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冒険に、ついてこないでお母さん! 〜 超過保護な最強ドラゴンに育てられた息子、母親同伴で冒険者になる  作者: 茨木野
10章「無人島生活編」

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120.邪竜、金竜の存在に気付く



 マキナとランチをした後。

 リュージはゴーシュたちと合流し、拠点へと戻った。


 その日の夜。


 リュージは母のもとを尋ねていた。


 場所はリュージたちが暮らしている城(カルマがスキルで作成した)。


 母の寝室の前にて。

 リュージはドアをノックする。


「母さん。入って良い?」

【どうぞっ】


 リュージが部屋のドアを開ける。……閉めた。


「りゅーくんどうしたの?」


 がちゃっ、とドアを開けてカルマが顔を覗かす。


「いや……なんか部屋の中が……カオスで」

「カオス? よくわかりませんが……ささっ、中に入ってくださいよ! 廊下に突っ立っていたら風邪引いちゃいますからね!」


 ぐい、とカルマがリュージの手を引いて、中に招き入れる。


 ……部屋の中を見て、リュージは言葉を失った。


 辺り一面、リュージの【グッズ】で埋め尽くされていたからだ。


「母さん……これは、いったい……?」

「お母さんお手製のりゅーくんオリジナルグッズです!」


 得意げにカルマが言う。


 周りにはリュージをもしたぬいぐるみやら人形やらが、そこかしこに置いてある。


 ベッドのシーツにはリュージが印字されている。

 抱き枕もあった。

 これにもリュージの体がプリントされている。


「りゅーくん抱き枕はリバーシブルです。裏を返すとりゅーくんのちょっとえっちなイラストが描かれてるんです。見ますっ?」


「いいよっ! もうっ! いつの間にこんな変なもの作ったの……」


 はぁ、とリュージはため息をつく。


 カルマはいそいそとクッションとテーブルを用意する。

 もちろんリュージの絵が描かれていた。


「はいどうぞ。南国の夜なのでトロピカルジュースです」


「あ、ありがと……」


 母がグラスを、リュージの前に置く。

 グラスもリュージの顔が描かれていた。


「これ家から持ってきたの?」

「いいえ。家にもありますが、ここにあるものはお母さんが改めて作った物です」


 母には万物創造という、何でも作れるスキルがあった。

 それを使えばリュージグッズもちょちょいのちょいで作れるのだろう。


「というかりゅーくんがドアをノックした瞬間に作りました」


「なんで!?」


「愛しい大天使りゅーくんが降臨なさるのです。それ相応の飾り付けをしないとですからねっ」


 どうやら本当についさっき作った物だったらしい。


「はぁああああん♡ 我が子が自ら、お母さんの部屋を尋ねてくれるなんて~♡ 夢のようですよ~♡」


 実に嬉しそうに、カルマが頬に手を当ててくねくねする。


 そういえばいつも、カルマの方から、リュージの部屋に来ていたなと思った。


「それでそれでっ? 用事ってなぁにりゅーくん。世界が欲しいのですか? 気に入らない人間を滅ぼすのですかっ?」


「しないよ……」


 母は思考回路が基本人外バケモノと息子でできているのである。


「では何の用事?」

「えっと……明日もお弁当作って欲しいんだ」


「なんだそんなこと。お安いご用ですよっ!」


 どんっ! とカルマが自分の胸をたたく。

「えへへ♡ りゅーくん、お母さんとぉっても嬉しかったです♡」


 カルマがにこやかに笑うと、リュージを正面から抱きしめる。


 むぎゅっ、とその大きな乳房に、リュージの顔が埋まる。


「たくさん作りすぎちゃったかなと思ったお弁当、きれーに食べてくれてっ。お母さん本当に嬉しかったですよぅ♡」


 えへへ~♡ と純粋無垢な笑みをカルマが浮かべる。


 リュージは申し訳なさそうに、眉を八の字にした。


「母さん、その……ごめんね。実は食べたの僕ひとりじゃないんだ」


「おやそうなのですか? あ、シーラですね。あの子食いしん坊ですかね~♡」


 リュージは首を振る。


「ううん。違うんだ。別の人。現地人のひととご飯食べたの」


「おや、そうなんですね。しかしキレイに食べてくれましたね」


「うん。その人ね、母さんの料理おいしいおいしいって、喜んで食べてたよ。また食べたいってさ」


「ふふっ、その人にもお礼を言いたいくらいです。なんてかたですか?」


 カルマがにこやかに尋ねる。

 リュージは言う。


「マキナアビスってひと。竜人族みたいだったよ」

「!?!?」


 マキナの名前を出した瞬間、カルマが大きく目をむいた。


「りゅ、りゅーくん!?」


 がしっ、とカルマがリュージの肩をつかむ。


「だいじょうぶ!? 変なことされてない!? ケガは!?」


 顔面蒼白でカルマが尋ねてくる。


「う、うん。だいじょうぶだよ。マキナ、優しい人だし。ケガなんて負ってないよ」


「…………」


 リュージがびっくりして言う。

 カルマは「……そう、ですか」ぺたん、とその場にへたり込む。


「私の料理……おいしい……? そんなこと……一度もいったことなかったのに……」


「母さん?」


 だいじょうぶだろうか。

 母の様子がおかしかった。


 リュージは心配して、カルマに近づく。


「だいじょうぶ? 母さん」

「りゅーくん……。だいじょうぶ。お母さんは、だいじょうぶです」


 カルマが笑う。

 だが無理しているのは目に見えて明らかだった。


「ねぇりゅーくん。その人、本当にりゅーくんに酷いことしなかった?」


 カルマが真顔で尋ねてくる。


「うん。普通にいい人だったよ。ちょっと変わっているなと思ったけど」


「そう……。それで、お母さんの料理、おいしいって食べたのは、本当なのですね……?」


 リュージは素直にうなずく。

 嘘をつく理由はなかった。


「そう……ですか。そう……なんです、ね」


 カルマがぶつぶつとつぶやく。

 本当にどうしたのだろうか。

 だいじょうぶだろうか。


 日中飛び回っていたみたいだし、疲れているのかも知れない。


「母さん、ごめんね。ゆっくり休んで」


 リュージが立ち上がろうとする。

 だが母ががしっ、とリュージの手を引く。

「……りゅーくん。お願いが、あるんです」

「お願い? いいよっ。何でもいって!」


 リュージは嬉しかった。

 母に頼られることが、リュージは嬉しいのである。


 今までずっと、母に頼りっぱなしだったからこそ、余計に。


「明日からも……お弁当、マキナの分も作ります。なのでその人に……お弁当、届けてくれませんか?」


 なんだそんなことか、とリュージはあっけにとられたが、すぐにうなずく。


「うん。いいよ。というか僕の方から頼もうって思ってたんだ。たくさん作って!」


 リュージは、母の料理を、誰かがおいしいっていってくれることが、嬉しかった。誇らしかった。


 カルマはうなずく。


「ええ。わかりました。たっぷり……愛情を込めて、真剣に作ります」


 

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