123.邪竜、息子に化粧水を塗ってもらう【前編】
マキナのもとへカレーを運んだ、その日の夜。
風呂上がり。
リュージが今日の弁当のことと、明日の弁当の献立を相談しに、母に会いに向かっていた。
リビングへ行くと、母が半裸をさらしていた。
「あっと……ごめん」
リュージは気まずい思いをした。
別に母にセクシャルは感じない。
母の裸を見ても、ムラムラすることなど皆無だ。
母のキレイな肌を見てしまったことに、ただただ気まずさを覚える。
「りゅーくーん!」
カルマは裸身をさらしながら、笑顔でリュージに、抱きつこうとしてくる。
「服っ! きてからっ!」
「ぬぅ……ではしばしお待ちを」
カルマはすとん、とイスに座る。
リビングの机の上においてあった、ボトルを手に取る。
手のひらに何かを出すと、それを肌に塗りたくる。
「母さん、何してるの?」
リュージはカルマの方を見ないようにしてきく。
「ん~? これですか。化粧水をつけてるんですよ」
「化粧……すい?」
初めてきく単語だった。
カルマは苦笑する。
「そうですよね。男の子には縁遠いものかもしれませんね」
肌に水分をくわえる化粧品? のようなものらしい。スキンケアグッズのひとつだそうだ。
「へぇ……女の子ってそんなことしてるんだ」
「ええ。シーラもルトラもしてましたよ。……あの無駄肉も」
チェキータのことだろう。
「あの女結構ババアですからね。毎日のスキンケアに気を遣ってるんですよ」
「もうっ、母さんダメでしょう。チェキータさんの悪口言っちゃ」
「悪口じゃないです。事実を言ってるだけです」
それを言うならカルマも500歳。
そこそこ歳をいってるような気がした。
だが女性に歳のことを言うのは、マナー違反だとチェキータから教わっている。
だからリュージは年齢のことに触れないでおいた。
「そういえばりゅーくんどうしたの?」
「あ、うん。今日のお弁当箱持ってきたんだ。それと明日の献立の相談に」
「なるほど! ではしばしお待ちを」
ぺたぺた、と母が自分の肌に、化粧水をしみこませていく。
「むぅ、めんどい。でもでもっ、美しい体にならないとっ! りゅーくんの理想のお母さんにならないとですからね! 美容大事!」
なるほど……とリュージは得心がいった。
母は外見にあまり頓着しない。
なのにどうして、スキンケアなど……?
答えはカルマのセリフ通りだったらしい。
別にリュージのために美しさを保たなくてもいいのに……。
「母さんはそのままでも十分キレイだよ」
するとカルマは……その場に倒れた。
ゴッ! と鈍い音がした。
「か、母さん!?」
リュージは慌ててカルマのそばによる。
カルマは顔から、地面に突っ伏していた。
このまま持ち上げるわけにもいかない……かといって具合を確かめないといけない。
リュージは全力で母の首から下を見ないようにしながら、母の具合を確かめる。
「母さんだいじょうぶっ!?」
「ふぇえ~……♡ 息子に告白されたのぉ~……♡」
カルマが目を♡にしながら、夢見心地でつぶやく。
「よかった……もう、びっくりさせないでよね」
「ぬへへ~……♡ ごめんね~りゅーくーん……♡ うふっ、うふふふっ♡」
カルマは今にも空を飛んでいきそうなくらい、上機嫌だった。
はぁ……とため息をついて、母の額に手を当てる。
たんこぶはできてないようだった。
「はぁん♡ ケガがないか確かめてくる息子が優しいよう♡ 格好いいよう♡ 素敵だよぅ♡」
くねくねとカルマが身をよじる。
リュージははぁ……とため息をつきながら、眼下で揺れる桜色を見ないようにする。
「だいじょうぶだよね」
「うんっ! ごめんなさいねりゅーくん! でもでもっ、心配してもらえて、お母さんウルトラすーぱー超ハッピーですよー!」
にっこにこしながら、カルマが言う。
よいしょとイスに座って、再び化粧水をペタペタし出す。
「結構念入りなんだね」
「夏の紫外線はお肌から水分を、いつも以上に奪っていきますからね。特に念入りにやらないと」
そういうものなのか。
リュージは男の子なので、スキンケアなどまるで気にしたことがなかった。
「なんか新鮮。母さんからお化粧のこと聞くなんてさ」
「お母さんっぽいですか!?」
目をらんらんと輝かせながら、カルマが言う。
「だから前を向かないでって!」
繰り返すようだがカルマは今、半裸状態である。
「にへへ♡ お母さんっぽいか~♡ お母さんもお母さんを積んできましたからね。ずいぶんとお母さんになったものですよ!」
お母さんを連呼しすぎて、なんだかよくわからないことになっていた。
カルマがぺたぺたと顔や腕に化粧水をつけていく。
ややあって、カルマが背中にもペタペタとやっていた。
人間ボディだからか、若干やりにくそうだった。
「母さん……ええっと」
ちょっと気恥ずかしいとは思った。
だがカルマが苦戦しているところを見ていると、それを傍観するわけにもいかないのである。
「化粧水。背中の部分……」「お願いしますー!」「……まだ言い終わってないんだけど」
カルマが目をきらんきらんさせながらいう。
「やったぁ! 息子がお母さんの素肌に触れてくれるー! うれしー!」
「へ、変な言い方しないでよっ! もうっ!」
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