124.息子、恋人と海岸でいちゃつく【後編】
早朝の海岸にて。
リュージは日が昇り、朝食の時間が来るまで、恋人とともに、他愛ない会話をする。
「他の冒険者さんたちって今何してるの?」
「魔力結晶さがしてるのです。祠の中にないかのーせーもあるのです。だから手分けして探したり、ご飯の用意をしたりしてるのです」
そうだったのか、とリュージは今更ながら思う。
自分はマキナと交流を重ねるミッションについている。
だがマキナの守っている祠の中に、目当ての魔力結晶があるとは限らないから。
「ゴーシュさんすごいのです。すごくテキパキしてて、みんなに適切な仕事をふってくれるのです」
ゴーシュとは今回の冒険者パーティのリーダーの名前だ。
面倒見の良いお姉さんである。
「格好いいお姉さんなのです」
「ねー。僕もあんな風にかっこよくなりたいなぁ」
「りゅーじくんは十分かっこいーのです!」
「えへへっ。ありがとう、シーラ」
海風が吹く。
リュージの髪と、シーラのうさ耳がさぁっと流れる。
会話が途絶える。
やがてシーラが、ぽそりとつぶやいた。
「……帰れるかなぁ」
シーラの弱音を聞いて、リュージは彼女の細い肩を抱き寄せる。
「だいじょうぶ。きっと帰れるよ」
「…………」
シーラがリュージを見上げて言う。
「りゅーじくんは……不安じゃないの?」
「だいじょうぶだよ。だって母さんが探してるんだよ。見つかるって、帰る方法」
言ってから……リュージは表情を曇らせた。
「どうしたの、リュージくん?」
「え、ああ……うん。なんか、結局まだ、母さんに頼り切ってるなって」
リュージは悔しそうに言う。
「冒険者になって……結構たって、強くなったなって思ったけど……ダメだね。僕はまだ……母さんを安心させられない。いつも、母さんに頼ってばっかりだ。弱いよね、僕……」
リュージはわかっている。
自分の弱さを、自分が弱い存在であることを。
物語の主人公のような、それこそ母のような最強無比の力は、自分にないと。
それでもリュージは腐らなかった。
いつか強くなって、母を安心させるために、頑張っていた。
……それでも、時々不安に駆られる。
自分は、いつまで経っても、強くなれないんじゃないかと。
特に今回は、不測の事態に対して、自分は何もできてなかった。
結局母の力を頼ってしまっている。
「りゅーじくん……」
「僕は……どうしてこんなに弱いんだろうね」
「カルマさんと比較したらみんな弱いのです。りゅーじくんは普通に強いのです!」
シーラが懸命に、リュージを励ましてくれる。
リュージは嬉しくて、微笑んだ。
だがその笑みがひきつっていることは、自覚できた。
「りゅーじくん」
シーラがリュージを見上げる。
真剣な表情で言う。
「無理しなくて良いのです」
「え……?」
シーラが微笑む。
「辛かったら辛いっていってほしーのです。しーらはリュージくんに、つらいーって顔して欲しくないのです」
きゅっ、とシーラが、リュージの手を強く握る。
「嬉しいことだけじゃなくて、辛いことも分かち合うのが、人を愛することなんだよって……おばあちゃんも言ってたのです」
リュージはハッ……! とさせられた。
シーラは自分を慰めてくれていた。
自分も家に帰れるか不安そうにしていたのに……。
「……ごめんね、シーラ」
「謝らないで、りゅーじくん」
シーラがリュージの手を取る。
「りゅーじくんはいつも、シーラを励ましてくれているのです。だから今は、しーらがリュージくんを励ますのです」
「……ありがとう、シーラ」
リュージは微笑んだ。
そして同時に、この獣人少女への愛おしさが胸にあふれてきた。
リュージはシーラを抱き寄せる。
そして軽くキスをして、顔を離す。
「えへへ♡ しーら幸せなのです……♡」
「うん、僕も」
リュージは昔から、いつも自分の弱さに思い悩んでいた。
そのときはチェキータにいつも慰めてもらっていた。
けど……今は違う。
慰めあう恋人ができた。
痛みを分かち合う、大事な人ができた。
……そうだ。
まったく成長していないわけじゃない。
一歩一歩変わってきているのだ。
ここで歩みを止めてしまったら……きっと目標にたどり着くことはできないだろう。
「ありがとう、シーラ。僕……きみのおかげで、元気出たよ!」
「良かったのです! しーらりゅーじくんが笑ってる顔、だーいすきなのです!」
ふたりは立ち上がると、手をつないで、家へと戻る。
今はまだ、母の庇護から出ることはできない。母に頼りっぱなしの弱い自分だ。
だが確実に、変わってきている。
いつかきっと、母を守ってあげられるくらいにまで……成長してみせるんだ。
リュージは決意を新たに、シーラと供に、家へと戻ったのだった。
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