表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

210/383

118.息子、金竜と出会う【後編】



 無人島の密林の中、リュージは【マキナアビス】と名乗る女性と出会った。


「…………」


 リュージは目の前の女性を観察する。


 人間……だろうか?

 それにしては、妙な雰囲気を感じる。


 エルフ……でもないだろう。

 確かにチェキータと同じように、マキナの耳は尖っている。



 だがエルフの頭には、マキナのような角は生えていなかった。


 別の亜人種だろうか。

 あるいは、モンスターの化身ということも考えられる……。


 いずれにしても人間ではなさそうだ。

 

「どうした? 角があるのがそんなに珍しいか?」


 マキナがリュージの視線に気付いたらしい。


「じ、じろじろ見てすみませんでした。失礼でしたね」

「いや、わがはいは気にしない。それより質問に答えろ。角ありが珍しいか?」


 マキナの問いに、リュージがうなずく。


「……カルマは角を出してないのか」

「マキナさん?」


「なんでもない。気にするな」

「はぁ……そうですか」


 マキナが首を振る。

 どうにも何を考えてるのか、いまいちわかりにくい人だなと思った。


 カルマはわかりやすい。

 表情に思いがすぐに出る。


 チェキータはわかりにくいが、感情の動きはきちんとある。


 だが目の前のマキナという女性は……表情から読み取れる情報が何もない。無なのだ。


 常に目を開いている。

 まばたきひとつしない。


 トカゲのような、縦に割れた瞳孔が……少し怖かった。


「リュージ。次の質問だ。貴様は何をしにこの島に来た?」


 リュージはどう答えるか迷った。

 だが嘘を言って、後でバレたら、真実に到達できないだろう。


 リュージは正直に目的を話した。


「強大な魔力結晶……。そんなものはこの島にはない」

「えっ? な、ないんですか?」


 ああ、とマキナがうなずく。


「本当に魔力結晶を見たのか?」

「さ、さあ……。ただ、強大な魔力反応を示すものがあったらしいです」


 マキナは「……なるほど」とまたひとりで納得したようにつぶやく。


「だいたい理解した」

「そ、そうですか……。あのぉ……マキナさん」


 するとマキナが「マキナだ」と言う。


「さんは不要だ。使うな。敬語もやめろ」

「え、えぇ……それはちょっと……」


 年上のひとを呼び捨てにはできなかった。

「貴様の意見は求めん。わがはいが良いと言っているんだ。使うな」


「わ、わかったよ……マキナ」


 ふむ、とマキナが首をかしげる。


「次の質問だ。貴様はそこそこ礼儀がなっているな。誰に教わった?」


「えっと……家庭教師の先生がいて、その人に社会の常識とか、勉強とか教えてもらいました」


 邪竜のことや監視者のことは伏せながらも、真実を語るリュージ。


「……カルマは何をやっている。息子のしつけくらい自分でしろ」


「マキナ?」


「何でもない。気にするな」


 たまにマキナが小声で何かを言うのは、なんなのだろうか……?


「次の質問……」

「あの、マキナ」

「どうした?」


 リュージは恐る恐る手を上げて言う。


「僕もあなたに聞きたいことがあるんだ」

「ふむ。言ってみろ」


 リュージはうなずいて言う。


「マキナは……昔からここに住んでいる現地人なの?」

「肯定も否定もできないが、広い意味ではそうだな」


 なんだろうか。その引っかかる言い方は……。


「他に住民はいるの?」

「いない、と思う。わがはいはほとんどこの場から動かんからな。島の中のことはよく知らぬ」


 ……まるで島の外はよく知ってる、と聞こえたのだが、気のせいだろうか。


「えっと……ここを動かないって、マキナはここで何をしてるの?」


 マキナは「別に何もしていない」と答える。


「この地にて、この星が朽ち果てるまで……悠久の時をここで過ごす。それがわがはいの存在意義であり使命だ」


「……は、はぁ」


 抽象的すぎてよくわからなかった。

 一生この地から動かないということだけはわかった。


 しかしそれにしても妙な話だ。

 こんな閉じた空間で、死ぬまで動かないなんて。


 何か特別な理由がないかぎり、おかしな話である。

 ここに留まる、特別な理由が……。


 と、そのときだった。


 リュージは気付いたのだ。


 マキナの背後、花畑の奥に……。


「……ほこら?」


 石造りの祠があった。

 下へと続く階段もあった。……地下? 何かがあるのだろうか。


「あの、マキナ。後の……」


 と、そのときである。


「リュージ。急用ができた。わがはいは急いで向かわねばならない。話はこれで仕舞いだ」


 マキナが急に打ち切ってきたのだ。


「ほとんど動かないんじゃなかったの?」


「ほとんどと言っただろ。用事があるときは動く。言葉尻を捕まえて得意がるな」 


 厳しい言い方に、リュージは「ご、ごめんなさい……!」と素直に頭を下げる。


「……存外、まっすぐ育ったんだな」

「え?」

「なんでもない。わがはいは去る。ちょうどいい。貴様を砂浜まで送ってやろう」


 そう言って、マキナが指を鳴らす。


 びょぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!


 地面から突風……否、竜巻が吹き上がった。


 リュージが驚く間に、あっという間に地上から体が離れる。


 そして悲鳴を上げるまもなく、リュージは砂浜に立っていた。


「な、何だったの……?」

「りゅーじくん!」「リュージ!!!」


 密林の方から、シーラたちがリュージのもとへと駆け寄ってくる。


「良かったぁ……心配したのです」

「……森の中で急にリュージが消えたから、びっくりしたよ」


 ホッ……と安堵の吐息をつく二人とも。


「ごめんね、急にいなくなって」

「どこへいってたのです?」

「え、ああ……ちょっと」


 マキナの件を伝えようとして、あきらめた。


 リュージ自身、あの人が何者なのか、あのときのやりとりがなんだったのか、わからなかったからだ。


 ……また機会を見つけて、会いに行きたいなとリュージは思った。


 マキナの正体。

 そして、あの祠のことも……気になるから。

書籍版、コミックス好評発売中です!


続刊継続のためには、皆様のご協力が必要不可欠となります!

なにとぞ、よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ