126.息子、金竜と打ち解ける【中編】
朝食を取り、母と【それ】の準備をした後、リュージはマキナの元へ出発しようとする。
場所は波打ち際の、仮の住まいにて。
「りゅーくん」
カルマが風呂敷包みを2つ手渡してくる。
「ご飯はこっち。こっち二人で作った愛の結晶です♡」
「デザートでしょ……もう……」
苦笑してリュージがつつみを受け取る。
リュックサックの中に包みをしまう。
「りゅーくん。おいで♡」
カルマがにぱっと笑って、両手を広げる。
「は、恥ずかしいよ……」
「誰も見てないでしょう♡ ほらおいでおいで♡ 出発のハグ~!」
はいはい……とリュージは苦笑して、母に近づく。
カルマはきゅーっと、リュージを抱きしめてきた。
「……りゅーくん。だいじょうぶ?」
カルマが耳元でぽそっとつぶやく。
「どうしたの?」
「調子悪くないですか?」
「……そんなこと、ないよ。だいじょうぶ」
母を心配させまいと、とっさに嘘をついてしまった。
だがカルマは、そんなリュージの心の機微をめざとく察したのか。
「りゅーくん、大好きです♡」
むぎゅーっとさらに力を込める。
「だいじょうってりゅーくんの言葉を……お母さん、信じますね」
カルマの言葉に、りゅーじはうれしくなった。
前は何かにつけて、過干渉してきたカルマだったが……。
今はこうして、信じてくれることが増えてきた。
「母さん、変わったよね」
「そうです?」
「うん、変わった。チェキータさんならこう言うよ。【成長したわね、カルマ】って」
リュージの言葉に、カルマが複雑そうに顔をしかめる。
「りゅーくん、あの女の声まねやめてください。我が子にむかつくーなんて思いたくありません」
カルマはチェキータを毛嫌いする。
……もっとも、それが表面上だと言うことは、リュージは承知していた。
「ごめんね。母さん」
そう言って、りゅーじはカルマから離れる。
「いってきます」
「はい、ご武運を……」
カルマが心配そうに、自分の胸をぎゅっと抱く。
……そういえばカルマは、今回に限って、危ない場所へひとりで行かせてくれる。
リュージは、カルマが成長したからだと思った。
だがどうにも……カルマにはあそこへ近づかない何か【別の理由】があるように思えるのだ。
具体的にはわからない。
……だが、そんな予感がするのだ。
そんなふうに考え事をしながら、リュージはマキナの元へとやってきた。
「マキナ、おはよう」
「おはようリュージ。さぁ、早くご飯を出せ」
いつも通り、無表情の金髪美女が、よだれを垂らして言う。
最初よりだいぶ、この人の考えていることがわかってきたように思える。
「今日も母さんが張り切ってご飯作ってくれたよ」
「そうか……。楽しみ、だ。おまえの母の料理は……美味だからな」
マキナが含みのあるような声音で言う。
表情の変化に乏しいマキナだが、細かい所作や、言葉の端々から、気持ちがにじみ出ているのだ。
それをだいぶ読みとめるようになった……と思ったが、全部を計り知るのは難しいらしい。
いつかわかってあげられる日がくるだろうか……。
さて。
リュージはマキナとともに、母の作った食事を一緒に食べる。
と言っても大部分をマキナが一人で食べてしまう。
たくさんあった料理を、マキナがペロリと完食する。
「美味であった。おまえの母に礼を言っておけ」
「うん、ちゃんと伝えておくよ」
そう言うと、マキナのドラゴンしっぽが、ぱたたっと動いた。
喜んでいる……? 何に?
「リュージ。早くそっちの包みを出せ」
そわそわ、とマキナがリュックを見ながら言う。
どうやらもう一つの包みの方に、すでに気付いていたようだ。
「それはなんだ? 甘い匂いがする」
「これは食後のデザートです。じゃあん!」
リュージは風呂敷包みをほどく。
「手作りのチョコレートケーキです!」
書籍、コミックス好評発売中!
続刊は売り上げ次第です。
続きを出すために、なにとぞ、ご協力のほどよろしくお願いします!