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119.息子、金竜とランチする【前編】



 マキナアビスと出会ったその翌朝。


 リュージはシーラ、ルトラ、そしてゴーシュ隊長と供に、ふたたび密林の中を歩いていた。


「みんな、暑くないか? しっかり水分補給するんだぞ。辛くなったらきちんと報告すること。いいな?」


「「「はいっ!」」」


 リュージの道案内で、ゴーシュたちはジャングルの中を歩く。


 今日も殺人的な太陽光線は健在だった。

 少し歩くだけで汗が噴き出てくる。


 ゴーシュがしっかりと休憩を挟み、そして水分補給を促す。


 周りをきちんと見れる余裕が、彼女には会った。

 すごいなとリュージは瞠目する。


「どうしたリュージ? そんなに見つめて」

「いえ……その、隊長はすごいなと、あこがれるなって思いまして」


「ははっ。ありがとう。嬉しいこと言ってくれるな」


 わしわし、とゴーシュがリュージの頭を撫でる。

 キレイな女性に触れ、かぁ……と顔が赤くなるリュージ。


 ……さて。


 なにゆえリュージたちが、この森を歩いているかというと、話は昨夜に戻る。


 リュージはマキナアビスと出会ったことを、冒険者たちに話した。


 マキナが現地人であること。

 祠があって、その奥に魔力結晶があるのではないかと。


 しかしそうなると疑問なのは、マキナがどうしてひとりでその島に住んでいるのか。

 そもそもシーラたちはそんな場所(花畑)を見てないというのはどういうことか?


 いずれにしろわからないことだらけだ。

 ゴーシュは再びマキナのいる場所まで行って、彼女から話を聞き出そうということになった。


 ゴーシュたちはあくまでも魔力結晶だけに用事がある。


 現地人のマキナの不興を買い、刃傷沙汰にまでいくのは、本意ではない。話が通じそうなら交渉するという方向らしい。


 よってリュージたちはマキナに詳しい話の聞き取り、および交渉を行うため、再びジャングルに来た次第だ。


 ややあって。


「リュージ。この辺りだったか?」


「はい。確かこの辺りからマキナの居る花畑へ向かったと思います」


 ジャングルに入ってだいぶしたところまで来た。

 リュージたちの足跡もある。

 やっぱりここで間違いなさそうだ。


 いったん休憩を取った後、リュージたちは、マキナの居る花畑へと進路を進めようとしたのだが……。


「リュージ! 止まれ!」


 背後からゴーシュの声がした。

 リュージは立ち止まって振り返る。


 少し離れた場所に、ゴーシュたちがいた。

 みな困惑しているようだった。


 リュージは慌ててゴーシュたちのもとへ行く。


「どうしたんですか、立ち止まって?」

「りゅーじくん……気付かなかったのです?」


 シーラが不安げにリュージを見上げる。


「気付かない? 何に?」

「……リュージ。ここ結界張ってある」


 ルトラがそう言って、右手を差し出す。

 ぺたっ、とルトラの手が、【何かに】触れた。


 ぐっぐっ、とルトラが右手を前に差し出す。

 あたかも壁か何かを押してるかのようなジェスチャーだ。


「みんな。下がって」


 ゴーシュが腰に据えた【ピストル】を取り出す。


 単発式のそれを、ドンッ! と撃つ。


 激しい音に、リュージたちは目と耳を閉じる。


 ややあって……リュージは目を見張った。

「なっ!?」


 ゴーシュの撃った銃弾が、空中で止まっていたのだ。


 ゴーシュは近づいて縦断に触れる。

 つまんでそれを取る。


 ペタペタと触れるが何もない。

【見えない壁】でもあるようだ。


「どうやら結界が張ってあるのは本当らしい」

「か、カルマさんの万物破壊なら壊せるのです……?」


「わからない。だがカルマ様は別件で手が空いてない。報告は夜。今は我々がすべきことをしよう」


 ゴーシュが爆薬を、シーラが魔法を試したが、結界を破壊することはできなかった。

 いろいろと攻撃を試みたが、結界は思った以上に頑丈だった。


「打つ手無しか……」

「あの……」


 リュージが手を上げる。


「どうしたリュージ?」

「僕が、いってきます。理由はわかりませんが、僕だけは結界を素通りできるみたいなので」


 リュージがそう言って、ひょいっ、と【見えない壁】をまたぐ。


 問題なくリュージは壁の向こうへと侵入できた。


「僕が言ってマキナと話してきます」

「ダメだ」


 リュージの提案に、ゴーシュが即答する。

 リュージはムッ、とした。


「……どうしてですか? 僕が、子供だからですか?」


「リュージ。君を怒らせてしまったのはすまない。別に君の能力を疑っているわけではない。そこは勘違いしないでくれ」


 ゴーシュがすぐさま頭を下げる。

 沸騰しかけたリュージの頭が、すっ……と冷静になる。


 ……リュージは何よりも、子供扱い、弱いもの扱いされることが嫌なのだ。


 ゴーシュに諭され、リュージは冷静さを取り戻す。

 そのタイミングで、ゴーシュが言う。


「リュージ。昨日は大丈夫だったが現地人のマキナがこちらの味方である保証はどこにもない」


「そ、そうなのです! 行ってぱくっと食べられちゃうかも! そんなの嫌なのですー!」


 ゴーシュの意見はもっともだ。

 だがしかし……。


「行かせてください。マキナは、話が通じる人でした。敵であるなら僕が行った昨日の時点で殺されてるはずです」


「まあ……それはそうかもしれないが……」


 ゴーシュが渋っている。


「大丈夫です。現地人との交渉、僕に任せてください」


 リュージはまっすぐに隊長を見て言う。


 みな、頑張っている。

 母も、頑張ってくれている。


 そんな中、ひとり子供のように、誰かに守られ、何もしないのは嫌だった。


「……わかった。リュージ。君の意思を尊重しよう」


 沈思黙考の後、ゴーシュが許可を出す。


 そう言って、腰の銃を、リュージに手渡す。


「もっていきなさい。護身用だ」

「いえ……交渉に、話を聞きに行くんです。これは必要ありません」


 ぐいっ、とリュージが押しかえす。


「しかしリュージ……。そうだな。お願いに行くのに銃はダメだな。悪い」


「いえ。じゃあ僕、いってきます」


 リュージはリュックサックを背負い直す。

 中にはお弁当などが入っている。


「りゅーじくん。だいじょうぶ……?」


 シーラが不安げにリュージを見上げる。

 

 リュージは「だいじょうぶだよ」と笑うと、シーラを元気づけるように、頭を撫でる。


「いってきます」


 かくしてリュージは、単身、マキナの元へと向かったのだった。


 

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