120.邪竜、金竜の存在に気付く
マキナとランチをした後。
リュージはゴーシュたちと合流し、拠点へと戻った。
その日の夜。
リュージは母のもとを尋ねていた。
場所はリュージたちが暮らしている城(カルマがスキルで作成した)。
母の寝室の前にて。
リュージはドアをノックする。
「母さん。入って良い?」
【どうぞっ】
リュージが部屋のドアを開ける。……閉めた。
「りゅーくんどうしたの?」
がちゃっ、とドアを開けてカルマが顔を覗かす。
「いや……なんか部屋の中が……カオスで」
「カオス? よくわかりませんが……ささっ、中に入ってくださいよ! 廊下に突っ立っていたら風邪引いちゃいますからね!」
ぐい、とカルマがリュージの手を引いて、中に招き入れる。
……部屋の中を見て、リュージは言葉を失った。
辺り一面、リュージの【グッズ】で埋め尽くされていたからだ。
「母さん……これは、いったい……?」
「お母さんお手製のりゅーくんオリジナルグッズです!」
得意げにカルマが言う。
周りにはリュージをもしたぬいぐるみやら人形やらが、そこかしこに置いてある。
ベッドのシーツにはリュージが印字されている。
抱き枕もあった。
これにもリュージの体がプリントされている。
「りゅーくん抱き枕はリバーシブルです。裏を返すとりゅーくんのちょっとえっちなイラストが描かれてるんです。見ますっ?」
「いいよっ! もうっ! いつの間にこんな変なもの作ったの……」
はぁ、とリュージはため息をつく。
カルマはいそいそとクッションとテーブルを用意する。
もちろんリュージの絵が描かれていた。
「はいどうぞ。南国の夜なのでトロピカルジュースです」
「あ、ありがと……」
母がグラスを、リュージの前に置く。
グラスもリュージの顔が描かれていた。
「これ家から持ってきたの?」
「いいえ。家にもありますが、ここにあるものはお母さんが改めて作った物です」
母には万物創造という、何でも作れるスキルがあった。
それを使えばリュージグッズもちょちょいのちょいで作れるのだろう。
「というかりゅーくんがドアをノックした瞬間に作りました」
「なんで!?」
「愛しい大天使が降臨なさるのです。それ相応の飾り付けをしないとですからねっ」
どうやら本当についさっき作った物だったらしい。
「はぁああああん♡ 我が子が自ら、お母さんの部屋を尋ねてくれるなんて~♡ 夢のようですよ~♡」
実に嬉しそうに、カルマが頬に手を当ててくねくねする。
そういえばいつも、カルマの方から、リュージの部屋に来ていたなと思った。
「それでそれでっ? 用事ってなぁにりゅーくん。世界が欲しいのですか? 気に入らない人間を滅ぼすのですかっ?」
「しないよ……」
母は思考回路が基本人外と息子でできているのである。
「では何の用事?」
「えっと……明日もお弁当作って欲しいんだ」
「なんだそんなこと。お安いご用ですよっ!」
どんっ! とカルマが自分の胸をたたく。
「えへへ♡ りゅーくん、お母さんとぉっても嬉しかったです♡」
カルマがにこやかに笑うと、リュージを正面から抱きしめる。
むぎゅっ、とその大きな乳房に、リュージの顔が埋まる。
「たくさん作りすぎちゃったかなと思ったお弁当、きれーに食べてくれてっ。お母さん本当に嬉しかったですよぅ♡」
えへへ~♡ と純粋無垢な笑みをカルマが浮かべる。
リュージは申し訳なさそうに、眉を八の字にした。
「母さん、その……ごめんね。実は食べたの僕ひとりじゃないんだ」
「おやそうなのですか? あ、シーラですね。あの子食いしん坊ですかね~♡」
リュージは首を振る。
「ううん。違うんだ。別の人。現地人のひととご飯食べたの」
「おや、そうなんですね。しかしキレイに食べてくれましたね」
「うん。その人ね、母さんの料理おいしいおいしいって、喜んで食べてたよ。また食べたいってさ」
「ふふっ、その人にもお礼を言いたいくらいです。なんてかたですか?」
カルマがにこやかに尋ねる。
リュージは言う。
「マキナアビスってひと。竜人族みたいだったよ」
「!?!?」
マキナの名前を出した瞬間、カルマが大きく目をむいた。
「りゅ、りゅーくん!?」
がしっ、とカルマがリュージの肩をつかむ。
「だいじょうぶ!? 変なことされてない!? ケガは!?」
顔面蒼白でカルマが尋ねてくる。
「う、うん。だいじょうぶだよ。マキナ、優しい人だし。ケガなんて負ってないよ」
「…………」
リュージがびっくりして言う。
カルマは「……そう、ですか」ぺたん、とその場にへたり込む。
「私の料理……おいしい……? そんなこと……一度もいったことなかったのに……」
「母さん?」
だいじょうぶだろうか。
母の様子がおかしかった。
リュージは心配して、カルマに近づく。
「だいじょうぶ? 母さん」
「りゅーくん……。だいじょうぶ。お母さんは、だいじょうぶです」
カルマが笑う。
だが無理しているのは目に見えて明らかだった。
「ねぇりゅーくん。その人、本当にりゅーくんに酷いことしなかった?」
カルマが真顔で尋ねてくる。
「うん。普通にいい人だったよ。ちょっと変わっているなと思ったけど」
「そう……。それで、お母さんの料理、おいしいって食べたのは、本当なのですね……?」
リュージは素直にうなずく。
嘘をつく理由はなかった。
「そう……ですか。そう……なんです、ね」
カルマがぶつぶつとつぶやく。
本当にどうしたのだろうか。
だいじょうぶだろうか。
日中飛び回っていたみたいだし、疲れているのかも知れない。
「母さん、ごめんね。ゆっくり休んで」
リュージが立ち上がろうとする。
だが母ががしっ、とリュージの手を引く。
「……りゅーくん。お願いが、あるんです」
「お願い? いいよっ。何でもいって!」
リュージは嬉しかった。
母に頼られることが、リュージは嬉しいのである。
今までずっと、母に頼りっぱなしだったからこそ、余計に。
「明日からも……お弁当、マキナの分も作ります。なのでその人に……お弁当、届けてくれませんか?」
なんだそんなことか、とリュージはあっけにとられたが、すぐにうなずく。
「うん。いいよ。というか僕の方から頼もうって思ってたんだ。たくさん作って!」
リュージは、母の料理を、誰かがおいしいっていってくれることが、嬉しかった。誇らしかった。
カルマはうなずく。
「ええ。わかりました。たっぷり……愛情を込めて、真剣に作ります」
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