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122.息子、金竜を餌付けする【前編】



 母と海で過ごした翌朝。


 リュージはマキナの元へと向かった。


 リュックにたっぷりの食料を抱えて、えっちらおっちら、密林の中を歩く。


 ややあってマキナの居る花畑と到着。


「遅いぞリュージ。いつまで待たせるんだ」


 長身金髪の美女、マキナが、祠の前で仁王立ちしていた。


「昨日はどうしてこなかった? 来るのを待っていたんだぞ」


 マキナは表情を変えずに言う。

 この美女は常に無表情だが、ドラゴンしっぽが抗議するように、ぴんっ、と立っていた。


「ごめんね。あれ、でも昨日はこれないよって言ったよね」


 だから昨日これない分、おとといは食料をたくさん用意していたのである。


「……言ってない」


 ぷいっ、とマキナがそっぽ向く。


「いやでもちゃんと言ったよね? だから食料イッパイ置いてあった……って、もうない」

「言ってない。リュージが間違っている」


 あれだけたくさん料理を作っておいたのに、もう全部無くなっていた。


「リュージ。早くメシをよこせ」

「うん、わかったよ」


 リュージはまたレジャーシートを広げる。

 そそくさとマキナがシートに、行儀良く座る。

 パタパタ、っとドラゴンしっぽがせわしなく動いていた。


「今日はね……」


 パタパタ。


「じゃーん! カレーです!」


 パタパタパタパタッ!


「しかもビーフカレーです!」


 パタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタ!!!!


 リュージはルーの入った小さなお鍋と、ご飯の入っている【すいはんき】とやらを、バックから取り出す。


 魔法コンロで火をつけて、鍋を置いて温める。


「リュージ。そんなことしなくていい。早くよこせ」


 じゅるり……っとよだれを垂らしながら、マキナが言う。


「暖めた方がおいしいよ」

「……………………そうか」


 おとなしく座るマキナ。

 だがそわそわと体を揺すっている。


 どうやらよほど空腹だったのだろう。

 そこまで……母の作ってくれた料理を気に入ってくれていると言うことだろうか。


 リュージは嬉しかった。

 母の料理を、こんなにも心待ちにしてくれるひとがいることが。


 ややあって、カレーが暖め終わる。


「できたよ」

「そうか」


 マキナはそう言って、お鍋をがしっ、と素手で掴む。


 そのままふたを放り投げて、鍋に顔を突っ込んだ。


「ちょっとマキナ! ダメだって!」


 リュージは慌てて、マキナから鍋を奪う。

「リュージ。鍋を返せ」


 若干頬を膨らませて、マキナが言う。

 だがその顔は、カレーでべっとりと濡れていた。


「ダメ。カレーはそうやって食べるものじゃありません」


 そう言ってリュージは、ハンカチを取り出す。


「マキナ。顔ふくから、こっち来て」

「必要ない」


「必要あります。ほら、こっち」


 マキナはまた頬を膨らませたが、立ち上がり、リュージの隣へ移動。


 リュージはその恐ろしく整った顔を、ハンカチで拭う。


 ……至近距離で見れば見るほど、母に顔の形がそっくりだ。


 髪の色と、角はないものの……それ以外は本当に似ていた。


 母にお世話をしているような錯覚を起こして、妙にドギマギしてしまう。


 ややあって、リュージはマキナの顔を拭き終わる。


「終わったか? 早くカレーをよこせ」


 早く早く、と催促する。

 リュージはご飯をお皿についで、ルーをかけて、マキナに出す。


「ハイこれスプーン……って、マキナ!?」

「むぐむぐむぐ……なんだ?」


 マキナはお皿に顔を突っ込んで、もしゃもしゃと食べている。


 まるで犬のような食い方だった。


「もうっ! マキナっ! こっち来てっ!」

「……なぜだリュージ? わがはいはカレーを食いたい。なぜ意地悪するんだ?」


「口の周りかが汚いからですっ。ほら来て」

「むぅ……」


 マキナがまた不服そうな顔になるが、素直にリュージの隣へ移動。


 リュージが彼女の顔を拭く。


「もしかしてカレーの食べ方知らない?」

「失礼なやつだな。ものの食い方など知ってるに決まっているだろう。さっきのがそうだろう?」


「ちがうって……これを使うんだよ」

「……なんだこの棒は?」


 マキナがスプーンを、まるで珍妙なもののように見やる。


「スプーン。これですくって食べるの」

「……わからん。どう使うんだ?」


 リュージはスプーンを持って、カレーを掬い、そして一口食べる。


「こうやるの。わかった?」

「わからぬ。リュージ。おまえがわがはいに食べさせろ」


 ええっ!? とリュージが驚く。

 マキナは平然という。


「おまえは食べ方がどうのこうのとウルサくて、一向にメシが進まぬ。おぬしがわがはいに正しい食べ方で食べさせろ」


「いやでも……」


 妙齢の女性に、スプーンでたべさせるなんて……。

 まるで恋人同士ではないか。


「リュージ。早くしろ」


 んあっ、とマキナが目を閉じて、口を開く。

 食料を待つひな鳥のように思えた。

 

 対象が成熟した大人の女性となると……なんだかいけないことをしているようで、ドキドキしてしまう。


「リュージ。早くしろ」

「う、うん……」


 リュージはうなずいて、マキナにご飯を食べさせる。

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