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123.邪竜、息子に化粧水を塗ってもらう【後編】



 母の背中に化粧水を塗ってから数十分後。

 母はぐったりと、うなだれていた。


「か、母さんだいじょうぶっ?」

「ええ……だいじょうぶです。リューくんはテクニシャンでした……」


 何のことをいってるのだろうか。

 ただ母は無事なようなので、リュージはほっと吐息をつく。


「良かった。僕、変なことしちゃったかなって心配だったんだ」

「まさか! りゅーくんがお母さんに変なことなんて、あなたを拾ったその日から一度もされたことないですよ!」


 ぶんぶんっ! と母が力強く首を振る。


「むしろご褒美でしたよ! 我が子の意外な一面が知れてありがとうございます!」


 にこーっと笑うカルマ。


「もうっ。誰にお礼を言ってるのさ」

「そりゃあもちろん、神という名のりゅーくんに!」


 リュージは苦笑した。

 母は少々……いや、かなり大げさなところがある。


「そこは神じゃなくて僕の……」


 と言って、リュージは考え込む。

 ……そこはリュージを産んだ両親に、と続くところだろうか。


 しかしリュージは、生みの親の顔を知らなかった。


 誰が自分を産んだのか、知らない。

 リュージは赤ん坊の時、カルマの暮らす洞窟の前に、捨てられていたからだ。


 ……母の顔と言われると、カルマの笑顔がすぐに、反射で浮かび上がる。


 だが胸の内で、少しだけ、本当の両親はどこにいるのか……という思いがうずく。


「…………」

「りゅーくん♡ スマイルスマイル♡」


 カルマがニコッと笑って、リュージをハグする。

 ……今、彼女は上半身名にも身につけてない状態だ。


 つまり生の乳が、目の前にある。

 リュージは慌てて逃げようとするが……母がそれを許さなかった。


「りゅーくん。辛いの辛いの~とんでけー!」


 カルマがリュージの頭を撫でた後、バッ……! と手を天にかざす。


 どがぁあああああああああああああああああああああああああああああん!


 ……と衝撃波で、建物の天井が破壊された。


「おっと失礼」


 ぱっちんっ! とカルマが万物創造スキルで、たちどころに穴を修復した。


「軟弱な壁ですね。いっそ魔銀ミスリルにでも変えますかね。いつ敵が襲ってくるかわかりませんものね!」


 ぱっちんぱっちん! とカルマが指を鳴らしまくる。


 リュージたちが生活している建物が、あっという間に魔銀ミスリルの要塞と化した。


「もうっ……母さんはすぐに暴走するんだからっ」


 リュージは母に注意しつつも、少しだけ心が楽になった。


 母のやらかす大騒動は、リュージにとっての日常の風景。


 いつもの日常が、リュージに悪い思い出を忘れさせる。


「えへへっ。りゅーくん元気出た~?」


 カルマがニコニコしながら尋ねる。

 ……母が、気を遣っていたようだった。


「ごめんね、母さん」

「なーにをおっしゃりますか! りゅーくんが謝る必要性はゼロですよ! むしろ間違っているのはりゅーくんを置いて出て行ったあの両親どもです! あんにゃろーめ!」


 カルマが口から気炎(文字通り)をあげながら言う。


「こんなに可愛い天使をお母さんに与えたことは……まあ許してあげますしかし! しかーし!」


 カルマが悪鬼もかくやという恐ろしい表情で言う。


「りゅーくんを捨てやがった大罪人ども許してはおけません! もし見つけたらこの聖剣エクスカリ棒でお尻ペンペンしてやるー!」


 カルマがスキルで、金棒を作る。

 とげとげの鉄紺棒を、ぶんぶん! と片手で動かす。


「……母さん。どうして?」


 リュージは聞いた。

 どうして、リュージが両親のことで、気を落としていたのかわかったのか……と。


 カルマは微笑を浮かべる。

 それはリュージを慰めるときの、優しい笑みだ。


 カルマはリュージを優しく、その頭をよしよしと撫でた。


「わかりますよ。だって、お母さんですもの」


 カルマが優しく、リュージの頭を撫でる。

「いつも見てきましたから。りゅーくんが時折見せる、悲しい顔」


 ハッ……! とリュージが遅まきながら気付く。


 母の前では、この顔をしないようにしていた。

 本当の両親のことを、考えないでいた。


 だがカルマには……お見通しだったみたいだ。


「母さん。あのねっ。僕……僕にとって母さんがっ」


 リュージにとってカルマが一番だ。

 顔の知らない両親よりも、育ててくれたカルマを、リュージは母と思っている。


 そう伝えないとと思った。

 そうしないと母が落ち込んでしまうと思ったから。


 けれど母は、微笑んだまま、リュージの唇に指を乗せてきた。


「だいじょうぶです。お母さん、りゅーくんの言いたいことわかってますから」


 よしよしと、カルマがリュージの頭を撫でる。


「優しいりゅーくん。フォローしてくれようとしたんですね。本当に、優しい子に育ってくれて……お母さんうれしいです」


 けど……とカルマが続ける。


「わかってます。あなたがお母さんのこと大事に思ってくれていること。だからお母さんは……だいじょぶです」


 母の前で、本当の両親の話題を出すことはしないでいた。


 だってそうしたら、今母親たらんと頑張ってくれているカルマに対して、失礼なことだと思っていたからだ。


 けれどカルマはだいじょうぶだといった。

「そんなこと気にしないで。りゅーくんはいつも、お母さんに天使の笑顔を見せてくださいな」


「母さん……」


 きっと、母は傷ついただろう。

 カルマにとって、本当のリュージの両親のことを思うことは、つらいことだと思う。

 けどカルマは笑っていた。気にするなと。

 ……だから、リュージはうなずいた。


「ありがとう」

「いえいえ♡ こちらこそ……ありがとう、りゅーくん」


 カルマがぎゅっとハグする。


「いつもお母さんに優しくしてくれてありがとう。お母さんの元にやってきてくれて……ありがとう」


 普段はカルマのハグを、照れくさくて突っぱねることが多かった。


 だがこのときばかりは、リュージもまたハグをした。


 気持ちを伝えたかった。今この胸に抱いている、カルマに対する感謝と愛情が、少しでも伝われば良いなと思いながら。


 リュージは強く、母と抱擁を交わすのだった。

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