118.息子、金竜と出会う【中編】
冒険者たちは、無人島脱出までの間。
本来の仕事である、巨大魔力結晶を探すことになった。
ゴーシュの指示で、冒険者パーティごとに行動することになった。
ひとりで散策は危険だという判断だ。
パーティごと散らばって、島の探索に当たる。
リュージたちは島の密林の中を歩いていた。
水着から洋服に着替えて、熱帯林の中を歩く。
「蒸し暑いのです~……」
シーラがうさ耳をパタパタさせて言う。それで涼を取っているそうだ。
「……ほんと。サウナの中みたい」
ルトラが煩わしそうにつぶやく。
「水着の方が良かったのです?」
「いや……それだと植物の葉で肌をきるかもしれないからね。それに虫もいるし」
リュージは先頭を歩きながら言う。
手に持っている剣をで、ばさばさと植物を狩りながら歩を進めていた。
背の高い植物に、見たことのない色をした虫。べたつく湿った空気。そのすべてが、経験したことのないものだった。
見上げると、木々の間から青空が覗く。
バサッ……! と母が翼を広げ、【敵】を探していた。
「…………」
母は、リュージたちを返そうと、必死になってくれている。
母ひとりに役目を押しつけているのが、申し訳なかった。それに悔しかった。結局まだ、自分は母の力に頼っている。
心のどこかで、母がなんとかしてくれる。
……リュージの心の中には、そんな弱い自分がいる。ダメだ。強くなるんだ。
母に頼らないで、強くなるんだ……。
そんなふうに、考え事をしながら歩いていた、そのときだ。
「わッ……! ま、まぶし……」
気付けばリュージは、開けた場所に出ていた。
先ほどまでは密集した木々によって、日の光が遮られていた。
だが今この場において……木は生えていなかった。
「広場……いや、お花畑、かな?」
足下に色鮮やかな花が咲いている。
どこかで見たことのあるような花だった。
……どこで見たのだろうか?
リュージは記憶の海をあさる。
だがいくら考えても、答えが見つからなかった。
「シーラ。ルトラ。この花のなまえ……って、あれ!?」
そこでリュージは、ようやく気付いた。
パーティメンバーたちが、近くに居ないことに。
「シーラ! ルトラっ! ど、どこー!?」
リュージは声を張る。
だがふたりからの返事はなかった。
リュージは慌てた。
いつの間に分かれてしまったのだろうか……と。
「大変だ! すぐに探さないとっ」
リュージは来た道を戻ろうとした……そのときだ。
「誰だ、人間……か?」
背後から女性の声がした。
ふりかえるとそこには……。
「えっ!? か、母さん!?」
そこにいたのは母、カルマアビス……。
「じゃ、ない。人違い……?」
にそっくりな、女性だった。
長身の女性だ。
見れば見るほど、母にそっくりな顔、そして体つきをしている。
だが細部が異なっていた。
まず彼女は金髪だった。
金の川が地面に向かって流れているようだった。
次に彼女は、側頭部から角を生やしていた。
牡鹿を想起させられる、樹木のように枝分かれした、とげとげしい角だ。
さらに、耳がとがっていた。
チェキータのように、尖った耳をしている。
そして最後に……。
「お、おっきぃ……」
目を見張ったのは、その巨大すぎる乳房だ。
リュージの記憶の中で、一番でかいのはチェキータのおっぱいである。
だが目の前の彼女は、それを凌駕するほどの、巨大な乳房をしていた。
「…………」
「人間。じろじろと見るな」
金髪の女性が、リュージを見て言う。
「ご、ごめんなさいっ」
リュージは反射的に頭を下げる。
チェキータもいっていたではないか。女性の胸をじろじろと見るのはマナー違反だと。
女は男が思っている以上に、男の視線に気付いているものだと。
「じろじろと失礼しましたっ!」
腰を曲げるリュージ。
その一方で……。
「…………」
金髪の女性は何も言わなかった。
罵声でも浴びせられると思ったのだが。
リュージはちらっと見上げる。
金髪の女性は、困惑しているようだった。
「ど、どうかしましたか?」
「……いや。人間のくせに、礼をわきまえているなと思ってな」
彼女にあって警戒心のようなものが、一瞬、緩んだような気がした。
「人間。ここは神域だ。人が立ち入って良い場所じゃない」
だから立ち去れ、とでも言いたいのだろう。
「そうだったんですね。ごめんなさい。すぐに帰ります」
リュージはうなずいて、きびすを返すと、戻ろうとする。
「まて」
女性が呼び止める。
「そういえば……おまえ、どうやってこの神域に入ってきた?」
女性はこちらに近づいていう。
「えっと……さぁ? 気付いたらここにいました」
考え事しながら歩いていたら、ここへとたどり着いていたのだ。
特に何かをしたつもりはない。
「…………」
金髪の女性は、リュージにいぶかしげな視線を向ける。
こつこつ……と足音を鳴らしながら、リュージに近づいてくる。
……近くで見ると、その胸の大きさに、圧倒させられた。
ジッ……と女性がリュージの目を見やる。
「……おまえ、あのときの」
ぶつぶつ、と女性がつぶやく。
「……そうか。だから結界を踏破できたのか」
「あの……もしかして僕、なにかあなたの不興を買うようなこと、していしまいましたか?」
リュージが恐る恐る尋ねる。
女性は首を振る。
「いや。おまえは何もしてない。安心しろ」
「そ、そうですか……」
それなら早くこの場を去ろう。
余り長居していい雰囲気じゃないし。
リュージは頭を下げて帰ろうとするが。
「待て」
ぐいっ。
「ぐぇっ」
リュージの襟を、女性が引っ張ってきたのだ。
「少し話を聞かせろ」
「な、なにの……?」
ぱっ、と女性が手を離す。
「おまえについてだ」
びしっ、と女性が指を向ける。
「は、はぁ……」
リュージは考える。
この場に居るということは、現地人だろうか。
そういえば冒険者たちが、カルマそっくりの誰かを見たと言っていた。
それがこの人だろうか。
邪気を感じない。
だから危ない人ではない……とは思う。
「リュージ。どうした?」
「あ、いえ……」
彼女が現地人だとしたら、いろいろと情報を持っているかも知れない。
接触を図るのもいいかもしれない。
シーラたちの行方は気になる。
だがシーラもルトラも一流の冒険者だ。
身に降りかかる火の粉は払えるだろう。
……だとしたら、リュージの役割は。
「わかりました。お話ししましょう。えっと……お名前は?」
すると女性は、リュージを見下ろして名乗った。
「マキナだ。マキナアビスという。マキナと呼べ」
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