表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

226/383

124.息子、恋人と海岸でいちゃつく【後編】



 早朝の海岸にて。


 リュージは日が昇り、朝食の時間が来るまで、恋人シーラとともに、他愛ない会話をする。


「他の冒険者さんたちって今何してるの?」


「魔力結晶さがしてるのです。祠の中にないかのーせーもあるのです。だから手分けして探したり、ご飯の用意をしたりしてるのです」


 そうだったのか、とリュージは今更ながら思う。


 自分はマキナと交流を重ねるミッションについている。


 だがマキナの守っている祠の中に、目当ての魔力結晶があるとは限らないから。


「ゴーシュさんすごいのです。すごくテキパキしてて、みんなに適切な仕事をふってくれるのです」


 ゴーシュとは今回の冒険者パーティのリーダーの名前だ。


 面倒見の良いお姉さんである。


「格好いいお姉さんなのです」

「ねー。僕もあんな風にかっこよくなりたいなぁ」


「りゅーじくんは十分かっこいーのです!」

「えへへっ。ありがとう、シーラ」


 海風が吹く。

 リュージの髪と、シーラのうさ耳がさぁっと流れる。


 会話が途絶える。

 やがてシーラが、ぽそりとつぶやいた。


「……帰れるかなぁ」


 シーラの弱音を聞いて、リュージは彼女の細い肩を抱き寄せる。


「だいじょうぶ。きっと帰れるよ」

「…………」


 シーラがリュージを見上げて言う。


「りゅーじくんは……不安じゃないの?」


「だいじょうぶだよ。だって母さんが探してるんだよ。見つかるって、帰る方法」


 言ってから……リュージは表情を曇らせた。


「どうしたの、リュージくん?」

「え、ああ……うん。なんか、結局まだ、母さんに頼り切ってるなって」


 リュージは悔しそうに言う。


「冒険者になって……結構たって、強くなったなって思ったけど……ダメだね。僕はまだ……母さんを安心させられない。いつも、母さんに頼ってばっかりだ。弱いよね、僕……」


 リュージはわかっている。

 自分の弱さを、自分が弱い存在であることを。


 物語の主人公のような、それこそ母のような最強無比の力は、自分にないと。


 それでもリュージは腐らなかった。

 いつか強くなって、母を安心させるために、頑張っていた。


 ……それでも、時々不安に駆られる。

 自分は、いつまで経っても、強くなれないんじゃないかと。


 特に今回は、不測の事態に対して、自分は何もできてなかった。


 結局母の力を頼ってしまっている。


「りゅーじくん……」

「僕は……どうしてこんなに弱いんだろうね」


「カルマさんと比較したらみんな弱いのです。りゅーじくんは普通に強いのです!」


 シーラが懸命に、リュージを励ましてくれる。

 リュージは嬉しくて、微笑んだ。


 だがその笑みがひきつっていることは、自覚できた。


「りゅーじくん」


 シーラがリュージを見上げる。

 真剣な表情で言う。


「無理しなくて良いのです」

「え……?」


 シーラが微笑む。


「辛かったら辛いっていってほしーのです。しーらはリュージくんに、つらいーって顔して欲しくないのです」


 きゅっ、とシーラが、リュージの手を強く握る。


「嬉しいことだけじゃなくて、辛いことも分かち合うのが、人を愛することなんだよって……おばあちゃんも言ってたのです」


 リュージはハッ……! とさせられた。

 シーラは自分を慰めてくれていた。


 自分も家に帰れるか不安そうにしていたのに……。


「……ごめんね、シーラ」

「謝らないで、りゅーじくん」


 シーラがリュージの手を取る。


「りゅーじくんはいつも、シーラを励ましてくれているのです。だから今は、しーらがリュージくんを励ますのです」


「……ありがとう、シーラ」


 リュージは微笑んだ。

 そして同時に、この獣人少女への愛おしさが胸にあふれてきた。


 リュージはシーラを抱き寄せる。

 そして軽くキスをして、顔を離す。


「えへへ♡ しーら幸せなのです……♡」

「うん、僕も」


 リュージは昔から、いつも自分の弱さに思い悩んでいた。


 そのときはチェキータにいつも慰めてもらっていた。


 けど……今は違う。

 慰めあう恋人ができた。


 痛みを分かち合う、大事な人ができた。


 ……そうだ。

 まったく成長していないわけじゃない。


 一歩一歩変わってきているのだ。

 ここで歩みを止めてしまったら……きっと目標にたどり着くことはできないだろう。

「ありがとう、シーラ。僕……きみのおかげで、元気出たよ!」


「良かったのです! しーらりゅーじくんが笑ってる顔、だーいすきなのです!」


 ふたりは立ち上がると、手をつないで、家へと戻る。


 今はまだ、母の庇護から出ることはできない。母に頼りっぱなしの弱い自分だ。


 だが確実に、変わってきている。

 いつかきっと、母を守ってあげられるくらいにまで……成長してみせるんだ。


 リュージは決意を新たに、シーラと供に、家へと戻ったのだった。

書籍、コミックス好評発売中です!


続きを出すためにはたくさん売れる必要があります!


なにとぞ、ご協力のほど、よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ