117.邪竜、バーベキューする【中編】
無人島でお昼ご飯を作ることになったリュージたち。
砂浜には冒険者たちが集まっている。
母の出したバーベキューセット、そして食材がこんもりと置いてある。
「よし手分けをしよう!」
ゴーシュ隊長が、冒険者たちに言う。
「料理ができるものは挙手。できないものは火をおこしてくれ」
「「「了解!」」」
リュージは料理ができないため、炭に火をつけるかかりになった。
コンロの前に移動する。
「ちょーーーーっと待ったーーーーー!」
母カルマがリュージの前に両手を広げて立つ。
「どうしたの?」
「火! 危ない! やけどしちゃう!!」
母が青い顔をして言う。
「大丈夫だよ。マッチで火をつけるだけだし」
母の出してくれたマッチを持って言う。
「手でしゅっとやったときにやけどしちゃうかも! あありゅーくんの白く滑らかな肌に傷がついたらああ大変だ大変だぁ!」
カルマがうぎゃーと騒ぎ出す。
「ということでりゅーくんはダメっ! お母さんが火をつけます!」
カルマはリュージを抱き上げると、ちょっと離れたところに移動。
そこには砂でできた玉座があった。
「なにこれ?」
「お母さんがちゃちゃっと作りした。さぁどうぞ!」
カルマはリュージをイスに座らせる。
だがリュージはイスから立ち上がる。みんなが働いている中、ひとり座っているわけにはいかない。
……それに、リュージがついてないと、母が何をしでかすかわかったもんじゃなかった。
「さぁってっと!」
あかん。カルマの目がキラキラしている。
これは危険信号だ。
こういうとき絶対にろくでもないことが起きる。
「みんな伏せてぇえええええ!」
カルマが「変身!」と邪竜になる。
ぐぐっ……と体を反らすと。
【とろ火ぃいいいいいい!!!!】
ごぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお…………………………!!!!!!
カルマの口から、すさまじい火力の炎が吐き出された。
炎の波が砂浜をさらう。
……一瞬で、砂浜にあったものが、消し炭になってしまったのだ。
「もうっ! 母さんってば! みんながやけどしちゃうでしょ!」
リュージが立ち上がると、声を荒らげる。
カルマは「ううごめんね……」としゅんとうなだれる。
「すげぇ」「カルマ様に注意してる」「リュージすげえ」
おおーっと冒険者たちが、なぜか感心している。なにゆえ……?
カルマは消し炭になったバーベキューセトッと食材を出す。
「母さんは火をおこしちゃダメだからね」
「うう……ふぁ~い……」
カルマがコンロから離れる。
リュージはマッチと紙を使って、炭火に火をつけようと苦戦する。
「どうしたリュージ? 難しいか?」
「ゴーシュ隊長」
やってきたのは黒髪の隊長、ゴーシュだ。
「どれ? かしてみな」
ゴーシュはテキパキと動き、あっという間に、炭火に火をつけた。
「すごいですゴーシュさん!」
「んなことないよ。みんな練習すればできるようになれるさ」
がしがし、とリュージの頭を撫でるゴーシュ。
格好いい……! と思うリュージ。
「むぅ~~~~~~~~~!」
……一方で、カルマが頬をぱんぱんに膨らませていた。
「お母さんだってできるのに……お母さんだって!」
ガバッ……! とカルマが立ち上がる。
「りゅーくん見ててッ! お母さんクッキングのお時間ですよー!」
カルマが食材の置いてある、レジャーシートの前に移動。
リュージは猛烈に嫌な予感がした。
カルマが張り切って何かをするときは、たいてい、ロクデモナイことが起きるからだ。
「まずは食材のカッティングから!」
カルマはレジャーシートを持ち上げると、
「そーい!」
シートまるごと、空に向かって放り投げたのだ。
カルマは手で手刀を作る。
「み、みんな伏せてーーーー!!!!」
力の限り、リュージが叫ぶ。
冒険者たちがそれに従う。
食材が自由落下し始めてくる。
「秘技! お母さんトルネード!!」
カルマは手刀をふたつ作った後、その場で回転する。
手を広げて回っている。それだけなのに。
びょぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!
「な、なんだぁ!?」「竜巻か!?」
カルマが回転したことで、嵐ができたのだ。
食材がスパパパパッ! と切り刻まれていく。
あの嵐の中には真空の刃が待っているようだった。
食材が良い感じにカットされていく。
「お次はこれです! お母さんダーツ! そりゃぁああああああああああああああ!!!」
カルマは万物創造スキルで、鉄串を作る。
それを指の間に挟み、腕を振りまくる。
目にもとまらぬ速さで、鉄の串が、雨あられと飛ぶ。
それらは正確に、宙を舞う食材を串刺しにしていった。
「ラストは……お母さんブラックホール!」
「はぁ!?」
カルマが両手を前に付き合わせる。
手の中心に、暗黒の球体が出現する。
ごぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!
「ひぃいいいいいいいい!」「す、吸い込まれるぅううううううううう!!!!」
どうやら母が作ったのは、手のひらサイズのブラックホールらしい。
食材に身ならず、その場にいたすべてが、カルマの手元に引き寄せられる。
空を舞い飛ぶ冒険者たち。
リュージもまた翻弄されていたが、なんとか空中で体制を整える。
永遠にも思えた時間。
一瞬にして、ブラックホールが消える。
みながグシャッ! と倒れる。
「はい完成! お母さん特製バーベキューですよー!」
テーブルの上には、串焼きが何十本も並んでいた。
「りゅーくんほらみんなで仲良く焼いてたべて~♡」
笑顔のカルマ。
それ以外の全員が、ぐったりしていた。
「おや? どうしたのです?」
「……もうっ! 母さんは力加減、考えてよねー!」
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