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121.邪竜、南国を楽しむ【中編】



 母が悪夢を見たその日の午前中。

 

 リュージは母を誘って、海へとかり出していた。


 海辺へとやってきて、母と水泳の練習をしている。


「母さん上手だよ! バタ足ちゃんとできてる! 前に進んでいるよ!」


 リュージは母の両手を掴んで、後ろ向きで歩く。

 カルマは体をまっすぐ伸ばし、バタ足で進んでいた。


「りゅーくん! だめですよ! 手を離しちゃ絶対ダメですからね!!」


「だいじょうぶだよ。ほら、顔つけて、息継ぎして」


「うう……りゅーくん……絶対はなしちゃダメですからねぇ~……」


 カルマが目を閉じて、ぱちゃっ、と海に顔を着ける。


 ぱたぱたとバタ足をするカルマを見ながら、リュージは今に至るまでを思い出す。


 母は悪夢を見たらしく、朝から気分が悪そうだった。


 気分転換になればと、リュージ母を誘って海へとやってきた次第だ。

 

 カルマはこの島に来てから、【敵】を探しだけでなく、普段の母業務もこなしている。


 精神的に疲れているのだろう。

 だから今日くらいは、母に休んで欲しかった。


「…………」


 リュージはそっ……とカルマの手を離す。

 するとカルマは、自分の力だけで、前進していくではないか。


「いいよ母さん! その調子!」


 ここへ来たとき、母はまったくのカナヅチだった。


 それが今は、不格好ながらも、自力で泳げるようになっていた。


「ぶばぁっ……! りゅーくんがいないー! ききき、消えたー!!」


 カルマが顔を上げる。

 顔面蒼白だった。


「消失魔法か!? おのれ敵め! めっきゃくしてやるぅうううううううううううううううううう!!!」


 カルマはドラゴン姿になると、四方八方にドラゴンブレスを撃つ。


 びごぉおおおおおおおおおおお! びごぉおおおおおおおおおおお! びごぉおおおおおおおおおおお! びごぉおおおおおおおおおおお! 


「母さん! 落ち着いて! 僕ここに居るから!」


 リュージはカルマを見上げて言う。

 母はポンッ、と人間姿に戻ると、リュージにそのまま、抱きついてきた。


「うわぁあああああああああああん! りゅーくーーーーーーーーーーーん!」


 子供のように泣きながら、カルマがリュージの体を抱きしめる。


「良かった無事で良かったぁあああああああああああああ! 急に消えるんだもんびっくりしたよぉおおおおおおお!」


「ご、ごめんね……」


 そこまで悲しませる気は無かった。

 リュージは申し訳ない気持ちになって、ペコッと謝る。


 そしてリュージは、さっきの手を離したのは、わざとだと語る。


「もうっ! りゅーくんいじわるですっ!」


 ぷーっと、カルマがほっぺを膨らませて言う。


「ごめんね母さん。けどひとりで泳げてたよ」

「ひとりで泳げる必要ナッシング! りゅーくんがずっと手をつないでいれば問題ないことでしょう!」


 うんうん、とカルマがうなずく。


「とゆーことでもう一回りゅーくん♡」


 にぱっ、と笑って、カルマが両手をリュージに突き出してくる。


「だからひとりで泳げてたってば」


「のー! お母さんまだまだひとりで泳げません! 救世主りゅーくんが手を差し伸べてくれないと、お母さんなーんにもできないもんっ!」


 どうやらこのお母さん、息子とただ手がつなぎたいだけらしかった。


 リュージは苦笑する。


「しょうがないなぁ。いいよ、自信がつくまで一緒に練習してあげる」


「えへへ~♡ りゅーくん優しい♡ だぁいすき~♡」


 カルマがそのまま抱きついてくる。

 ちゅっちゅっ、とリュージの額にキスをする。


 嬉しそうに笑い、リュージをハグし、よしよしと抱きしめる母。

 普段は恥ずかしくて辞めて欲しいのだが……今日ばかりは我慢した。


 母が元気になってくれている。

 母が笑ってくれるのなら、多少はずかしくても、母のしたいことをしてあげたかった。


「はぁあん♡ このままりゅーくんと一緒に海の藻屑になりたい……♡」


「もうっ。怖いこと言わないでよ。ほら練習しないの? なら海から上がるけど」


 リュージが言うと、カルマが慌てて水泳の体勢を取る。


「りゅーくん、手を離しちゃめっ、ですよ」

「はいはいわかったよ。ほら、顔つけて、バタ足して」


 母の手を引いて、リュージはまた後ろ向きに歩く。


 母は美しいフォームで、バタ足をする。


 力強く前へと進んでいく。

 もともと母には、泳ぎの才能があったのだろう。


 短時間でいとも容易く、バタ足による水泳が可能になっていた。


 リュージはまた手を離そうとして……がしっ! とカルマに、両手をしっかりと捕まれた。


「か、母さん離してっ!」

「ごばぁ! ばばびばべんぼぉ!」


「顔水に突っ込んだまましゃべっちゃだめだよっ!」


 カルマが泡を吹きながら、ジタバタと溺れる。

 リュージは慌ててカルマを抱き上げる。


「げほっ……ごほっ……」

「母さんだいじょうぶっ?」


「ええ……ぜえはあ……はぁっ!? はぁあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」


 カルマが急に大声を上げる(平常運転)。

「ど、どうしたのっ?」


 まさか足でもつってしまったのだろうか。

 リュージは慌ててカルマの様子を、「りゅーくんがお姫様だっこしてくれてるぅううううううううううううううう!!!」


 ……。

 ……リュージは呆れたように、ため息をついた。


「息子が! 愛しい我が子が! お母さんを抱っこしてる! お母さんを抱っこしてるぉー! これは歴史的瞬間だよぉ♡♡」


 カルマがうっとしとした表情でつぶやく。

「りゅーくんたくましくなったね♡ あんなに小さくてか弱かった息子が……ぐすっ、りっぱになって……感動だぁ……記録に残さないとっ!」


 カルマが記録用の魔道具を出して、リュージを撮影する。


 なんにせよ、無事で良かった。


 りゅーじはカルマを下ろそうとする。


「ダメですっ! 陸まで運んでください!」

「なんで?」


「えっと……あ、あしつったー。あしつっちゃったよー。りゅーくんへるぷみー」


 ……すごい棒読みで、カルマが助けを求める、振りをする。


 どうやらまだお姫様抱っこして欲しかった。


「……わかったよ。しっかり捕まっててね」


 リュージはカルマをお姫様抱っこしながら、陸地へと向かって歩く。


「えへへ~♡ 幸せ~♡ りゅーくんに抱っこされるなんて……あー! 海さいこー!」


 カルマが楽しそうに騒ぐ。

 リュージはため息をつきながら、笑った。

 そうだ。

 母はこんなふうに、脳天気に笑っている方が素敵なのである。

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どちらも素敵な本に仕上がってますが、売れないと打ち切られてしまいます。


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