119.息子、金竜とランチする【中編】
リュージはゴーシュ隊長たちと別れ、無人島の密林の奥へと向かう。
目的は現地人マキナアビスと会い、島の情報を引きただすためだ。
歩きにくいぬかるんだ地面を歩いて行く……開けた場所に出る。
そこにはさっきまでの鬱蒼とした木々が嘘のようにない、開けた空間があった。
一面に広がる花畑。
その中央に……長身の女性、マキナアビスがいた。
リュージは気合いを入れる。
今、リュージだけがこの場に居る。
魔力結晶のありかを知っているのは、今のところ現地人であるこのマキナ一人だ。
この人を怒らせてるわけにはいかない。
上手く話を引き出さねば。
リュージは緊張の面持ちで、マキナに挨拶する。
「こんにちは、マキナ」
「…………」
リュージが声がけるが、マキナは返事をよこさなかった。
聞こえなかったのか。
もう少し近づいて、リュージは声をかける。
「あのー、マキナ?」
「…………」
近づいても返事がなかった。
妙だなと思い、リュージはマキナの目の前までやってくる。
……改めてみると、本当に母そっくりの美人だ。
顔の作りが似ている。
母と髪の色は異なるし、角は生えていないけど……目とか鼻とかの作りはそっくりだ。
「ぐぅ~………………」
「………………え?」
リュージは、聞き間違いだろうかとマキナの顔を見上げる。
「ぐぅ~~~……………………」
「………………」
リュージはマキナの顔の前に、手をやって、ふる。
だがマキナは瞬きせず、微動だにもしていない。
もしやと思って、マキナのほっぺをつつく。
だがしかし……。
「ぐぅ~………………んぐぉ~…………」
「この人……寝てる!?」
目を開けたまま、立ったまま寝ていた。
……器用な人だなとリュージは思った。
しかし困った。
マキナは就寝中のようだ。
起こすのは悪い。
リュージはマキナからちょっと離れた場所へ移動。
背負っていたザックの中から、レジャーシートを取り出す。
花を潰さないような場所を探す。
祠の前には花が咲いていなかった。
シートを引いて、その場に座る。
しばしマキナが目覚めるのを待った。
「ぐぅ~…………」
「………………」
「んぐぅ~……」
「………………」
「ぐぐぉお~……」
……この人、どんだけ寝るんだ!?
太陽は真上にさしかかっていた。
午前中に出発したので、だいたい3時間くらいが経過してる。
日が照っているというのに、マキナはお構いなしに寝続けた。
「どうしよう……まったく起きないや」
しかし寝ている人を起こすのは申し訳ない。
しかもこっちはお願いをする立場だ。
自然と目覚めるのを待つしかなかった。
「ちょうどお昼だし、ご飯食べちゃお」
リュージはザックの中から、お弁当箱を取り出す。
パカッ……と弁当のふたを開けた、そのときだった。
ぐぅ~~~~~~~……………………。
と、ひときわ大きな、腹の虫が鳴いた。
リュージのものではなかった。
マキナの寝息でもなかった。
ではなんだったのか……?
「リュージ。いつの間にそこに現れた?」
どうやらマキナが目を覚ましたようだ。
リュージは慌てて立ち上がり、彼女のそばまで行く。
「こんにちは、マキナ。ついさっきです」
「ふむ……そうか。わがはいは少しの間、うたたねしていたようだ」
え~……とリュージは心の中で声を上げる。
いや、うたた寝ってレベルじゃなかった。
熟睡していたぞ、この人。
「なんだ? わがはいに何か文句でもあるなら言え」
「あ、ううん……。文句じゃないよ。ほんと」
「そうか。……して、リュージ。何をしに来た?」
マキナがリュージを見下ろして言う。
「えっと……マキナに」
ぐぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~………………。
「…………」
「なんだ、リュージ? 何をしに来たんだ?」
リュージが答えようとしたら、マキナが大きな腹の音を立てたので、中断してしまったのだが……。
「えっと……だから昨日の続き」ぐぅ~~~~~~~~「まだマキナに聞きたいこと」ぐぅ~~~~~~~~~~~「だから」ぐぅ~~~~!!
リュージは思った。
この人……めっちゃ腹減ってる!
マキナは表情の変化に乏しい。
だからリュージは気づくのが遅れたのだ。
さっきから、マキナがリュージの弁当箱を、ガン見していることに。
これはおそらく腹が減っているのだろう。
しかしなんと言えば良い?
女性に対してお腹すいてますかと尋ねて、果たして失礼に当たらないだろうか。
チェキータはいつも言っていた。
こういうときはストレートに言うのではなく、やんわりと、指摘するのだと。
「あの……マキナ」
「なんだ?」
「その……僕ちょっとお腹すいてるんだ。これからお昼ご飯を食べようって思っていたところだったのす」
「ほう、そうか」
「ええ。そこにマキナが起きてところだったんで……お昼がまだなんだ。どうかな、マキナ。一緒にランチしない?」
もとより友好をはかるつもりだったのだ。一緒に食事をすれば仲が深まるかも知れないとリュージは考えた。
……それとあなたお腹すいてますか? と聞くよりは、良いかなと。
「ふむ。そうだな。わがはいもちょうど腹が減っていたところだ。良いだろう、同席することを許可しよう」
ホッ……とリュージは安堵する。
「じゃあご飯食べたあとにお話しする感じで言い?」
「かまわないぞ」
そう言って、リュージはレジャーシートの元へと行く。
後からマキナがついてくる。
シートのところまでやってきた。
お弁当箱を見て……。
「ふむ。粗末な弁当だな」
マキナが弁当を見下ろして言う。
後ろに立つリュージは、初めて気付いた。
マキナには、お尻の辺りから、竜のしっぽが生えていた。
鱗は金色だ。
ドラゴンのしっぽが……まるでイヌのそれのように、ぶんぶんぶん! と激しく振って居るではないか。
「米を固めたものに豚の腸に肉を詰めてやいたものか……人間とはこんな畜生のエサみたいなものを食べるのだな」
ぶんぶんぶんぶん!
「ああ……えっと、結構おいしいよ。卵焼きとかすっごくおいしいんだから」
ぶんぶんぶんぶんぶんぶんぶん!!
「ふむ。まあ食べてやろうか」
マキナはそう言って、レジャーシートの上に、ちょこんと正座する。
リュージはそれを見て思う。
あれ……見た目より、怖い人じゃないかも……。
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