125.その頃のエルフお姉さん
カルマが息子とともに、南の島から帰れなくなっている、一方その頃。
遠く離れたカミィーナの地にて。
チェキータは買い物を終えて、カルマの家へと帰ってきた。
「ただいまー」
「かるまー!」「帰ったか!?」
銀髪褐色の幼女と、緑髪の幼女が、チェキータの元へと駆け寄ってきた。
ふたりはチェキータを見ると、ぴたり……と止まる。
「かるま。じゃなかった……」
とぼとぼと歩く銀髪の少女は、ルシファーの転生体ルコ。
「ルコよ。落ち込むな」
ルコを励ましているのは、ベルゼバブの転生体バブコだ。
「ごめんね二人とも。カルマはまだ帰ってこないの」
チェキータは買い物袋を、リビングのテーブルにのせる。
そして二人を後から、ぎゅっと抱きしめる。
「帰ってくるまで我慢してね」
「……うむ」
「…………うん」
ルコとバブコがうなずく。
チェキータは二人の額にキスする。
「良い子ね。さっ、お姉さんお夕飯作るから、ちょっと待っててね~」
「「はーい」」
チェキータは買い物袋を持って、台所に立つ。
食材を取り出し、華麗な手つきで、野菜の皮をむく。
流れるように野菜や肉を刻み、鍋に水と香辛料を入れて、魔法コンロで煮込む。
あっという間にカレーができた。
あとはコトコト……と時間をかけて煮込むだけである。
「…………」
チェキータは鍋を混ぜながら、ぼんやりと今までのことを考える。
リュージの冒険に、いつも通りついていったカルマ。
チェキータは苦笑しながら、姿を消し、後からこっそりついてカルマを監視した。
リュージを乗せた船は突然の大嵐に襲われる。
カルマもまた、嵐に飲まれて行方がわからなくなった……。
「チェキータよ」
「っ。な、なにかしら、バブコちゃん」
緑髪の幼女が、チェキータのとなりに立つ。
「鍋が吹き出てないか?」
「え……あっ!」
チェキータは慌てて火を止める。
わずかに焦げた匂いがした。
「危なかった……」
「ぬしよ。考え事しながらの料理は危ないぞ」
チェキータは反省した。
こんな子供に注意されるなんて……。
「ごめんねバブコちゃん」
「うむ……」
バブコは気遣わしげにチェキータを見てくる。
チェキータは微笑んで、なんでもないよと返す。
バブコはしばし沈思黙考の後、「わかった……」といって、ルコの元へ行った。
「……しっかりしろ。何をやってるんだ、わたしは」
チェキータは現在、この家に残された幼女たちの面倒を見ている。
カルマとは通信がつかない状態だ。
上からは職務怠慢でだいぶせっつかれている状況ではあった。
なんとしても邪竜から目を離すなと言われていたのだ。
だがチェキータはカルマの行方を捜すよりも、この子たちの面倒を見る方を選択した。
「……だいじょうぶ。あの子は、ちゃんと帰ってくるから」
チェキータは信じていた。
カルマはどんな困難にも、打ち勝って帰ってくると。
息子を連れて、ここへ帰ってくるとチェキータは信じていた。
……だからこそ、チェキータはここを離れなかったのである、が。
それでもカルマたちの身を案じてしまう。
特にカルマは、一番危なっかしい。
あの中で一番幼いのがカルマなのだ。
あの子に何かあったら……と考えて、苦笑する。
「これじゃあカルマを注意できないわね」
チェキータは苦笑する。
長い時間カルマと過ごしている影響でも受けているのか。
自分も、あの子ににてきているのかも知れない。
チェキータはカレーを作り終えて、バブコたちのもとへ持って行く。
カルマがいないことで気を落としている二人だが、チェキータの料理をしっかり食べてくれてくれる。
料理を出し終え、ふたりを寝かしつける。
からになったお皿を洗いながら、チェキータはぼそっつぶやく。
「しっかりね、カルマ。こっちのことは……心配しないでね」
その言葉が届くことはない。
それでも思いは届くと信じて、チェキータは家事をするのだった。
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