが、世界を救った英雄ユートである……と。
「でも……なんで? なんで勇者様と、僕と同じ見た目なの? まさか……双子?」
自分とユートは兄弟なのかと思った。
だがマキナは首を振る。
「違う。おまえとユートに血縁関係はない。……まあ、同じ血肉ではあるが」
「わけがわからないよ……。兄弟じゃないっていうんなら、じゃあこの人と僕にはどんな関係があるって言うの……?」
リュージが不安げに、マキナに尋ねる。
マキナは口ごもった。
「どうしたの?」
「……いや、すまないリュージ。おまえは真実を知るために、自分の意思でやってきたんだったな」
マキナの言葉に、リュージはうなずく。
たとえその真実を知って傷つくことがあろうとも、リュージは答えを知りたかった。
「リュージ。ハッキリ言おう」
マキナは結晶の中の少年に、手を触れながら言う。
「おまえは……人間じゃない」
「……人間じゃ、ない?」
ああ、とマキナがうなずく。
ぐらり……とリュージの体が傾く。
なんとなくわかっていた。
ルコやバブコを産んだ時点で、自分が人間じゃない、異端の存在なんじゃないかと。
だがこうして、ハッキリと事実を突きつけられ、リュージはショックを受けたのだ。
「人間じゃないなら……僕は、なに?」
「おまえは、こいつだ」
マキナがユートを指さす。
「勇者様……?」
「そうだ。リュージ、おまえは勇者の細胞から培養されたクローン……つまり、人造された生命体だ」
マキナの言葉を、ちっとも理解できなかった。
勇者の細胞?
クローン?
人造された生命体……?
「それって……どういう……?」
「そうだな……。わかりやすく言えば、おまえは人の手で、勇者ユートの体から複製されて作られた存在ということだ」
リュージは、時間が止まったように感じた。
脳が、事実を受け入れるのに、時間がかかった。
人の手で……作られた存在。
それはつまり……。
「ねえ……マキナ。そうなると……僕の、僕を産んだ本当の両親って……?」
リュージは、チェキータから子供の作り方を、保健体育の授業の一環で教えてもらっている。
彼があの母の元で偏った性格にならなかったのは、一般的な知識・教養を、エルフの先生から教えてもらったからだ。
リュージは知っている。
母となる女性と、父なる男性が、性行為をすることによって、新たな命が誕生すると。
だが……マキナは言った。
自分は、人の手で作られたと。
それはつまり……。
「……おまえに、本当の両親など存在しない。おまえは作られたのだ。勇者の細胞から、人の手によってな」
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