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15.息子、天空の城(自宅)に閉じ込められる

お世話になってます!



 ボスモンスターに遭遇した翌朝のことだ。

 リュージはいつものように目を覚ます。


「んー……よく寝た」


 そこは2階の、自分の部屋だ。


 カミィーナの街へやってきて使い出したこの部屋だが、今ではすっかりこの風景にも慣れた。


「今日はシーラさんと薬草取りのクエストだ。よし、がんばるぞっ!」


 リュージは衣服を身につける。


 皮の盾と銅の剣を装備して、リュージは部屋を出る。


 出て……絶句した。


「な、なにこれぇ!?」


 リュージが驚くのも無理はない。


 なにせ、部屋の外が……豪華な廊下だったからだ。


 シャンデリア。ふかふかの真っ赤な絨毯。

 廊下のあちこちには銅像やら絵画やらが並んでいる。


 余談だが全てリュージの絵や像だった。


「え、え、なに? なに? どういうこと……!?」


 昨日までは、部屋を出たら短い廊下があって、1階へ降りる廊下があった。


 だのに、目の前に広がる廊下は、明らかに見知らぬ場所。


 いったいどうなっているのだ……と困惑していたそのときだった。


「りゅ、リュージくんっ!」


 右の方から聞き慣れた女の子の声がした。

 見やるとそこには、ウサギ獣人のシーラがいた。


「シーラさん!」


 見知った顔がいて、ほっと安堵の吐息をはくリュージ。


 向こうも一緒だったのだろう、リュージと合流すると、シーラはほぅっと吐息をはく。


「良かったぁ……ぐす、リュージくん……」


 感極まったのか、シーラがリュージに抱きついてくる。


 びっくりするくらい、シーラの身体は小さくて、そして、柔らかく……とても良いにおいがした。


「し、シーラさんっ」


 どきどきと早鐘のように心臓がなる。


 するとシーラが、ハッ……! と我に返って、顔を真っ赤にした。


「ごごご、ごめんなさいなのですっ!」


 離れて、シーラがぺこぺこと頭を下げる。

「いや、まあ、うん」

「あう、あうあう……」


 気まずい雰囲気を払拭するように、


「ど、どうなってるんだろうねっ、これっ!」


 と声を張るリュージ。


「昨日寝るときには、こんなふーになかったのです」


「……寝てる間に何かやったんだな」


 誰が、とシーラは聞いてこなかった。


 思い当たる人物は、ひとりしかいなかった。


「とにかく行こう」


「は、はいっ」


 リュージの後ろから、シーラがちょこちょことついてくる。


 長すぎる廊下を歩きながら、リュージは「母さん! いるんでしょ!? 母さん!」と声を張る。


 しかし母は出てこない。


 廊下にはドアがいくつもあって、ひとつひとつに部屋があった。


 風呂。娯楽室。植物園。


 などなど、様々な用途の部屋があった。


「まるでお姫様の住むお城みたいなのです」


 はわぁ……っときらきらした目をするシーラ。


 彼女を連れてしばらく歩くと、【母の間】と書かれた大きなドアにぶちあたる。


「…………ここか」


 リュージはドアを開ける。


 すると先ほどの廊下を凌駕するほど、巨大な部屋が広がっていた。


 王の謁見の間……というか、魔王の間のような、荘厳さを感じさせる作りになっている。


 その部屋の奥には、ひとつの玉座らしき立派なイスが置いてある。


 そのイスに座っていたのが……母カルマだった。


「よくぞ参られましたね、りゅー君。待ちくたびれましたよ」


 王座にて、母がにこりと微笑えんでいる。

「カルマさん、おはようなのです!」


 のんきにあいさつをするシーラに、母が「おはようシーラ」と返す。


「母さん……! いったいこれはどういうことなの!?」


 そう……おかしい。


 だって昨日まで普通の家だったのだ。


 それが、廊下はでっかくなってるし、部屋の数はとんでもないことになってるし、極めつけに母の間とかいうこの部屋だ。


 明らかに……おかしかった。


「りゅー君」


 カルマは立ち上がり、こつ……こつ……と足音を立てながら、リュージたちに近づいてくる。


「お母さん、昨日の件でわかったことがあるんです」


 神妙な顔で、母が近づいてくる。


「わかったこと……?」


「ええ。それはシンプルな事実でした」


 やがてリュージたちの前までやってくると、だきっ! と強く抱擁してくる。


「お外、危ない」


 そんな、子供みたいなことを言うカルマに、リュージはぐいっと押しのける。


「外には危険がいっぱいです。事故やケガの原因となるものの、なんと多いことかっ」


 そこでと母が続ける。


「そこでお母さん考えました。やはり外は危ないと。だからこう考えました」


 にこり、と聖母のような笑みを浮かべて、カルマが言う。


「一生、安全な家の中で、暮らしましょうって」


 ……。

 …………。

 …………あかん。


 リュージは悟った。


 これはまずい。


 なにがまずいって? 母の目が真剣マジだったからだ。


 本気でこの人、家の中で一生くらすとか、アホなことを言ってるんだ!

 

 そうともこの母、アホの子だった。


「しかし家の中で一生だと、りゅー君が飽きてしまうでしょう。だからお母さん、家をほんのちょっと改造したのです」


「ほんのちょっとでこれかよっ!?」


「王の城を模倣して作ったのですが、お気に召しませんでしたか?」


 きょとん、と首をかしげる母。


 リュージのいらだちは募るばかりだ。


「必要な施設があるのでしたら、遠慮なく言ってください。増築しますから」


「そういうこと言ってんじゃないの! 外に出して!」


 するとカルマは、微笑みながら、


「どうぞ」


 と言う。


「どうぞ出たいのならご自由に」


 ……カルマが、とめてこないことに、激しい違和感とともに、嫌な予感が胸の中に広がる。


「……出口はどっち?」


「廊下をまっすぐに抜けてください」


 リュージはシーラをその場に残して、ひとり、廊下を走る。


 走る。


 走る。

 

 走って……廊下のどん詰まりまでやってくる。


 ドアを開ける。


 そして……絶句。


「な、に……これ……」


 ひゅぉおおおお………………。


 と、眼下には、青空が広がっているではないか。


 リュージはその場に、ぺたんと尻餅つく。

 ドアの向こうには、雲の海が広がっていた。


 果てしなく広い青い空が、下にあった。


 これは……どういうこと?


「ふふん、お母さん考えたのですよ」


 いつの間にか背後にいた母を、振り返ってみる。


「結界などで家に閉じ込めるという案もありました。しかしそんなことするより、もっと良い案が浮かんだのです」


「それは……?」


 うんうん、とうなずいて、母が言う。


「家を空の上に作ればいいのです」

お疲れ様です!


次回は明日の昼頃に更新予定です。

明日も昼、夜と更新できたらなと思ってます。


明日も頑張って書きますので、よろしければ下の評価ボタンを押していただけると嬉しいです。


ではまた!

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