117.邪竜、バーベキューする【後編】
食材と炭火の準備が整ったので、バーベキューが開始された。
コンロの上に具材が刺さった串が並ぶ。
じゅるり……とシーラが大量のよだれを垂らしていた。
ややあって、串焼きが完成する。
「それじゃあみんな。カルマ様に感謝して、いただこう!」
「「「カルマ様、いただきまーす!」」」
ゴーシュの音頭で、冒険者たちがいっせいに、カルマに笑顔を向ける。
母は照れくさそうにそっぽ向いていた。
コンロは冒険者パーティ分ある。
リュージたちのパーティも、炭で串焼きを作る。
「はいシーラ。この串良い感じに焼けているよ」
リュージが串を取って、紙皿に乗せ、シーラに手渡す。
「わーい! りゅーじくんありがとーなのですー!」
シーラのうさ耳が、ぱたたっと羽ばたく。
笑顔のシーラが、串を食べようとして……。
「あちっ、あちちちっ!」
焼いたばかりだからだろうか。
まだ暑いみたいだ。
「シーラ。それかして」
リュージは串をかりて、ふぅふぅ、と息を吹きかけて冷ます。
ある程度冷めた頃合いに、自分の恋人に、串を渡す。
「えへへ~♡ りゅーじくんありがとー。やさしーリュージくん……えへへ♡ だいすきっ♡」
シーラが顔を真っ赤にしながら言う。
リュージは照れてそっぽを向いた。カルマが砂浜に寝そべって「息子と嫁のラブコメいいねこれ!!」と録画していた。
「お、なんだリュージ。シーラとはそう言う関係なのか?」
ゴーシュが笑顔で、こちらに近づいてくる。
「ご、ゴーシュ隊長。いちおう……そうです」
「はいのです。お、おつきあいしてるのです……」
ふたりが顔をゆでだこにして、うつむく。
ルトラがむすっと機嫌悪そうにしていた。
「どうしたのです、ルトラ?」
「べ・つ・に!」
カルマの問いに、ルトラが顔をしかめて首を振る。
「ほうほう。そしてルトラはリュージのことが好きなわけだなぁ」
「「なっ!?」」
ゴーシュが楽しそうに言う。リュージたちは目をむいて驚く。
「ち、違うしっ! あ、アタシは……その……違うしっ!」
ルトラが激しく首を振る。
「まあまあ否定しなさんな。異性を好きになるのは自然なことだろ?」
ゴーシュがルトラの肩に手を回す。
「そ、そうかな?」
「そうさ。なぁリュージ?」
「え、ええ……まあ……その……」
3人供が恥ずかしがって黙ってしまう。
「いやぁごめんな。私恋バナすきなんだ」
「あの無駄肉と良いあなたといい、そんなに他人の色恋って気になるのです?」
カルマが近づいてくる。
その手にはこんもりと、山のように串焼きが積まれていた。
「ええ。楽しいじゃないですかっ?」
ゴーシュが笑顔で答える。
「はぁん。そういうもんですか」
「カルマ様は恋愛とかしたことないんですか? リュージを産んだってことは、誰かと結婚してたってことですよね?」
ゴーシュの踏み込んだ問い。
カルマは普段なら無視するだろうが。
「いえ、私はりゅーくんの本当のお母さんじゃないんですよ」
そう言って、カルマが自分の事情を語る。
……驚いた。
母が他人と、すぐに打ち解けていたことに。リュージは驚愕した。
「なるほどそうなんですね。カルマ様はリュージにとっての良いお母さんだ」
「ほ、ほほっ! あなた良いこと言いますね! もっとお肉食べなさい!」
母が上機嫌に、ゴーシュに肉を勧める。
知らぬ間に母とゴーシュの仲が深まっていた。
「いえ私は大丈夫です。リュージ、さっきから配膳ばっかであんま食べてないだろ? カルマ様からもらったらどうだ?」
冒険者の隊長を、ゴーシュは気さくで、よく周りを見ていた。
いろんな人が居るんだなぁと思った。
「そうですりゅーくん! お母さんのお肉どうぞ!!!」
そう言ってカルマが、串焼きを向けてくる。
「おっと暑いですね! よしお母さんがふーふーしてさまします!」
嫌な予感がした。
止める前に、母が思いきり息を吸い込んで。
びょぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!
カルマの吹いた息が、突風を起こす。
それはその場にものすべてを、吹き飛ばした。
みなが海水にダイブした後。
「はっ! りゅ、りゅーくんごめんねぇ~……」
「母さん……もう、力加減考えようね」
「ふぁーい……」
そんなふうに、楽しく、みんなで昼食を食べたのだった。
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