119.息子、金竜とランチする【後編】
無人島の密林の奥、花畑にて。
リュージは現地人マキナとともに、昼食を取っていた。
レジャーシートを広げ、リュージたちは座る。
目の前にはランチボックス。
母が作ってくれた昼食が入っている。
弁当箱を開けると、中にはおにぎりやウィンナーなど、定番の品が入っている。
また中身が腐らないよう、魔法の氷(レアアイテム。どんな暑い場所でも解けることはない)が入っていた。
「ふむ……」
マキナはおにぎりを一つ手に取る。
大きく口を開き、バクッ! と食べる。
「もむ……もむ……」
最初はゆっくり咀嚼し、飲み込む。
ガシッ!
マキナは二つ目のおにぎりを手に取ると、また一口で食べる。
三つめ、四つめと、すごい勢いでおにぎりを食べていく。
「お、おかずもあるよ……?」
リュージが進めると、マキナは手づかみで、ウィンナーと卵焼きを口に放り込む。
「もごおぉ!!!」
マキナが目をむく。
おかずも手づかみで、どんどんと口の中に放り込んでいく。
マキナの表情は崩れない。
母に似て、超絶美人の女性だ。
その人が、頬をリスのように膨らませ、そして子供のように、手づかみでご飯を食べていく。
そのギャップに驚かされるリュージ。
そしてマキナに、どこか親しみやすさを抱いた。
リュージは水筒からお茶をついで、マキナに差し出す。
「ふぁふぁんふぁ、ふぁふぇ?」
マキナが口の中身をイッパイにして言う。
【なんだ、これ?】とでも言いたいのだろう。
「お茶だよ。飲み物。そんなにいっぱい食べたら喉渇いたでしょう?」
マキナはコクコクとうなずく。
リュージからコップを受け取り、ごっくんっ、と飲み込む。
「どう、おいしいでしょう?」
「まあまあだな」
すまし顔でマキナが言う。
「そこそこだな」
口の周りを、お米でイッパイにして、マキナが真面目くさった顔で言う。
「ぷっ」
「……なんだリュージ? なぜわがはいを馬鹿にしてるのか言え」
「いやごめんね。別に馬鹿にしてるわけじゃないよ。ただ……可愛くって」
リュージは微笑んで、マキナの口周りの米粒を取る。
マキナは微動だにせず、リュージのされるがままになっていた。
「マキナ。おかわりまだあるよ。食べる?」
リュージが弁当箱を、マキナに手渡す。
「それはおまえの分ではないのか?」
「僕は全部食べられないから。マキナが食べて」
「ふむ。まあ、おまえがどうしてもというのなら。食べてやっても良いぞ」
そう言って、マキナが弁当箱をハシッ! とリュージから回収。
まるで子供のように、中身をばくばくばくばく! と勢いよく食べていく。
リュージは嬉しかった。
母の作ってくれたお弁当を、おいしそうに食べてくれているからだ。
ややあって、リュージの弁当も、マキナはからにする。
「リュージ。もうないのか? 弁当はもうないのか? 隠しても無駄だ。あるなら素直に出せ」
マキナがリュージの後をのぞき見るようにして言う。
リュージは苦笑して首を振る。
「ごめんね。お弁当もうないんだ」
「……………………………………………………………………………………そうか」
ものすっごい残念そうに、マキナがつぶやく。
依然として表情の変化は見られない。
だが所作から、感情が変わった。
なによりドラゴンのしっぽが、捨てられたイヌのように、ぺちょんと垂れているのである。
「次はもっとたくさん作ってもらってくるよ」
「! そ、そうか……」
マキナのドラゴンしっぽが、ぴんっ、と立つ。
「ま、まあわがはいはどうでもいいが、作るヤツにこのタコさん型の腸詰めと、甘い卵を固めたヤツをたくさんつくってこいと頼んでこい」
「たこさんウィンナーに卵焼きね。わかった。母さんに伝えておくよ」
リュージが笑って言う。
母の料理を気に入ってくれる人が増えて、うれしかった。
「母……」
マキナがジッ、とからになった弁当箱を見て言う。
「リュージ。おまえの弁当は……母親が作ったのか?」
マキナがリュージに言う。
……それは、なんだろうか。
まるで何かを、確認するかのような口ぶりだった。
「うん。母さんが朝作って、僕に持たせてくれたんだ」
リュージが答えると、マキナが呆然とつぶやく。
「……そうか。あの子、弁当を息子にもたせられるのか」
マキナが、からになった弁当箱をなぞる。
「……立派になったな」
「マキナ?」
なんでもない、とマキナが首を振る。
「リュージ。また弁当を持ってここへ来い。いいな?」
「え、あ、うん! もちろん!」
リュージはやった! と心の中でガッツポーズを取る。
現地人と友好を図れた。
しかも、次も来て良いという。
「母さんにおいしいお弁当、いっぱい作ってくれるように頼んでくるね!」
「うむ。そうしろ」
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