127.息子、真実を知る【中編】
祠の前にて。
マキナからの言葉に、リュージは困惑しつつも、どこかで納得していた。
「…………」
マキナは言った。
この祠の下に、自分にとっての真実があると。
真実。
つまり、今まで明らかになっていなかったことが、この下にあるということ。
リュージは知りたかった。
自分の出自。自分の持つ特殊な能力の出所について……。
母は、真実を知らなかった。
教えなかったではない、本当に、知らないようだった。
だからリュージがバブコやルコを産んだとき、あんなふうに無邪気に喜んだのだ。
もし仮に真実を知っていたとしたら、もっと動揺しただろう。
母は、見た目は大人だが、中身はナイーブな女の子なのだ。
「…………」
リュージは考える。
この先へと向かうべきか、否か。
もしこの場で、母の元へ引き返したら、きっと心の平穏を保ったままでいられるだろう。
……けれど。
「マキナ……」
リュージは決然と言う。
「連れて行って」
「……本当にいいのか?」
リュージはうなずいて答える。
「僕は……知りたいよ。この先にあるんでしょ? 僕の知りたい真実が」
マキナの口ぶりからすると、リュージにとっての【秘密】が、この下にあるようであった。
なぜこの島に、この地下に、リュージにとっての知らなかった真実があるのかは、知らない。
けれど……。
「僕は……嫌なんだ。いつまでも何も知らない子供のままでいたくないんだ」
いつまでも何も知らず、脳天気に、母の庇護下で暮らす。
そんな子供でいたくなかったのだ。
リュージは大人になりたかった。
大人になると言うことは、知りたくない真実も受け入れないといけないということだ。
リュージは母から自立するために、洞窟を出て街に来た。
数々の冒険をこなしてきたが、未だにリュージは、精神的に母に依存している。子供のままである。
……本気で母から自立をしたいのなら、その精神的にな弱い部分を改善しなければならない。
そのためには、目をそらし続けてきた真実に、直面しなければいけない。
リュージの精神的な弱さは、おそらく自らの出自という最大の真実から、目を背けていたことを起因とする。
……けど、いつまでも、見て見ぬ振りはイケナイのだ。
いつまでも真実から目をそらしてるから、自分は、母の元から巣立てないのだ。
「…………」
マキナが、リュージの目をまっすぐに見やる。
まるで目からリュージの心を読み取っているかのようだった。
長い、長い時間、マキナはリュージと見つめ合った。
その間、リュージはいっさい、目をそらさなかった。
ややあって、マキナが口を開く。
「……わかった。ついてこい」
そう言って、マキナが祠の下へと歩き出す。
リュージは彼女の後をついて行く。
……石段が、どこまでも下へと伸びていく。
気の遠くなるようなくらい、長い長い階段を、リュージたちは降りていった。
途中、何度も足が止まりかけた。
マキナはそのたび、立ち止まって、リュージが動き出すのを待った。
おそらく帰ろうとリュージが言うのを、待ってくれていたのだと思う。
だがリュージは、へこたれそうになる心を、何度も鼓舞して、地下へと階段を下る。
本当に、気の遠くなるくらい……長い階段を、リュージたちは下っていった。
そして……リュージたちは、一つの石の壁の前へと到着する。
「行き止まり……?」
「違う」
マキナは石壁に触れる。
マキナの手に反応して、壁の石が、外へ向かって消えていく。
ややあって、壁がなくなり、通路となる。
「いくぞ。この先だ」
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