16.邪竜、天空の城から【光】を落とす【前編】
いつもお世話になってます!
天空城に軟禁されてから、3日が経過した。
ある日の午後、リュージは冒険者ギルドの酒場にいた。
「はぁ~…………疲れた」
ぐったり、とリュージがテーブルにつっぷす。
その隣にシーラが座っていた。
「あの、あのあの……リュージくんっ」
「ん? なぁにシーラさん?」
シーラは目をきゅっと閉じながら、
「おつかれなら、肩を、もんであげるのですっ!」
ふんす、と鼻息荒くシーラが言う。
リュージは顔を赤らめて、
「あ、いや、大丈夫だから……」
と目をそらして言う。
「そうですかぁー……」
しゅん、と垂れたうさ耳が、さらに垂れ下がったのを見みて、
「あ、じゃ、じゃあお願いしようかなっ!」
「はいなのですー!」
リュージがシーラに背を向ける。
彼女の小さな手が素肌に触れる。
間近に彼女の存在がいる。花のようないいにおいと、ときおり熱い吐息が耳にかかってこそばゆい。
「うんしょ、うんしょ……どうなのです?」
「え、あ、うん。と、とってもきもちいいかなっ!」
とは答えたものの、女の子が至近距離にいるというシチュエーションにどきどきしっぱなしで、正直肩もみされても何も感じなかった。
こんなところ誰かに見られたらどうしよう……と思っていたそのときだ。
……ずずぅーん…………。
と、遠くで重低音。
そしてわずかに地面が揺れた。
「ひぅっ、じ、地震なのですっ?」
「かな? たぶん」
それにしてはすぐに地面の揺れは止まった。
「ハァイ、リュー。久しぶりね」
揺れが収まったそのとき、監視者のエルフ、チェキータが、リュージたちの席に近づいてきた。
「あらあら、お取り込み中だったかしら?」
チェキータがくす、と笑う。
リュージは状況を思い出した。
いまシーラに肩を揉んでもらっていたところだったのだが……。
シーラが、なぜか、リュージに抱きついていた。
「え、ええっ!?」
どうやらさっきの地震で、シーラはびっくりしてリュージに抱きついてしまったのだろう。
ずずー……ん。
ずずー……ん。
と、またどこからか重低音と、そして地面がわずかにゆれた。
「荒れてるわねぇ~」
苦笑するチェキータに、リュージは首をかしげる。
「し、シーラ。ほらもうだいじょうぶだから、離れて、ね?」
「あぅ……ごめんなのですリュージくん」
シーラが自分から離れて、かぁっと顔を赤くして、うつむく。
「だ、大丈夫だから。うん、別にあやまることじゃ、ないし。うん」
そんなかわいらしい反応に、リュージも恥ずかしくなって顔をそらす。
「青春ねー。うらやましいわ~」
チェキータがうんうん、とうなづいている。
「と、ところでチェキータさんは何の用事ですか?」
変な雰囲気を払拭するよう、リュージは話題を変える。
チェキータはリュージたちの前に座る。そのでかすぎる乳房が、テーブルの上に乗っかって、ぐにゃっとひしゃげた。
目が行きそうになるけど、さっ、とそらす。
「?」
シーラと目が合った。胸を見た。比べちゃいけないと思った。
「えへっ」
純粋無垢な笑みを向けられ、リュージは罪悪感を覚えた。ごめん、壁とか思って……。
エルフはくすくすとリュージを笑ったあと、
「用事ってほどじゃないの。ほらこの三日間行方知らず……ってほどじゃないけど、お空の上にいたでしょ?」
チェキータは監視者だ。
邪竜が暴れないよう監視する役目を、国王から命じられている。
「あの子の居場所は外からわかってたけど、中の様子はほら、地上からはわからなくってね」
「だから事情聴取……ですか?」
リュージたちが天空城へ連れていかれたのは三日前。
カルマはリュージとシーラのみを連れて空へいったので、地上に取り残されたチェキータは中の様子がわからないのだそうだ。
「国王にレポート提出しなきゃいけないのよ。協力してくれない?」
「わかりました」
チェキータはその代わりにと、夕ご飯をおごってくれることになった。
ご飯を食べながら、ことの顛末を話す。
……3日前。
リュージは空の上の城に閉じ込められた。
まさか自力で地上に戻ることはできず。
なのでリュージは、ひたすら母を説得し続けた。
外が危ないのは当たり前だし、冒険者にケガはつきものだと。
しかし母はこの間、リュージがケガしたことを、相当気に病んでいたらしい。
もうこの中から一生、外に出さないぞという鉄の意志を感じた。
説得は三日三晩続いた。
結局リュージはしかなたなく、【地上に返してくれないと、絶縁するから】というファイナルウエポンを使った。
母は大泣きし、リュージは地上へ戻ってきたという次第。
「なるほど。……それで、リューはどうして、そんなくらい顔をしているのかな?」
話し終えたリュージは、エルフに指摘されても気づかなかったが。
確かに、気分は暗くなっていた、と思う。
「……母さんを、泣かせちゃって」
リュージはテーブルの上の水を一杯飲む。
「リューが気にすることないでしょう。暴走したあの子が悪いんだから」
しかし……とリュージは首を振るう。
「母さんが……あんな天空の城つくったり、閉じ込めようってするのって、僕に危険がないようにっていう思いやりがあるから、だと思うんです」
15年一緒に住んでいるので、リュージは母の行動原理を、熟知してる。
「母さんのそういうとこ、すごく迷惑ですけど……けど、無下にできないというか、ありがた迷惑なんだけど、その……」
「そうね。悪気があってやってるわけじゃないのよね、あの子」
そう、とリュージが同意する。
「だからこそ……僕、申し訳なくて。母さんに、言われて嫌だろうことを、言って。泣かせちゃって……」
チェキータは「そっか。優しいね、リューは」
にこっと笑って、チェキータはリュージを前から抱きかかえる。
「ちょっ!?」
むにゅ~~~~………………と暴力的なまでの快感が、襲う。
南国の花のような、甘酸っぱい香りと、生ぬるい人肌。
そして何より、ゼリーよりもプリンよりも柔らかな、チェキータの乳房の感覚に、くらくらとした。
「はわわっ、おっきー……」
隣にシーラがいることを思い出して、慌てるリュージ。
エルフはすぐに離してくれた。
「そ、それで母さんと今ちょっと、顔を合わせづらくて」
「なるほど……」
チェキータはしばし沈思黙考した後、
「ま、気にしなくても大丈夫でしょう」
と気楽に答える。
「あの子結構メンタル強くて、立ち直るの早いし。ほっといても大丈夫よ」
「そ、そうでしょうか……」
「ええ。今は仕事に集中した方が良いわ。これからクエストなのでしょう?」
今日は近くの森でゴブリン退治だ。
「余計なこと考えてると、ケガしちゃうわよ。それこそ、あの子がまた大暴れしちゃうから」
「そう……ですね」
母に心配をかけるわけにはいない。
今日のクエスト、見事無傷で生還し、母に大丈夫なところを……見せつけるのだ!