表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

230/383

126.息子、金竜と打ち解ける【後編】



 リュージはマキナの元へ、いつも通り食事を持ってきた。


 島の中央にある、花畑。

 祠の前にレジャーシートを広げ、リュージたちは座っている。


 朝食の後、リュージは食後のデザートにと、チョコレートケーキを取り出した。


「ほう。これもまた……うまそうだ」


 じゅるり……とマキナが無表情のまま、よだれを垂らす。


 リュージは果物ナイフで切り分けて、ケーキを皿にのせ、マキナに差し出す。


 マキナは皿を受け取ると、がば……っ! と勢いよくそれを手づかみしようとする。

「マキナっ。もう、ダメでしょう? お行儀悪いよ」

「む……。そうだったな」


 リュージはフォークを手渡す。

 マキナはおとなしくそれを受け取って、ケーキを食べ出す。


 当初、箸もフォークも使えなかったマキナだが、リュージから教えてもらううちに、普通に使えるようになったのである。


 マキナはケーキをフォークでぶっさし、ひょいっと一口で、丸ごと食べる。


「おいしい?」

美味ふぃみ


 もむもむと口を動かしながら、マキナが満足そうにうなずく。


「もう。口の周りにチョコついているよ」


 リュージはハンカチを取り出して、マキナの口の周りを拭う。


 その間にマキナはケーキを咀嚼し、飲み込むとおかわりを要求して着うる。


 リュージは切り分けたケーキを取ってあげる。

 マキナは残っていたケーキすべてを、ペロッとたいらげてしまった。


「至福……」


 ほう、とマキナがうっとりとした表情でつぶやく。


 ハッ……! と正気に戻ると、


「すまない。リュージ。おまえの分まで食べてしまった」


 マキナはケーキに夢中で、リュージの分があることを失念していたようだ。


 リュージは苦笑すると、首を振る。


「気にしないで」

「しかし……」


「本当に気にしないで。母さんと作ったケーキを、そうやって誰かが喜んで食べてくれたことだけで、僕は満足なんだ」


 リュージが笑って言う。

 ジッ……とマキナが、リュージの笑顔を見ていた。


 ややあって、マキナがつぶやく。


「これは……おまえと、おまえの母が一緒に作った、と言ったな」


 マキナがからになったお皿を、手で触れる。


「いつもこんなことするのか?」

「え、あ、うん。仕事が休みの時とかに、たまに一緒にお菓子や料理作ったりするよ」


 洞窟暮らしだった時も、たまに一緒に料理などを作っていた。


 もっともそれはおままごとの延長上のようなものであったが。(絶対に指を切らないナイフを使わされていた)


「……家事なども一緒にやるのか?」


「そうだね。昔はあんまり手伝わせてくれなかったんだけど、街に出てからはよく一緒に洗濯するようになったかな」


 小さい頃も掃除洗濯を少しだけだが手伝わせてくれた。もっとも、これもまたおままごとの延長だった(母親っぽいことを息子と一緒にすると母がすごく喜ぶ)。


 万物創造を使えるカルマにとって、炊事洗濯は不要の物。


 しかし母親ごっことでも言うのか、母親らしいことを、母は昔からしていた。


 カルマは母親に憧れているところがある。

 だから息子のために手作りの料理を作るし、洗濯も自らの手を使うときもあるのだ。


 もっともスキルでやった方が早いので、そこまで毎日のように手ずからは行わないのだけれど。


 そうやってスキルに頼らない家事をするとき、リュージは小さな頃から、カルマを手伝おうとしていた。


 昔は、あまりさせてくれなかった。


 けれど冒険者となり、少しずつ大人になって行くにつれて、母は手伝うことを許してくれるようになったのである。


 と、リュージはここまでの母との経緯を、マキナに説明した。


「………………そうか」


 リュージの言葉を聞いた、マキナは、こう言ったのだ。


「リュージ。おまえのやっていることは、母親であるその女の、母親ごっこに無理矢理付き合わされているだけではないのか……?」


 するとリュージは、首をふるって答える。


「違うよ。そういう風に見えるかもしれないけど……僕にとっては、違うんだ」


 リュージは笑って言う。


「僕は、母さんが喜んでくれるのが嬉しいんだ。だから僕は、望んで、自分の意思で、やっているんだよ」


 心からの言葉だった。リュージの答えを聞いたマキナは……。


「リュージ。おまえは……良い息子だな」


 ふっ……と、微笑んだのだ。


 美しい笑みだった。

 リュージは思わずドキッとしてしまった。


「そ、そうかな……」

「ああ。本当に、いい息子を持ったものだ。……おまえなら、たとえ真実を知っても、あの子のそばにいくれるだろう」


 すくっ、とマキナが立ち上がる。


「リュージ。ついてこい」


 マキナがリュージを見下ろして言う。


「祠の中に、連れて行ってやろう」

書籍、コミックス好評発売中です!


続刊は売り上げ次第です。

続きを出すために、なにとぞ、ご協力のほどよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ