122.息子、金竜を餌付けする【中編】
現地人マキナの元へご飯を持ってきたリュージ。
今日はカレーだ。
マキナがカレーの食べ方(スプーンの使い方)がわからないらしい。
ということで、リュージはマキナに、カレーを食べさせてあげることになったのだった。
「リュージ。早くしろ。もたもたするな」
「う、うん……ごめんね」
リュージはスプーンでカレーを掬い、マキナの前にすっ……と出す。
マキナはひな鳥のように、無防備に口を開けて、ぱくっ、とスプーンを食む。
バキッ!
「ばき?」
すっ……とリュージがスプーンを引き抜く。
「ちょっ!? マキナ! スプーンごと食べないで!」
スプーンの尖端がなくなっているではないか。
「カレーだけ食べれば良いんだよ。スプーンは食べなくて良いの」
「リュージ。難しいことを言うな。わかりやすく言え」
「ええっと……」
そこからレクチャーしないといけないのか。
スプーンでものを食べたことない人間なんているのだろうか……?
いやでもここは孤島だ。
外の情報が入ってこないのだろう。
常識を知らないのも無理からぬことか。
「えっとね……こうするんだよ」
リュージはスプーンでカレーを掬う。
そして口に含む。
そしてスプーンだけを引き抜く。
「こんな感じ」
「理解した」
うんうん、とマキナが真面目な顔でうなずく。
そして「んぁっ」と口を大きく開いた。
リュージは別のスプーンを取り出そうとする。
「リュージ。どうした?」
「え? なにが」
「さっさと口に運ぶが良い」
「えっと……だからちょっと待ってね。今新しいスプーンを……って、あれ? ない」
そう、人数分のスプーン(リュージとマキナの分)しかなかった。
マキナが1つ破壊したことで、スプーンは一つしか無い。
「さっさとよこせ」
「けど……そのスプーンさっき僕が……」
もにょもにょと言いよどむリュージ。
マキナは不機嫌そうに言う。
「いいからよこせ」
「わ、わかったよ……」
リュージはスプーンでカレーを掬う。
異性が口をつけたスプーンを、マキナは何事もなくぱっくりと口に含む。
今度はスプーンを破壊せず、まむまむと咀嚼する。
「美味。次だ」
「う、うん……」
リュージは何度もマキナの口にカレーを運ぶ。
さっきからのこの女性、微塵も動揺していなかった。
そりゃリュージが子供で、マキナが大人だから、間接キスをしたからと言っても動揺しなくて普通か。
しかしリュージはお年頃。
自分の口のついたものを、美しい女性の口に入ることが……すごくドキマギとしてしまう。
「どうした? 早く次をよこせ」
「ああ、うん……。えっと、マキナ?」
リュージはマキナにカレーを食べさせながら問いかける。
「気にしないの?」
「ふぁふぃふぁ?」
マキナが頬をパンパンに膨らませながら言う。
頬の部分だけがさならが齧歯類だった。
真顔でそんなことをするもんだから、リュージは吹き出してしまう。
「……なんだ。人の顔を見て笑うとは。不敬だぞ」
「ごめんね。馬鹿にしてるわけじゃないんだ。ただ可愛いなって思って」
「可愛い……」
マキナが自分のほっぺをむにむにと触る。
「こんな女のどこが可愛いというのだ。人間とは美的感覚がおかしいな」
「そんなことないよ。美人でとっても素敵だと思う」
「………………そうか」
マキナがジッ……と地面を見つめる。
「マキナ?」
「なんでもない。とっとと次をよこせ」
そんなふうにご飯をあげていると、お鍋の中身がすべて無くなる。
「次だ」
「もう無いよ」
「……………………そうか」
しゅん、とマキナが頭を垂れる。
「あー……僕の分で良かったら、食べて」
すっ、とリュージは自分の皿についだカレーを、マキナに差し出す。
「……良いのか? これはおまえの食料だろう?」
「いいんだ。マキナに食べてもらった方が、母さん喜ぶと思うし」
こんなにもおいしそうな人に食べてもらえるなら、というニュアンスで言ったつもりだ。
しかし……。
「そ、そうかっ。そうか!」
マキナはしっぽを子犬のようにぶんぶんと振る。
「リュージ! さっさと食わせろ!」
「う、うん……。了解」
そんなにお腹がすいてるのかな?
と思いながら、リュージはマキナに、母特製のカレーを食べさせるのだった。
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